トランプ前米大統領(77)が不倫の口止め料を不正に会計処理したとされる事件の公判は22日に冒頭陳述が行われ、本格審理に入る。トランプ氏は徹底抗戦の構えだが、検察側も立証に自信を見せている。捜査を指揮したのは一人の検事だ。
公選制で民主党から立候補
「法の下では皆平等だ。お金や権力がどれだけあっても、これは変わらない」
2023年4月。トランプ氏がニューヨーク市マンハッタン地区にある裁判所に出廷し、起訴内容の認否で無罪を主張した後、アルビン・ブラッグ地区検事(50)が記者会見に臨んだ。
壇上の横のボードには、トランプ氏が初当選した16年大統領選の前に不利な情報が出るのを防ぐため、元ポルノ女優に口止め料を支払ったことを隠す目的で、親族企業の業務記録を改ざんしたとする事件の構図が描かれていた。
マンハッタン地区検事は公選制だ。ブラッグ氏は連邦検事などを経て、21年11月、民主党から立候補し、当選。同地区初の黒人の検察トップとして、翌年1月に就任した。就任後は銃犯罪の立件などに注力する一方、知能犯罪の経験も長かったため、トランプ氏周辺の疑惑も調べてきた。
ハーレム出身、銃突きつけられた経験も
出身地はマンハッタン地区ハーレム。米紙ニューヨーク・タイムズなどによると、ソーシャルワーカーの父と教師の母の元で育った。警察官に麻薬の売人と間違えられて銃を突きつけられるなどの理不尽な経験が、法曹界に進むきっかけになったという。中学の同級生は社交的な性格やカリスマ性から「彼は常に『市長』と呼ばれていた」と振り返る。名門ハーバード大に進み、同大のロースクールで法務博士号を取得した。
トランプ氏は今回の事件は政治的動機に基づく起訴だと批判している。ブラッグ氏は脅迫に遭っており、米CNNによると、事務所にはこれまでに「アルビン、お前を殺す」や「後悔することになる」と書かれた文書が届いているという。
ただ、トランプ氏との対決姿勢は変えておらず、昨年12月のラジオ局とのインタビューでは、事件の焦点は「(元ポルノ女優との)性的関係をもみ消すための金ではない」と強調。「核心は大統領選を腐敗させる企てだ。それを隠蔽(いんぺい)するために、業務記録を偽った」と述べた。
一方、ブラッグ氏を巡っては、マンハッタン地区の犯罪率が高止まりし、新型コロナウイルスの流行前の水準に戻らないことなどに批判もある。米政治メディア「ポリティコ」は、ブラッグ氏は25年の選挙で再選を狙っていると指摘。「今回の事件はある意味で賭けのようなものだ」として、裁判の行方が地区検事としての運命を左右するとの専門家の見方を伝えた。【ニューヨーク中村聡也】
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