TSKと山陰中央新報のコラボ企画「カケル×サンイン」。共通のテーマをテレビと新聞それぞれの視点で掘り下げます。
田中祐一朗記者:
今回のテーマは、この夏起きたコメ不足の問題です。6日の山陰中央新報の紙面でも異なる視点からお伝えしています。2回めの今回は、生産や流通の現場でコメ不足の影響について探りました。
新米のシーズンを迎えた9月中旬、松江市内の米穀店を訪ねました。
藤本米穀店・藤本真由社長:
これは2023年で販売価格が500円だったかな。2024年は新米で90円の値上げになってます。
この店では、仕入れ価格の上昇分を販売価格に上乗せ、値上げに踏み切りました。
藤本米穀店・藤本真由社長:
うちは等級は関係なく、同じ値段で買ってて、この買い支えるということが大事だと思う。
家計にとって厳しい値上げですが、値上ができなければ逆に農家が苦しむことになると専門家は指摘します。
東京大学大学院農学生命科学研究科・鈴木宣弘特任教授:
上がってると言っても農家にとってはやっとトントンか、まだ赤字くらいなんです。そのことは消費者にも理解していただきたい。ただ一方で、あまりにも主食のコメの価格が上がったら消費者も苦しくなる。だからそれはしっかりと財政出動をして、農家の赤字を補填することで価格が上がりすぎないようにする必要がある。
農業経済が専門の東京大学大学院の鈴木宣弘特任教授は、家計と農家の経営の両方を支えるため、今こそ国の支援が必要だと主張します。
2024年の秋、JAが農家から米を集荷する際に前払いする概算金は、島根県の場合、コシヒカリで60キロあたり1万6800円。2023年に比べ4600円、約40%増額されました。肥料や農機具などの資材が高騰しているのに加え、全国的なコメの品薄を受けて、農家にJAへの出荷を促し、供給量を確保するのが狙いです。概算金としては2003年産の1万8000円以来となる高値に、農家は…。
約250ヘクタールの水田を持つ松江市の農業法人の吉岡雅裕社長。概算金の引き上げを歓迎します。
この法人では、作付けをやめた農家から田んぼを預かり農地を拡大、大規模化による効率的なコメづくりを目指していますが、この大幅な引き上げがあっても経営は厳しいといいます。
ライスフィールド・吉岡雅裕社長:
今いろいろな諸経費(燃料、肥料など)が値上がりしている。やはり社員たちを年間雇用するためには、最低でも今並みの米価水準が必要。その点では米価が上がってこれが安定的に続いていけばいいと思っています。
農家を守るためやむを得ない概算金の引き上げですが、店頭での価格にもいずれ跳ね返ることになります。コメ不足に端を発した概算金の引き上げ、影響はほかにも…。今回の大幅な引き上げは、コシヒカリやつや姫などの銘柄米が中心。食用米より高かったもち米や酒米など、加工用のコメの引き上げ幅が抑えられました。食用米に比べて栽培や流通の管理に手間がかかる酒米は、概算金も高く設定されていますが、食用米の大幅な引き上げで価格が逆転し、2025年以降、食用米に転換する農家が増えれば、酒米の生産量が減少すると酒造関係者は警戒しています。
李白酒造・田中裕一郎社長:
食べる品種の買い取り価格が上がってるので、そうすると酒米が上がらないと、酒米を作る人にも、酒米を作っても儲からないという品種になってしまう。酒米も大事なお米だと思って、少し気にかけてほしい。
酒米の争奪戦になり、供給不足で価格も上がれば、酒蔵にとっては死活問題です。
ライスフィールド・吉岡雅裕社長:
「農家は割とすぐ価格が高い方になびきますので、だけどそのあたりを安定的になるように、行政が調整してほしい。
国に対し、一貫した対応を求めます。
東京大学大学院農学生命科学研究科・鈴木宣弘特任教授:
コメ農家には、酒米を出す場合には上乗せ金を払いますなど、これからは出口調整、販売調整、そこに財政出動してしっかり需給が回っていくようにする。そういうふうに政策の方向性を変える必要がある。
専門家も、需給のバランスを保つうえで、国の積極的な関与が必要だと指摘します。
猛暑などの異常気象、生産コストの上昇など今まさに直面する課題、そして後継者不足や長年の政策による生産力の低下など長いスパンで対応が必要な課題。
「令和のコメ騒動」は、日本のコメを取り巻くさまざまな問題を浮き彫りにしました。
田中祐一朗記者:
新米が出回るようになって、極度の「コメ不足」は解消されそうですが、価格が高い状態は続きそうです。コメがこれからも主食である限り、私たち消費者もコメを取り巻く様々な問題と決して無関係ではありません。
コメをめぐる問題について、私たちも理解を深めていく必要があると言えます。
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