台湾では5月20日、与党・民進党の頼清徳(らいせいとく)氏が新しい総統に就任しましたが、実はその就任式が行われる直前「将来の総統候補」と評されている人物が来日していました。最大野党・国民党のホープとされ、蒋介石(しょう・かいせき)のひ孫に当たる蒋万安(しょう・ばんあん)氏です。
市長就任後 初来日
5月15日、にこやかな表情で羽田空港に降り立った台湾・台北(たいぺい)市の蒋万安(しょう・ばんあん)市長。市長に就任後はじめての来日となります。
蒋万安氏は中国共産党との内戦に敗れ、台湾に逃れた国民党の蒋介石(しょう・かいせき)のひ孫に当たります。
最大野党・国民党に所属し、おととし、歴代最年少の43歳で台北市長に当選。去年、アメリカのタイム誌で「次世代の100人」に選ばれ、「将来の総統候補」と評されています。
日本語で「俺たちは仲間だ」
来日した蒋氏がまず訪れたのは自民党本部です。自民党青年局の議員らと面会した後、麻生太郎副総裁と会談しました。蒋氏が覚えてきた日本語で「俺たちは仲間だ」と漫画「ONE PIECE」の主人公ルフィのセリフをなぞった発言をするとその場は笑いに包まれました。
台湾メディアによるとこれは、ルフィが一度も仲間を裏切ったことがないことを踏まえて、台湾と日本の関係が末永く続くよう願った気持ちを示すために、このセリフを日本語で覚えてきたとしています。
一方、中国外務省の報道官は蒋氏と麻生氏の会談翌日の会見で、日本に対して、「『一つの中国の原則』を堅持し台湾と民間や地方往来だけを保つという約束を守っていることを示すよう促す」と不快感を示しています。
台湾の原発稼働継続に沿う姿勢
訪日2日目。蒋氏は東京都主催の「安全・安心な都市」をテーマにしたフォーラムに東京都の小池百合子知事らと登壇しました。
この中で蒋氏は、4月3日に発生した台湾東部を震源とする大地震でインフラの老朽化が浮き彫りになったとし、「2050年までのCO2排出量ゼロの達成と、革新的で安全な都市の構築を目指す」と述べました。
台湾では安定した電力供給が課題で、ことし1月に行われた総統選でも原発の在り方が争点の一つとなりました。与党・民進党は2025年までの「脱原発」を掲げているのに対し、蒋氏の所属する国民党は「原発継続」の姿勢です。
フォーラム終了後この問題についてJNNの記者が質問すると、蒋氏は「十分な電力供給が賄えてない」と指摘し、国民党の原発稼働継続の政策に沿う意向を示しました。
以下が、その時のやり取りです。
Q.現政権が原発ゼロ政策の一環として再生可能エネルギー施設の建設を推進していることについてどう思うか?
「(民進党の)現政府は再生可能エネルギーを20%まで増やそうとしていますが、実際には約7%しかありません」「安定した電力供給ができるよう私たちは取り組む必要があります」
「中国と対話を続けることが重要」
訪日3日目の朝。蒋氏は都内のホテルで開かれた自民党や立憲民主党など超党派の国会議員で作る「日華(にっか)議員懇談会」のメンバーとの朝食会に出席。蒋氏は「これまで日華議員が長い間、台湾を支持し、日台の間で様々な協定締結を助けてくれた」と話し、翌週台湾で行われる与党の民進党・頼清徳(らいせいとく)氏の総統就任式でも再び日華議員と会うだろうとしました。
そして午後、蒋氏は東京ドームを視察した後にJNNの単独インタビューに応じました。
まずは翌週予定されている頼清徳(らいせいとく)氏の総統就任式には出席すると明言、「私も台湾の人々も新政権に大きな期待を寄せています」「世論に耳を傾け、市井の人々の声を積極的に聞いてくれることを期待しています」と語りました。
そこで、新総統となる頼清徳氏が「台湾有事は日本有事」と発言したことについてどう思うかと聞いてみると、「平和と安定の維持を多くの台湾の人々が望んでいます」「私たちは将来、近隣の友好国と協力していきたいと考えています」などと話し、直接的な評価は避けました。
その後、安定した台湾と中国の両岸関係のために必要なことは何かと尋ねると、「私たちは(中国と)対等に尊厳や善意をもって対話を続けることを強調してきました」として、そのために台北市と中国・上海市が定期的にフォーラムを開催し、地域レベルでの交流を続けていると説明しました。
最後に「将来の総統候補」と評されていることについて質問すると「今回の市長就任後初の日本訪問のように市政の推進に全力で取り組んでいます」とし、「安全・安心な都市」フォーラムでの意見交換を活かして台北市の地域振興に貢献したいなどと、かわしました。
蒋氏は滞在最終日の18日、東京スカイツリータウンで開催されているグルメイベント「台湾祭」を訪問。自ら屋台に入って日本語で来場客らに呼びかけるなど、交流を楽しんでいました。
台北市長として初めての日本滞在では、記者の呼びかけにもにこやかに対応、我々の単独インタビューにも応じた蒋万安氏。言葉を選びながらも日本で積極的に発信していた印象です。
「将来の台湾総統候補」が今後どう動くのか、これからも注目し続ける必要があると感じています。
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