(ブルームバーグ): 日本銀行が金融政策判断で重視する消費者物価の基調的な上昇率の重要な要素である、企業の中長期のインフレ期待が一段と上昇している。

  日銀が1日に発表した6月の企業短期経済観測調査(短観)の「企業の物価見通し」によると、企業が想定する消費者物価指数(CPI)の前年比上昇率が平均で1年後2.4%、3年後2.3%、5年後2.2%と2%台を維持。3年後と5年後はそれぞれ前回の3月調査から0.1ポイント上昇し、2023年3月調査以来のプラス幅拡大となった。5年後は調査開始以降の最高を更新した。

  短観では、販売価格判断DI(上昇-下落)と仕入価格判断DI(同)の上昇超幅が拡大。原材料価格の上昇や円安を価格に転嫁する動きが、企業のインフレ期待を高めた可能性がある。植田和男総裁は6月の金融政策決定会合後の記者会見で、企業の賃金・価格設定行動が積極化している下で、過去に比べて「為替の変動が物価に影響を及ぼしやすくなっている面があることは、意識しておく必要がある」と述べた。

  足元の円安加速もあり、市場では7月30、31日の金融政策決定会合で日銀が国債買い入れの減額計画と同時に追加利上げを決めるとの思惑が広がっている。日銀では追加利上げについて「経済・ 物価の見通しが実現し、基調的な物価上昇率が上昇していくとすれば、金融緩和度合いを調整していくことになる」と説明しており、会合に向けて物価の基調を入念に点検することになりそうだ。


  みずほ証券の高瀬智司マーケットエコノミストはリポートで、短観における企業の物価見通しの上昇を踏まえて「あくまで小幅な上昇ではあるものの、日銀が追加利上げを検討する一つの材料となり得るだろう」との見方を示した。日銀は今月会合で、新たな経済・物価情勢の展望(展望リポート)を議論する。

  一方で、短観では原材料やエネルギーコスト高などを背景に、高水準を続けてきた大企業非製造業の業況判断DI(良い-悪い)が小売りなどを中心に4年ぶりに悪化した。個人消費は国内総生産(GDP)統計で4四半期連続のマイナスとなるなど、力強さを欠く状況が続いている。インフレや人手不足を背景に高水準となった今年の賃上げを企業が価格に転嫁していけるかは、個人消費の動向も鍵を握る。

--取材協力:関根裕之.

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