長引く「円安」や、今年3月の日本銀行による金融政策の転換。今、日本の金融環境は歴史的な変化が起きています。17年ぶりの利上げをきっかけに「金利のある世界」に戻りつつある今、私たちの生活はどうなっていくのでしょうか。また、銀行の新たな生き残り戦略は。りそなホールディングスの南昌宏社長がJNNのインタビューに答えました。

どうなる?金利のある世界

──これまで日本では、超低金利が続いていてきました。そこから(3月の日銀による利上げをきっかけに)「金利がある世界」になると今後ビジネス面でも多くのことが変わってくると思います。今後をどのように考えていらっしゃるか教えてください。

まず、「金融政策の正常化に向けて入口に立った」という状況だと思いますけども、我々のビジネスにとっては基本的に追い風になってくるというふうに思ってます。

一つは、やはり国内の預貸金利益、中堅・中小企業・個人の皆様への円滑な資金提供というものをしっかり支えていくっていうこと。それから、これまでなかなか短い期間、5年債とかや中期債と言われているJGB(国債)のところに投資妙味(投資する醍醐味)がほとんどない状況が続いてたんですけども、ここに投資ができる状況になってきているっていうことが大きなポイントになってくると思います。

それから我々のビジネスで申し上げると、お客様の困りごとや、社会課題の起点を軸にもう一回、自分たちのビジネスを再構築しようという文脈の中で、これまで取り組みを強化してきた。その結果が、少しずつ出始めているところに、3月19日に金融政策の転換があって、少し、それが追い風、フォローの風になっていくっていう状況が深まってきている。そんな感じかなというふうに思ってます。

──金融業界での「追い風」という言葉はわかりやすいなと思ったんですけれども、具体的にこういう挑戦をしていきたいという思いはありますか。

まず、本当に我々はリテールNo.1を掲げてますので、中堅・中小企業・個人の皆様への円滑な資金提供、それからお客様の困りごとを起点として我々のコンサルティングビジネスをより深めていくっていうことが、本当にポイントだと思ってます。

──コンサルティング型で地力もついてきたというお話もいただきましたが、やはり「フィービジネス(手数料ビジネス)」と「双発型」で進めていかれるのでしょうか。

そうですね。2つのエンジンがようやく動き出すというタイミングに来たと思っていますので、それをしっかり結果に繋げていくってことが大事かなと思います。

──「双発型」についても詳しく聞かせてください。

まず本当に国内の預貸金利益ですね。一つは「預金の価値」。金利がついたことで、これまで以上に重要性が増してきている。

そして我々は元々安定的で粘着性の高い預金をベースに、(つまり)リテールの預金っていうものをしっかりベースに、どうやって運用していくのかっていうバランスシートマネジメントの中で当然生きてきた金融機関ですので、預貸率が低かった。

これってやはりどうしても運用サイドが金利が潰れていたりっていうことで投資妙味(投資する醍醐味)が薄かったっていうことが一つ大きな課題だったんですけども。これが少しずつ解消されてきているっていうのが今の状況かと思います。

なので、中期債を中心とする有価証券のところの復活もありますし、もとより国内の預貸金利益の強化、それからコンサルティングビジネスを強化していくことが、これからのビジネスを加速させていく上で大きなポイントだと思ってます。

──金利が上がることで中小企業の資金繰りが厳しくなるのではないでしょうか。インパクトは小さいとお考えですか。

まず金融政策の正常化に向けて、第一歩を踏み出した状況で、さほどマーケット金利が上昇しているわけでもありませんし、それから短期プライムレートがまだ動いている状況にはありませんので、大きなマイナスインパクトっていうのは、まだお客様に出ているっていう状況ではないと思います。

それから、もう一つ見方を変えると、リーマン・ショック後の中堅・中小企業の皆様の財務体質と足元の財務体質を比べると、やはり自己資本比率もそうですし、流動性比率、それから資本の厚み、こういったその財務的な指標っていうのは、かなり実は数十年前に比べて良くなってきてるんです。

なので、耐性もかなり中堅・中小企業の皆さんもお持ちになってきているので、変化にきちっと適応していくっていう流れの中にある企業様については、さほど大きなマイナスインパクトが出るような状況では今はないかなというふうに思ってます。

円安の影響は

──今、足元では円安の状況が続いています。この円安の影響は今のところどうみていますか。

円高か円安かという問題は、いつも何か出てくるんです。けれども、円高のときも、悪い円高とか、悪い円安のような、どっちにもやっぱりあるんですけども、一つはボラティリティの大きさっていうのは気をつける必要があると思っていますけれども。今、この1ドル=157円前後(※撮影当日の為替)の為替っていうのをどう考えるかっていうのは、当然プラス面もあれば、マイナス面もある。

これを今の日本経済に照らして、どの水準がいいのかっていう議論は別にあると思いますが、今の現状で特にマイナスインパクトが大きいのは、輸入物価が上がって、特にコストプッシュ型で物価が上がっていくことに対して、一般の国民の皆さんに対してはやっぱりマイナスインパクトっていうのが強くなってきている

それから中堅・中小企業の皆さんについては原材料高だとか資源高っていうことも合わさって、かなり価格転嫁のところで、大企業さんに比べてやり方、スピードはかなり劣位しているところがありますので、こういったものが複合的に重なり合って、中堅・中小企業さんのところにやはりマイナスインパクトが出始めているっていうことは事実だと思いますので、これをどうやって凌いでいくのか、全体としてですね。

ただ一方で、GDPの問題であるとか、大企業さんの決算をご覧いただいて、かなり良い決算を出されているところも多いっていうこともあって、このバランスをやはりどうやって取っていくのかっていうことがこれから重要なポイントじゃないかなと思います。

──GDPの話も出ましたが、やはり個人消費は弱いですね。

そうですね。ここで所得の引き上げだとか、一部減税のような話もありますけども、これがどういうふうに消費増に繋がっていくのか、良い循環をどうやって作っていくのかっていうことについては国も企業も個人も一体となって考えていかなければいけないところだと思います。

──国民としては物価高で、賃上げもとなったときに価格転嫁で値上げが進んでいても、それを「会社側がどこまで従業員に落としてるか」というのはなかなか中小企業では厳しいなと思いますね。

ただ賃上げのスピードはかなり今回の春闘でも高かったと思いますし、少しずつ良い循環に向けて動き出しているという意味では一つ評価されてもいいのではないかなと思います。

長期金利の上昇は

──長期金利が11年12月以来ぐらいの水準まで上がっています。今すごく急速に上がっている印象ですが、どういう所感をお持ちですか。

(長期金利が)今の1%を超えた水準感っていうのは想定の範囲内だと思っています。緩やかにイールドカーブが上昇基調にあるということだと思いますし、一方で、短期のところっていうのは、まだ0から0.1というのが政策金利のところですので、次の日銀のアクションっていうのがどういう形になるかっていうことを我々が決める立場には当然ありませんけれども。

色々な変化を見据えて、予測と準備を怠らないこと。我々は色々なシミュレーションをしながら、どういう状況になっても機動的に動けるっていう状況をやっぱり作っていくっていうことが、今我々にできることですので、これをお客様目線でも考え続けるということが重要なところだと思います。

日銀の政策変更をどう受け止めていくか

──今の状況だと、金融政策の転換点に立って、短期プライムレートがいよいよ動き出すなというところだと思うのですが、いかがでしょうか。

そうですね。次のステージは、短期プライムレートが動くような日銀の政策の変更っていうのがあるのかどうか、それがいつなのかということ。

これは当然、世界経済だとか、国内だけの状況でも当然ないですし、色々なものを総合的に勘案されながら、お決めになるんだと思います。けれども、その瞬間は少しずつですけど近づいてきているかなという気もします

──その瞬間が近づいてきてるっていうところで、短期プライムレートにってなったときに何が一番大きく変わる、会社としても変わらなきゃいけない、これやらなければいけないなというものは何か。

我々のその貸出金の構造を見ますと、住宅ローンは97〜98%が変動金利ですので、ここは元々短期プライムレートに連動してる。だから、今はまだ全然動いてないものですね。新規実行もそうですし、ストックのところも全く動いてない状況にありますので、ここに金利がついてくる。

それから、法人向けでも当然短期プライムレートをベースとした貸出金というのはそれなりに残っているっていうことで、ここに金利の変化が起きてくるっていうことについては、我々の全体の収益力っていうものを高めていくっていうことに繋がっていくと思いますので、ここは大きく変わってくるところなんです。

けれども、我々、この金利の上昇っていうのを追い風にするんですけども、ただ今やらなければいけないことっていうのは、やはり次世代に向けてもう1回、自分たちの構造改革を推し進めることが重要だと思っています。

やはり、これまでのビジネスを支えてきた発想だとか、仕組みとか仕掛け、それから業務のプロセス、システムこういったものが、時代の変化とともにミスマッチを起こしているというふうに思っていますので、次世代のリテール金融を支える新しい基盤というか、新しい経営基盤に変えていかなければいけない。

そのために、人材への投資、IT投資、それからデータの利活用、こういったところが重要だと思っていますので、「短期的には金利が上がることで少しフォローの風、一方で構造改革は待ったなし」というのが今の多分我々の状況だと思います。これをこのタイミングで同時に達成することが大事なところだと思います。

今後、会社が生き残っていくために

──今、次世代の投資の部分で、力を入れてるのが人材だったり、デジタルであったり、そこが今後の会社のために大きな部分ですか。

大きいですね。人材、それからIT投資なんですけども、これってやはり支えている我々の業務のプロセスというのをもう1回、解体再構築をしないと。

どうしてもこれまでトレーニングされた方々の人海戦術でバックヤードを支えている状況っていうのが長らく続いていて、やはり日本の人口構成、少子高齢化を見てもそうですし、それから今のDXの流れ、それから今後起きてくるであろうお客様の金融行動の変化というものを支えるために今の形ではなくて。

今までは今までの流れで支えてきたんですけど、ここを起点に次世代化をしていくっていうことが我々が持続的に成長していくっていうためにも必要ですし、それからお客様の顧客体験を変えたり、お客様に新しい価値を提供していくその土台となるものをもう1回再構築するっていうことが、どうしても避けて通れないところだと思っています。それが実は今のタイミングだと思っていまして。

テクノロジーが進化をしたこともそうですし、お客様の金融行動が変わったっていうこともそうですし、それから社会産業構造そのものがもう変わってきてるっていうことだと思います。これに適用できるかどうか、我々がいち早くそこに変化を見出せるかどうかっていうことが我々が本当にリテールNo.1になれるかどうかっていうところの分水嶺だと思って。

顧客が銀行窓口に行かなくなった

──金融行動が変わったという部分で一つ、銀行に行かなくなったなと思います。

最近そうですね。今、数字で申し上げると10年前から4割減というのが、今、店舗にお見えいただいてる方々。

今までの我々の取り組みの中でもリアルとデジタルの融合がやっぱり非常に重要なポイントで、お客様の手の中に、個人のお客様だとかなりもうスマートフォンの中に日常の金融を満たすための準備ってのができている状況なんですね。

これを法人の分野にも拡張すべきだし、個人の分野にはもっとさらに利便性が高くて、UI・UXに優れていていつでもどこでもっていう感覚をご認識いただくっていうことが今の変化に必要なこと。

一方で、こうやって、今日もお会いさせていただいてますけども、目と目を見てお話をさせていただくことで、出てくる新しい価値もあります。

それから、金融には深いソリューションを提供しなければいけないものはあると思っていまして。例えば、法人だとまさにその会社さんの経営戦略に根ざしているものだとか、事業とか資産の承継だとかっていうのは、デジタルで完結できるものではなくて、1to1でそれぞれのご事情をしっかりと理解した上で、正しいそのソリューション、最高のソリューションを提供していくというのは人間が持つ力、金融が深いところで持っている力を、リアルの局面で持っていくっていうことが重要。

一方で、日常の金融っていうのは明らかにほぼ100%がデジタルとデータに置き換わっていくのだと思ってます。日常の金融をデジタルで支えながら、特別なリアルな瞬間っていうのを、フェイストゥフェイスで深いソリューションで提供していくっていうのが、次世代のリテール金融の中で必要なことだと思ってますし、それがりそなグループが目指している新しい姿だと思っていますので、これを何とか成し遂げたい。

そのためにさっき申し上げた、今、少しフォローの風になってきているときだからこそ、構造改革を推し進めて我々がいち早くそのステージに立てるような流れを作っていくことが大事だと思う。

対面・リアルだからこその価値

──リアルだからこそという部分が大きくて、店舗数もすごく多く抱えてらっしゃるっていうのは、それが強みになる部分ではあります。

今、800を超えるリアルチャネルを持っていて、有人チャネルネットワークっていうものが持っている価値っていうのは我々はあると思っているんですけども。

ただ、10年前、20年前の価値ではなくて、今、変化が激しい時代に、もう一度、地域に営業店がある意味っていうのを、再定義するということが必要

それは、データとかデジタルで武装されていてサポートをされていて、バックヤードが基本的にそのデジタルに置き換わっていくっていうことを、起点に営業店で行うお客様の困り事、ですから、お客様の未来を少しでも豊かなものにしていくために我々が必要なことを、しっかりとサポートしていく。

フェイストゥフェイスでというところが、営業店が、地域にある意味の一つだと思っていますので、そこに向けて人材の質・量を上げていくことも必要だと思いますし、コンサルティング力、ファイナンス能力を上げていくことにも繋がりますし、バックヤードは、その業務のプロセスが解体再構築されて、違った形でサポートされているということを作り上げていくのが次世代リテール金融で必要なことだと思っていますのでこの両面を同時に行っていくことが重要なことだと思います。

──日銀の調査でも、企業側の声として、大規模な金融緩和で金利が下がった分、資金を借りやすくなった一方で、銀行側の省人化などで、人を減らしたから、借りやすくはなった、量を安くはなったけれども、コミュニケーションの質の部分が希薄になったという声を上げていらした方がいました。そこの部分も今ちょうど転換点なのかなというのは今お話を伺ってて大変しっくりきました。

そうですね。営業店が持つ価値だとか、人が持っているその力っていうものを、そのデジタルとデータっていうものを融合させていくことが必要。デジタルはデジタル、それからリアルはリアルという考え方ではなくて、表裏一体、一体化しているということが重要で、これがリアルとデジタルが提供しているお客様の接点での価値っていうのを高めていくことが必要だと思うんです。これを何とか早く成し遂げたいと思っています。

政策保有株は3分の2を処分

──少し話が変わりますが、政策保有株の件について、3分の1にまで減らすと表明していますが、その分出た売却益を今後どういうふうに生かしていこうと考えていますか。インオーガニック(外部への資本投入)のお話も決算会見でされていましたけれども、そこを改めてお聞かせいただけますか。

今は3分の1になるというふうに表現していただいたんですけど、我々の認識は違っていて、2003年のりそなショックのときに、実は政策保有株式って簿価ベースで1兆4000億円持っていたんです。

今の目標は「2030年に純資産ベース時価対比10%にする」っていうことなんですけど、これは簿価ベースで申し上げると870億円になるということ。

2003年に1兆4000億だったものを27年かけて、870億円まで縮減していくということ。

この過程の中で、我々は政策保有株式の売却という文脈で語られますけども、お客様側にとってみると、大事な資本政策の一環だったということが、これが実は表裏一体になっているものなので、お客様にとっては非常に重要なお話であるはずで、なので我々はこれまで難しい交渉ではあったんですけども、お客様と膝詰めでお一方、お一方とずっとこのことについてお話をしてきてそれが今現時点で切ると2616億円まで簿価ベースで減少しています。

これを今、世の中の変化が激しくて、もう一度、解放する資本を使って、中堅・中小企業・個人の皆様の円滑な資金提供を支える資本として活用したいということもありますし、それからコンサルティングを強化していくってことにも使いたいですし、それはさっき申し上げた我々の構造改革、この構造改革も次のステージにお客様にもっと良い価値を提供するための投資であるべきだと思っています。

今、ご質問いただいたインオーガニックなところもこれもお客様の多様化する、あるいは高度化する複雑化するニーズを我々グループが持っている知見やノウハウだけではなくて、もっとスピーディーに良い形で結び付くためには、我々にない異業種の方々の知見やノウハウと掛け合わせることで新しい価値観を提供できるっていうことに繋がっていくと思いますので。いずれにしても、考えていることっていうのは、もう一度我々が提供できる価値だとか顧客体験っていうのを高めていく。

それはもう1回我々が目指しているリテールナンバーワンを目指すことでもあるし、それからお客様を最終的にもう一度フルにサポートをしていくための原資にしていくっていうことが本来の我々の思いですので、この3000億円近い資本開放を使って我々が進化していく、それをお客様のために進化していくっていうことに繋げていきたいと思っています。

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。