16日、韓国京畿道安山で、セウォル号沈没事故の追悼式典に参列する遺族ら(ロイター)

【ソウル=桜井紀雄】韓国で修学旅行中の高校生ら304人が犠牲となった旅客船、セウォル号の沈没事故から16日で10年を迎えた。遺族らは事故の真相究明と政府の責任追及を求め続けてきた。事故対応への批判は当時の朴槿恵(パク・クネ)大統領退陣の一因ともなったが、国民の生命と安全を巡る問題はいまなお、政治的な争いの渦中に置かれている。

「母娘が手をつないでショッピングする後ろ姿を見るたびに娘を恋しく思いだします」。高校2年だったチョ・ウンジョンさんを事故で亡くした母親の朴貞花(パク・チョンファ)さんは15日、外国メディアとの会見でそう話した。

16日はチョさんら多くの犠牲者を出した檀園(タンウォン)高校がある京畿道(キョンギド)安山(アンサン)などで追悼式典が開かれ、与野党の幹部らが列席した。尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領は16日、閣議で「10年たったが、あの日の状況は今も目に浮かぶ」と述べ、犠牲者の冥福を祈った。

遺族団体は15日の会見で「完全な真相究明と責任者の処罰こそが別の惨事の防止につながる」と主張。国の責任認定と、政府を代表した尹大統領の謝罪を求める方針を明らかにした。

当時の朴大統領が事故発生から約7時間、姿を現さなかったことは世論の怒りを買い、弾劾訴追される一因となった。複数の事故調査委員会が立ち上げられ、過積載や操舵ミスなどが重なり事故が起きたとの分析が示されたものの、事故原因は特定されなかった。

救助の不手際も指摘された。警備艇の元艇長が有罪とされたが、業務上過失致死傷に問われた海洋警察庁長官(当時)ら上層部の無罪が昨年11月に確定。遺族らの強い反発を招いた。

韓国・木浦の港に安置されたセウォル号の船体=3月(共同)

22年10月には、ソウルの繁華街、梨泰院(イテウォン)で若者ら159人が死亡する雑踏事故が起きた。警察の対応の遅れから「セウォル号の教訓が生かされなかった」との非難を浴びた。国会で多数派の野党が今年1月、事故の真相を究明する特別調査委員会の設置を柱とする特別法案を可決したのに対し、尹氏は拒否権を行使した。真相究明を名目に政権への政治的な攻撃が果てしなく続く事態を避けようとしたとみられている。

今月10日の総選挙で圧勝した野党側は、法案の再可決を目指している。セウォル号事故の遺族団体も梨泰院事故の犠牲者遺族らと連携して特別法の制定を要求。沈没事故から10年を機に、国民の生命と安全を巡る問題が再び争点化しようとしている。

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