東京に、キッチンや玄関を“あえて大きくつくる”という通常とは正反対の発想で狭小を克服した、斬新なテクニック満載の家がある。
住人(アルジ)夫妻はともに建築家。小学生の子どもと3人家族だ。4年半前に建てた家は道路に面したテラスもある立派な外観だが、実は建坪はなんと、わずか7.5坪しかないという。7.5坪といえば駐車場1.5台分で、1人暮らし向けのワンルームとほぼ同じ広さ。しかもいびつな形で、さらに大きな擁壁(ようへき)があるため道路との高低差もある、いわば“三重苦”の土地だ。
中に入ると階段があり、地下が夫妻の仕事部屋になっていて、上が居住スペース。入り口から数段上がったところにある玄関は、なんと広々4帖もある。さらに階段を上がると、開放感あふれるリビングダイニングキッチンが広がる。このキッチンカウンターも大きく、壁の端から端まで、なんと5.5メートルもある。玄関もキッチンカウンターも建坪7.5坪にしてはずいぶんと不釣り合いな大きさだが、夫いわく「これは我々が考えた狭さを克服するためのテクニック」なんだとか。
以前は都内の賃貸マンションで暮らしていた住人(アルジ)一家。娘が小学校に上がる前に新居を計画するが、都内だと、予算内で購入できたのは高低差・変形・狭小という三重苦の土地だった。そこで建築家夫妻が逆転の発想で編み出したのが、従来とは異なる狭小克服の“シン・テクニック”。その1つが「あえて大きくつくる」こと。住んでいる本人たちまでも“広い空間だと錯覚させる”効果を狙うというものだ。実際に妻は「帰ってきて玄関がすごく広いので、それだけでも気持ちがいい」と話し、娘も友達から「玄関を見たときに『豪邸みたい』って言われた」というほど、効果てきめんなのだ。
広いキッチンは収納も大容量。レンジフードは天井ではなく壁付けにして、頭の上をすっきりとさせている。また、足元の扉の中にはたくさんの調味料とともに、なぜかスイッチが隠れている。その理由は……スイッチの大きさはどこも同じなのでコンパクトな家では一般的なスイッチが相対的に大きく見えてしまうため、なるべく隠して「比較させない」ことが新しいテクニックなのだという。
リビングの開口部も、2.2メートル×2.2メートルとあえて大きくしている。開口部はフルオープンが可能で、その先のテラスを道路側に向かって大きくせり出すことで、外からの視線が気にならないようにしている。テラスの目の前にあるのは、娘が通う小学校。実は狭小克服のシン・テクニックとして、広い校庭を“借景”にしているそう。
上の階は将来は娘の部屋になる予定の、家族の寝室。その隣はトイレと洗面を兼ねたスペースで、さらに隣は浴室になっている。浴室は7.5坪に収めるため、苦心してL字型にしたという。狭い洗い場の後ろには、なぜか階段があり……上がった先は、見晴らしのいい屋上。頻繁に上り下りするわけではないので、階段は防水加工して浴室の一部にしており、階段を洗い場として活用することもできるのだ。
玄関の隣にあるのが、シアタールーム。夫妻で映画を楽しむための部屋で、建坪7.5坪でも諦めなかった趣味のスペースだ。だが、日中は外光が明るくテレビ画面が見えづらいのが想定外だったそうで、自分たちで暗幕を作った。
この家の住み心地について、妻は、非日常的な雰囲気もあり、落ち着く空間でもあるとして「すごく快適に過ごしています」と言い切る。また夫は、狭小を感じさせないテクニックには見栄えや錯覚だけではない理由があると言い、「日常だけのための家を設計しても多分つまらないと思うんです。そこにふと非日常を感じられる場所を設けると、生活が豊かになると思っています」と明かす。
テクニックとアイデアで、狭さを悲観するどころか克服し、さらに逆手にとった家。果敢に挑んだことで手にした豊かさを感じる暮らしがそこにはあった。(MBS「住人十色」2024年5月11日放送より TVerでも放送後1週間配信中)
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