トラック運転手の残業時間の上限規制に伴って生じる、いわゆる「2024年問題」について考えます。
トラック運転手の残業時間はこれまで事実上、上限がありませんでしたが、働き方改革関連法に基づき、2024年4月1日から、年960時間に規制されました。
2024年問題とは、残業時間の上限を規制することによって生じる、物流への影響などを意味します。
残業時間に上限が設定されたとはいえ、この960時間という数字は、ほかの業種と比べるとかなり長くなっています。
そもそも、トラック運転手の残業時間が長いのは、運送会社に仕事を回す荷主との関係による所が大きかったということです。
大手運送会社を取材しました。
125台のトラックとほぼ同じ数の運転手を抱える、セイコー運輸。鹿児島県トラック協会の会長も務める鳥部敏雄社長は、運転手の残業時間の増大は34年前の規制緩和がきっかけだったと振り返ります。
セイコー運輸・鳥部敏雄社長
「平成2年(1990年)の物流二法による規制緩和で、当時全国で4万5000社だった運送会社が6万社まで増えて過当競争に陥った。その中で仕事の確保のため、運送業界が過剰サービスに入ったことが、現在の長時間労働につながっていると考えられる」
鳥部社長が語る過剰サービスとは、「荷待ち」と呼ばれる長時間の待機や、下ろした荷物の「ラベル貼り」、商品を店内に並べる「棚入れ」など、本来の運送業務とは関係のないサービスを指します。
運送会社も、この過剰サービスをやめるため、荷主と協議するようになりました。
鳥部社長
「荷主側にとって今まで『当然』だったことが『違うよ』という話になるので、抵抗はある。けれどちゃんと元の形に戻すことが今我々がすべきこと」
運転手の長時間労働は、そもそもは運送会社のサービス争いの激化の中で生まれていったということが言えます。そのため運転手の労働時間を減らすための取り組みとして、まず挙げられるのが過剰サービスの停止です。
運送会社と荷主の間での協議に加え、国土交通省も対策に乗り出しています。
2023年7月、職員162人から成る「トラックGメン」を設置して、この過剰サービスへの監視を強化、悪質なケースでは社名公表も行うことにしています。
さらにもう一つの対策が「モーダルシフト」です。志布志市で取材しました。
志布志港に停泊しているフェリー「さんふらわあ」に次々と入る大型トラック。残業時間圧縮のためトラック業界で活用の機会が増えているのが船便です。
これまで陸路の往復だけで行ってきたトラック運送に、船舶や鉄道を絡ませるモーダルシフト。2024年問題に対応するため、セイコー運輸では関西方面への野菜の輸送に、さんふらわあを使うようになりました。
これまでの往復トラックによる輸送から、往路にフェリーを使うことで運転手の休憩時間を確保します。
勤務時間にどれだけの違いがあるのか、トラックの走行状況を示すデータを見せてもらいました。
セイコー運輸・飛松達也総務部長
「走行していない時間が全部休息時間となる。フェリーを使わなかった時の運行は40時間ぐらい。フェリーを使った運行は30時間になって、10時間の労働時間短縮になる」
フェリーを活用する運送会社が増えているため、予約が取れないこともあるといいます。
しかし、モーダルシフトには効果の一方で課題も。
セイコー運輸・鳥部社長
「5割ぐらいコストが上がっている。事業継続のためには、そのままの状況は続けられないので、運賃値上げのお願いをしながら、県や国に助成をお願いしている」
過剰サービスをやめたり、モーダルシフトを取り入れたり、あるいはデジタル技術を活用して業務の効率化を進めるなど、残業時間を抑えるために、今、様々な取り組みを進めています。
トラック運転手の働く時間が減ることで、私たちにはどんな影響がでるんでしょうか?物流業界の現状に詳しい物流コンサルティングNX総合研究所の金澤匡晃マネージャーは「2024年問題への対応が行われなかった場合」の最悪のケースを次のように分析します。
NX総合研究所・金澤匡晃マネージャー
「時間外労働の上限規制が960時間になり、それ以上働いて運んでいた貨物が運べなくなる。どれくらいの量かというと、(2024年は)今運ばれている貨物の14.2%が運べなくなる。さらに2030年までを考えるとトラックドライバーが減っている傾向があるので、今運んでいる貨物の34.1%、実に3分の1の貨物が運べなくなると言われている」
そのような事態になると、農業県である鹿児島の農畜産物は、行き場を失う恐れも出てきます。
セイコー運輸・鳥部社長
「鹿児島は農畜産県。その生鮮の物が都市部に届かないということになるので、東京や大阪のスーパーマーケットに生鮮野菜が並ばなくなる可能性がある」
金澤さんが対策として挙げるのが、トラックドライバーの待遇改善です。
NX総合研究所・金澤マネージャー
「(トラック運転手不足は)労働時間が長い割に賃金が低いのが大きな問題。労働時間を短くするだけではなく、賃金が上がっていく方向。きちんとした適正運賃をできるように、取引関係を正常化していくことがもう一つ大きなポイント」
2030年には、最悪ケースで今の3割減という驚きの結果。
2024年問題への対応がうまくいかなかった場合、運送需要が拡大する2024年の年末ごろから、実際に品不足を実感するようになるのではないか、というのが運送会社、シンクタンク、そして行政も一致した見立てです。
さらにモーダルシフトによる運送コストの上昇や、金澤さんが対策として挙げていたトラック運転手の賃金アップが実現すれば、運送料の値上げにつながることも予想され、それは店頭に並ぶ商品の値上げにつながることになります。
物価高騰が続く中でさらに値上げとなれば、当然私たちにとって大きな負担となります。
経済や生活に直結する2024年問題の今後の推移から目が離せません。
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