(ブルームバーグ):日本銀行による利上げや今夏の株価の乱高下を経て、不動産価格はどう推移しているのか。今は買い時なのか。専門家からは都心の高級物件の価格が堅調に推移する見通しの一方、価格帯によっては衰えが見え始めているとの声が上がる。

識者の話を総合すると、麻布・青山・赤坂の頭文字をとった「3A」エリアに代表されるような都心の高級物件では活発な取引が続きそうだ。不動産データ・コンサルティング会社の東京カンテイ(東京・品川)の井出武上席主任研究員は、利上げ幅は富裕層の買い控えにつながる程ではないと指摘する。短期的な転売によるキャピタルゲインは見込みやすい情勢だ。

豊洲のマンション

データからも堅調ぶりが見て取れる。東京カンテイの24日の発表によると、8月の東京23区の中古マンション価格(70平方メートル換算)は、前月比2.6%増の7750万円だった。

けん引役の都心6区(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、渋谷区)は、同3.9%増の1億2756万円に上る。3カ月連続で1億円を超え、この5年間で約5000万円高くなった。

豊洲や勝どきなど湾岸エリアを中心に不動産売買を仲介するFJリアルティの藤田祥吾社長も「買い」を顧客に勧めている。新規購入の相談は引き続き多く、利上げを理由に購入検討をやめた顧客はいないという。同社の調査では、8月の成約価格は17カ月連続の上昇となった。

家賃目当ては慎重に

ただ今後も金利が上がるとすれば、家賃収入が目当てのインカムゲイン型の場合は慎重な見極めが必要だ。

日銀が7月に追加利上げを決めた後、大手銀行は変動型の住宅ローン金利に連動する短期プライムレートを軒並み引き上げた。20日の金融政策決定会合では追加利上げを見送ったものの、経済や物価の見通しが実現すれば利上げを継続する考えを改めて表明した。

東京カンテイの井出氏によれば、インカムゲイン型は5%の利益率が理想とされる。ただ、コスト増を賃料に上乗せするハードルは高い。不動産投資ローンの金利上昇が負担になるとの見方が広がれば、賃貸用不動産の取得に慎重になる動きが出てくる可能性があるという。

葛飾区はマイナス

また富裕層向けではない価格帯への投資には注意が必要になりそうだ。不動産の仲介や相続のコンサルティングを提供するあゆみリアルティサービス(東京・中央)の田中歩代表によると、売買が活発なのは2億円を超えるか5000万円を下回る物件で、その間の価格帯は動きが鈍い。

価格の伸び率も高級物件に比べてなだらかだという。この価格帯は居住用の購入を検討する「実需」層も含め、手が届きにくい物件が増えているためだ。23区内でも地域によっても優勝劣敗がつき始めている。

 

不動産情報サービスを提供するワンノブアカインド(東京・港)のマンションレビューによると、東京23区内の8月の中古マンション価格(70平方メートル換算)は港区や中央区などで前年同月から3割程度上昇した。一方で、大田区や板橋区、葛飾区は微減となった。3区とも3年前と比べれば1割近く上昇しているが、直近では勢いが見られない。

株価影響は様子見

日経平均株価は8月5日に前週末比4451円28銭(12.4%)安の3万1458円42銭で取引を終え、1987年のブラックマンデーの下げ幅を超えた。その後は持ち直し、直近では3万8000円前後で推移している。中古マンション価格は株価に連動するとされるが、この間、不動産価格には激しい動きは見られなかった。

 

田中氏によると、不動産価格は日々の値動きよりも3カ月や6カ月といった中長期の移動平均に強く相関する。ただ、その傾向も近年は弱まり、強く反応するのは都心のエリアと高価格帯の物件がメインとなっている。投資目線を持つ富裕層が、一定期間のトレンドを見て購入の判断に役立てているためとみられる。井出氏も「不動産の売り買いはすぐにできるものではない上に、一過性の変動なのかどうかを見極めようとする意識が働きやすい」と話す。

とはいえ、どんな物件でも必ず大きな利益が出る時代は終わったようだ。

国土交通省の不動産価格指数(2010年=100)によると、最新の今年5月時点で都内のマンション価格(主に中古が対象)は10年から倍になり、戸建ても1.34倍となった。上昇が始まったのは13年頃からで、12年12月に発足した第2次安倍政権による金融緩和がきっかけだった。

田中氏によると、恩恵が大きかったのは「低迷期の11年頃から5年ほど前までに購入した人たち」だと指摘。今から購入する場合は、リノベーションによる差別化など、魅力ある物件にしていかないと「大幅な利益は見込みづらくなっている」と田中氏は話す。

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