日本人が中国に短期滞在する際のビザ免除措置の復活が遅れている。カギを握るのが日中関係の改善だ。かつて日本人観光客は訪中外国人の中で大きな比重を占めていたが、日本以外の国でその穴が埋まりつつあり、中国側に焦りは見られない。
中国内陸部にある河南省安陽市。高速鉄道駅から車で40分ほど走ると、農村部の中に真新しい観光施設が現れた。「三国志」の英雄の一人で、魏の実質創始者である曹操の墓の上に2023年に開業した「曹操高陵遺跡博物館」だ。
三国志は日本でも根強い人気を誇る。施設の一部には日本語表記もあったが、地元タクシー運転手は「日本人客を乗せたことはほとんどない」と話した。河南省には洛陽市、許昌市など三国志ゆかりの地域が数多いが、記者が8月の夏休みシーズンに各地の観光地を回っても、日本語が聞こえてくる機会はなかった。
日本からの観光客減は、ビザ免除措置の復活の遅れが大きく影響している。中国政府は以前、観光や出張目的の15日以内の滞在では日本人のビザを免除し、これが多くの旅行者を引き寄せていた。だが、新型コロナウイルスの感染防止対策で免除措置が停止され、コロナ禍後は復活していない。
これとは対照的に、中国政府は欧州の一部や東南アジア諸国に対しては、コロナ前に認めていなかった同様の短期ビザ免除措置を続々と導入している。この結果、中国政府の統計によると、24年4~6月期の外国人訪中客はコロナ前の19年水準の96・3%、旅行者のサービス支出額は同99・9%まで回復。「日本抜き」で訪中旅行需要は埋まりつつある。
中国政府は、日本への免除措置復活が遅れる現状について「中日関係の全体の雰囲気や、直面している困難の違いが関係している」(呉江浩・駐日大使)と突き放す。中国当局に太いパイプを持つ二階俊博・自民党元幹事長は8月末に訪中したが、習近平国家主席とは会談できず、「ビザ問題は全然進んでいない」(日系大手メーカー首脳)との見方が多い。9月末の自民党総裁選を経て新政権は中国側との交渉を加速し、事態を動かすことができるのか。ビザ免除措置の復活は、日中関係の改善度合いを占う重要な物差しとなる。
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