【スタートアップ】鳥獣被害に悩む農家、ハンター、ジビエ(野生鳥獣肉)を購入したい飲食店の3者をつなぎ、鳥獣を駆除する一方で、流通量の少ないジビエのニーズに対応する「Fant(ファント)」(十勝管内上士幌町)。代表取締役の高野沙月さんにDXで変わる狩猟業界などについて聞きました。
東京でジビエのおいしさに感動 銃の所持許可と狩猟免許を取得
――Fantのサービスについて、教えてください。
Fantはウェブプラットフォームです。全国のハンター さんと、ジビエを買いたい飲食店さんと、鳥獣被害に困っている農家さんをつないで、ジビエ の流通から、有害鳥獣駆除まで手がけるプラットフォームになっています。
――ご出身は どちらですか?どういった学生時代でしたか?
十勝の音更町出身です。子どものころは絵やデザインが好きで、高校では美術部に入って油絵を一生懸命描いていました。東京の大学に進学し、美術やデザインを勉強しました。
―― 大学卒業後、就職はどうされましたか?
東京に残ってデザイン会社でデザイナーとして働いていました。
――動物やハンターの話に 全く結びつきません。(今の仕事を始める) きっかけは?
たまたま友達と飲みに出かけて、ふらっと入ったお店 がジビエ専門の居酒屋さんでした。そこで初めてジビエを食べた んです。シカ、イノシシ、カモを食べて、おいしさにすごく感動しました。ふと店内を見渡したら銃のレプリカが飾ってあり、それを見てビビッ ときて、「これを持てばジビエが食べ放題なん だ」って思ったんです。銃を持ちたいって思って 、どうすればハンターになれるのか、猟銃を持てるのかをネットで調べて、東京で銃の所持許可と 狩猟免許を取りました。
東京では難しいと、十勝に戻り、本格的に始めた狩猟
――行動力がすごいですね。狩猟免許の取得は難しいのですか?
いや難しくはないです。手続きを踏んでペーパー テストを受ければ、だれでもほとんど取れます。最近は全国的に狩猟免許を取る若い人がすごく増えています。
――保管場所についての聞き取りがあるという話も聞きます。
銃を使って狩猟をするなら、猟銃の所持免許が必要になります。 警察から身辺調査を受けたり、病院で診断書を書いてもらったりする手続きが必要になります
――東京ではどの辺りで撃つんですか?
それが困りました。 東京でシカやイノシシを取ろうとしても、その辺にいないじゃないですか。狩猟はなかなか東京では難しいなって思って、北海道に戻ろうと思いました。
――仕事ではなく 、趣味で始めた狩猟のため地元に戻ったのですか?
そうなんです 。
――仕事のことは頭によぎりませんでしたか? 地元に帰って仕事はあるかなとか。
当初は上士幌町にJターンで行きました。町役場で地域おこし協力隊として採用していただき、町のデザインのお仕事をしました。ポスターや、ふるさと納税のパンフレットを作っていました
――戻ると、東京にいたときより、狩猟に没頭する時間は増えましたか?
そこら辺にシカがたくさんいます。だから仕事が終わった後や週末に山に行くこともでき、本当にぐっと身近になった感じはありました。
デジタルの力で、若いハンターが活躍できる環境を整えたいと起業
――そこから 会社を起こされるのは、どういったきっかけやタイミングがありましたか?
上士幌町に移住して、狩猟を始めて、 自分みたいな若いハンターが周りにたくさんいると実感しました。狩猟業界って古くから続く業界なので、どうしても伝統的になり、今の若い人たちにはちょっと難しく、合わない場合もあると感じていました。そこで若い人たちがもっと楽しみ、活躍できる環境を作りたいと会社を 立ち上げました。若い人たちが狩猟を始めるとなると、師匠的な人、先生みたいなハンターと知り合って仲良く なってやっと教えてもらえます。そのハードルがすごく 高いというお話を聞いていたんです。そこをデジタルの力で解決できないかなというアイデアがありました。
―― 東京にいたら分から なかったことですよね。十勝に戻ってきたからこそ、上士幌に住んでみたからこそ分かったことなのではないですか。
自分の体験で気づきました。
ハンターを必要とするのは鳥獣を駆除したい農家と、ジビエがほしい飲食店
――会社はどんなサービスから始めましたか?
当初はFantという プラットフォームで、全国のハンターたちが登録し、 情報交換をするSNSのようなものを運営していました。 たくさんのハンターさんに登録していただき、人の情報を見たいというハンターさんはたくさんいましたが、発信する人が少なくて、なかなか需要と供給がマッチしませんでした。 ハンターの活動の需要はどんなところにあるのだろうと考え、思い当たったのがジビエを買いたい人、鳥獣被害で困って駆除してほしい人でした。
――実際始めて、どうでしたか?
ジビエはかなり需要 あることが分かりました。シカやイノシシはネットでも結構買えます。供給は割とありますが、それ以外のニッチなジビエ、例えば、カモや野ウサギなどのジビエはシェフの方々には需要があるものの、供給側、つまりハンターに情報が届いてないことが分かりました。
――ハンターがジビエを取ったとき、買いたい レストラン側とFantでマッチングする 感じですか?
どちらかというと、ほしい側からのオーダーですね。飲食店さんから「今、こんなのをほしい です。だれか取って来てくれませんか」というオーダーを出します。それをFantに登録しているハンターさんに発信して、「これをやる人は誰かいますか」と募集をかけます。 「自分がやります」という人 とマッチングし、ハンターさんは取りに行く形になります。
深刻な鳥獣被害 実証実験で浮き上がった農家の期待
――もう一つの大きな プレーヤーは農家さんです。 鳥獣被害を受けている農家さんはサービスを始めた当初、どうでしたか?
サービス始めたのは昨年の秋。まだ需要 がどこまであるのか、分かっていなかったので、札幌市さんと共同で実証実験をさせていただきました。1カ月間 の実証実験が終わった後も、(報じる)新聞を見 て、自分も使いたい、自分も使いたかった―みたいな声がうちの会社に結構届きました。
――農家さんがほしかったサービスだったということですよね
そういう ことが分かって本当に良かったなと思います。
――農家さんは札幌だけではなく、他の地域の方も参加できる形になっていますか?
有害鳥獣駆除は、そのまちの農家さんとハンターさんじゃないとなかなかできないところがあって、自治体さんと協業して自治体さんにサービスを導入していただき、まちのハンターさんと農家さんに使ってもらう取り組みを進めているところ です。
北海道のジビエは東京、京都、名古屋など本州の都市部で人気上昇中
――レストランさん、農家さん、そしてハンターさんの3つを Fantというサービスがつなげている実感はありますか?
はい、あり ます。やはり飲食店さんの需要もどんどん増えてきています。札幌 の飲食店さんによく使っていただいていますが、最近は東京など首都県を中心に京都、名古屋などの需要がはかなり伸びてきています。特に本州の都市部で人気になっています。
――お仕事されて、一番うれしかった こと、喜んだことは?
Fantをご利用いただいている飲食店さんに行って食事をすることがあります。その中で、お客さんがジビエを食べて「おいしい 」とか「ジビエってこんなに おいしいんだ」と感想を言っているのを見るとすごくうれしく、やりがいを感じます。
幅広く多くの人を巻き込み、若いハンターが活躍でき、狩猟を楽しめる社会に
――会社を経営する中で、ボスとしてどういうことを大切にしていますか?
狩猟業界をDX(デジタルトランスフォーメーション)化して、今、増えている若いハンターさんたちがもっと活躍し、狩猟をもっと楽しめる社会を実現したい―というのがFantの理念です。その理念を、一緒に働くスタッフにも共有してもらい、同じ目的に向かって一緒に歩んでいくことをボスとして大切にしています。
――どういう ことを未来に描いていますか?
ハンターに求められる役割はこれから どんどん増えていくと思います。毎日のようにクマなどの鳥獣被害がニュースになるように、ハンターはいなくてはならない存在で、これからもどんどん若い人たちがそういったニュースを見て参加する人が増えていくのではと思っています。彼らをサポートして、現場で活躍できるようにしてあげるのがFantの役割だと 思っています。そのためにも、 飲食店さんや自治体 さんなど、いろいろな人を幅広く巻き込んでいくのが、これからのFantのやるべきことだと考えています。
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