滋賀県・大津市は、ことし4月時点での待機児童の数が184人と、前の年の30倍以上になったと発表しました。その背景を取材すると、子育て世帯から人気を集める街ならではの悩みが見えてきました。
■滋賀県大津市の待機児童の数が急増 前年の30倍
滋賀県・大津市の「みつばちこども園」。開園してから13年、現在は合わせて130人ほどが園に通っています。
【保護者】「ことしから入りました。何カ所か見てここがいいなと思って」
一方で、保護者からはこんな声も…。
【保護者】「入れたいなと思うところになるとかなり倍率が高い。1歳になる前に入れないと」
【保護者】「周りは決まっていない人、結構います。保育園入れないって」
この園では、職員を53人確保し、受け入れ人数を随時増やしてきましたが、それを上回る勢いで、入園申し込みの数が増加しているといいます。
【みつばちこども園 川島昌世園長】「上限いっぱいで、たくさん受け入れさせてもらっています。お待ちいただいている方もいるのではないかと」
大津市は5月、ことし4月段階での待機児童の数が184人になったと発表。
去年の同じ月は、6人であったため、たった1年で30倍以上の「爆増」となりました。
【みつばちこども園 川島昌世園長】「(入園を)希望されるのは、やはり1歳児。育休復帰のタイミングで」
(Q.そのタイミングが入園は一番難しい?)
【みつばちこども園 川島昌世園長】「難しいです。妊娠中の方から入れますかって問い合わせされることも。皆さん保育園の確保は切実に悩んでおられると感じます」
一体なぜ、こんな状況になっているのか?
市の担当者に聞いてみると…。
【大津市保育幼稚園課 若林雄一課長】「宅地開発やマンション建設が盛んに行われている地域でありますので、そういった(入園申し込みが増える)傾向はあると思っています。JRの比叡山坂本駅からJR大津駅にかけて、が特に多くなっている」
■大津駅の周辺に高層マンション 人気の理由は「安さ」と「広さ」
年々、マンションの数が増加している大津市。
実際に、車で走ってみると、次々と高層マンションが見えてきます。さらに、そのほぼ半分は、大津駅の周辺のエリアにあり、子育て世帯が集中しているのです。
このエリアの魅力とは。ことし1月に入居を開始したばかりのマンションを訪ねてみると…。
【野村不動産西日本支社 都築太郎さん】「こちら当物件の最上階の部屋。170平方メートル超のお部屋で琵琶湖をご覧いただくことができます」
琵琶湖を一望できる部屋などがあるこちらのマンションでは、すでに8割ほどが契約済み。
魅力は景色だけではなく、京都などの周辺の都市と比べたときの「安さ」と「広さ」が人気を集める理由です。
【野村不動産西日本支社 都築太郎さん】「建築費や土地の仕入れ値が上がっている中で、大津に来ると同じ広さなら価格もかなり抑えられる。(近年)部屋や収納も狭いマンションが京都市内も増えている。大津にくると広さが当物件ですと、80から90平方メートルが中心」
マンションの住人は…。
(Q.もともと大津市に住んでいた?)
【マンションに住む人】「ではなくて京都の下京区に住んでいて、京都と大津で比べると1500万とか違うのかな。同じような条件で比べると変わってくる。利便性もありつつ、自然もありつつほどよい。京都だと直通便があれば20~30分でいける」
京都などからやってくる子育て世帯のおかげで、街が活性化する一方、急増してしまった「待機児童」。
ここ数年は、新型コロナの流行による保育園の利用控えがあったおかげで、待機児童の数は抑えられていましたが、その分、今年になって「受け皿」の不足が一気に露呈してしまったのです。
【大津市保育幼稚園課 若林雄一課長】「保育士確保の取り組みを第一に考えたい。184人の方が待機児童として入れていません。中でも1~2歳の方が多い。単純計算では(保育士が)37人が必要、年度途中にそれだけの人数を確保できるかは、まだ分からない」
■待機児童が急増で「仕事復帰が不安」
こうした状況に、不安を抱えている人もいます。
3歳、1歳、0歳の3人の男の子を育てるこちらの女性。
去年、1歳になった次男を長男と同じ園に入れようとしましたが、落選。別の園に申し込んで、3カ月後になんとか預けることができたものの、仕事にも支障が出ています。
【大津市に住む女性(29)】「医療関係の仕事なんですけど、決まらんから復帰ができなくて、2~3カ月復帰待ってもらって。仕事前に2カ所預けに行って、仕事終わって2カ所迎えにいって。いまは産休でお休み取ったんですけど」
市内の待機児童が急増する中、いま不安に思うのは、三男が1歳になったとき、無事、保育園に入ることができるのか、ということです。
【大津市に住む女性(29)】「(周りは)もう全然入れないっていうので、4月から京都の幼稚園に預けることにした人もいますね。4月の入所じゃないと厳しいかなと思う。1年で早めに(仕事)復帰して保育園入れたらなと思うんですけど、不安はありますね」
専門家は、現在の大津市のように、特定のエリアに人が集中することでおきる待機児童問題は、今後、全国各地でもみられるのでは…と指摘します。
【高崎経済大学地域政策学部 佐藤英人教授】「人口減少しているので、街を広げる必要がなくて、コンパクトな街づくりをしていこうと。短期間に住宅開発が行われて、短期間に若い世代が増えてくると、こういう問題は全国各地で起こってくるんじゃないかな」
子育て世帯に人気だからこそ起きる問題に、どう対応するのか?自治体は難しい判断を迫られています。
■横浜みなとみらいでは“10年限定の小学校”も 想定以上の児童増加
都心よりも安い価格で、琵琶湖を一望できるというのは確かに魅力的ですが、待機児童の問題は深刻です。
子育て世代に人気の街における待機児童の問題。ほかの街では、このような対策を講じています。
横浜のみなとみらいです。こちらの街も子育て世代に人気となっていて以前からマンション建設が増えているということです。こちらでは、児童の急増を予想し2018年に“10年限定の小学校”を新設しました。
期間限定とすることで「期限付きにすることで児童の数が減れば閉校にしやすい」というメリットがあります。
ただ問題もあり、予想以上に児童の数が増加しただけではなく今後も増える見通しで、“10年限定”と期限を延期することが決まったということです。
番組コメンテーターの菊地幸夫弁護士は「予測を立てることは難しい。私が居住している東京の練馬区は一時人口が増え、高層団地をいっぱい作って、その周りには小学校がたくさんできましたが、今は人口が減って小学校が空き校舎になってしまっています」と話しました。
大津市も子育て世代の人気が集中する傾向がずっと続いていく可能性について、関西テレビ神崎報道デスクはこのように話します。
【関西テレビ 神崎博報道デスク】「先の見通しはなかなか難しくて、いま増えてるからといって、保育園・小学校・中学校を作ったけど、将来的には子供がいなくなってしまう事も起きる可能性があります。実は京都市から流れている人が多くて、京都市からはどんどん子育て世代が周りに流出してしまい深刻な状況です。なんとか子育て世代を呼び戻せないかと、例えば建物の高さ制限を一部の地域で緩和して、高いマンションが建てられるようにしました。いまの大津市への流れが今度は京都市に戻ってくるという可能性もあるので、行政としては先の見通しはかなり難しいと思います」
日本は人口がどんどん減っていく中で、子どもたちのインフラをどのように整えていくのか、行政の手腕が問われることになります。
(関西テレビ「newsランナー」2024年5月23日放送)
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