米国旗=米首都ワシントンで2023年11月14日午後、西田進一郎撮影

 米西部アリゾナ州最高裁は9日、1864年に制定された人工妊娠中絶を禁止する法の施行を認める判断を示した。母体の健康に危険がある場合以外は中絶が禁止され、レイプや近親相姦(そうかん)の被害者も例外にならない。アリゾナ州は11月の大統領選で勝敗のカギを握る接戦州の一つ。全米で最も厳しい中絶規制への反発は大きく、中絶の権利擁護を掲げる民主党のバイデン大統領には追い風となる。

 州最高裁は今回の判断について「中絶に関する公共政策のあり方や合憲性には関係なく、法令解釈に関するものだ。中絶の権利が連邦の憲法で保障されていない以上、禁止法の施行を止める規定はない」と述べた。禁止法は14日間の猶予期間を経て施行される。

 州最高裁の判事7人はいずれも過去の共和党の知事に指名されており、今回の判断は4対2(1人は忌避)だった。バイデン氏は声明で「150年以上前の残酷な禁止だ。今回の判断は共和党の過激な政策の結果だ」と批判した。

 同州では中絶合法化の是非を問う住民投票を求める署名集めが続いており、11月の大統領選と同時に住民投票が行われる可能性がある。バイデン氏の陣営は中絶擁護運動との相乗効果を期待している。一方、共和党のトランプ前大統領は8日、中絶の争点化を避けるため、中絶規制は各州の判断に委ねる方針を表明していた。

 米メディアによると、アリゾナ州の中絶禁止法は1864年(日本の江戸時代末期)に最初に慣例として成立し、1901年に成文化された。中絶を手助けした医師らには禁錮2~5年の罰則が科せられる。73年に連邦最高裁が中絶を選ぶ権利は保障されるとの憲法判断を示し、同州でも中絶禁止法の施行は差し止められた。

 しかし、州法自体は無効とされずに残っていた。連邦最高裁は2022年6月、憲法判断を49年ぶりに覆し、州による中絶禁止を容認。アリゾナ州では妊娠15週より後の中絶を原則禁止する州法が施行されたが、差し止められていた1864年の州法の施行を再開するかどうかを巡って訴訟になっていた。【ワシントン秋山信一】

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