インドのモディ首相(左)を歓迎するバイデン米大統領=米東部デラウェア州で21日、ロイター

 「クアッドは長続きすると信じている」。来年1月で退任するバイデン米大統領は21日、自身最後となる日米豪印の首脳会合冒頭でそう強調した。インドのモディ首相は「クアッドは今後も支え合い、補完し合っていく」と応じ、オーストラリアのアルバニージー首相も「クアッドの歴史は浅いが、その分、旧弊に縛られることなく、進化している」と指摘した。

 バイデン氏が地元の東部デラウェア州を開催地に選んだのは、中国との戦略的競争を念頭に「同盟・友好国との連携網強化」に協力した3首脳に感謝の意を表す意図があった。外国首脳として初めて3首脳を私邸に招いて個別に会談。中国に対して、日豪印との親密さを見せつけた。特に「非同盟」を外交の基本とするインドを含む枠組みを確立したことは、米国にとって大きな成果だ。

 首脳会合の議長国は持ち回りとなっており、今年はインドがホスト役のはずだった。しかし、11月の大統領選を控えていたバイデン氏の日程調整は難航。7月に選挙戦から撤退したが、退任までにインドを訪問するのは難しい状況だった。

 各国が合意した「年1回の首脳会談」が途切れれば、協力の機運に水を差すことになり、21年にクアッドを首脳級に格上げしたバイデン氏の「レガシー(政治的遺産)」にもマイナスになる。そこで、国連総会での3首脳の訪米に合わせて、米国がホスト役を買って出て「誠意」を示した。

 一方、大統領選でハリス副大統領(民主党)とトランプ前大統領(共和党)のどちらが勝ってもいいように布石も打った。

 トランプ氏は2国間交渉による「ディール(取引)」を好み、調整に手間がかかる多国間協力には懐疑的だ。クアッドはトランプ前政権で閣僚級まで格上げされたが、ポンペオ国務長官(当時)ら当時の外交・安全保障チームがボトムアップで進めた成果だった。トランプ氏が返り咲いた場合、首脳として連携の旗振り役になるかは不透明だ。

 そこでバイデン政権は連邦議会の共和党と連携し、20日に超党派で上下両院合同の「クアッド議員連盟」が発足した。議会では「中国と軍事、経済両面で対抗する必要がある」との超党派の共通認識があり、クアッドなど対中国をにらんだ多国間協力も支持されている。予算編成権や立法権を持つ議会が下支えすることで、トランプ氏が復権してもクアッドの連携が維持される基盤を整えた形だ。

 また、ハリス氏が勝利した場合、来年のクアッド首脳会合に合わせて、母親の故郷であるインドを訪問することになる。バイデン政権が今回議長国を引き受けた背景には、「ハリス政権」を見据えて外交舞台を整える意図もあったとみられる。【ワシントン秋山信一】

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。