岸田文雄首相が4月に訪米した際、バイデン大統領夫妻に贈った石川県の伝統工芸品・輪島塗のコーヒーカップが反響を呼んでいる。カップは能登の夜の海を連想させる黒と青のグラデーションが施され、一般向けに販売を開始したところ、納品まで2年待ちの人気となった。カップを手掛けた「田谷漆器店」(輪島市)も能登半島地震で被災したが、首相は代表の田谷昂大さん(32)に対し、輪島塗の復興を約束していた。
「百貨店や小売店からの問い合わせも多く、反響は想定を超えるものだった。難解なイメージを抱かれがちな伝統工芸の魅力がたくさんの人に興味を持ってもらえる結果になったことはありがたい」
バイデン夫妻がカップを手にする姿が大きく報じられた今、田谷さんは驚きながらこう語る。
コーヒーカップは上部に漆黒、下部に鮮やかな青を施し、漆黒の部分にバイデン夫妻のファーストネーム「Joe」「Jill」をそれぞれ描いた。素材には2年間乾かしたケヤキを使い、非常に軽くて丈夫だという。公式サイトで5万9000円(専用桐箱付きは+3000円)で販売を始めると国内外から注文が殺到。予約は、納品まで2年待ちとなったという。
政府がバイデン夫妻への贈呈品を作成を依頼したのは、3月上旬だった。
完成したカップのデザインは能登半島の海の夜明けをイメージさせる仕上がりだが、企画段階では日本の伝統的な黒と赤を提案しようと考えたという。ただ、赤はバイデン氏のライバル政党、米共和党のイメージカラーで、トランプ前大統領が好む色でもある。青に変えたところ、「よくよく見たら、能登半島の夜の海に近いなと感じた」(田谷さん)という。
1月の能登半島地震では、田谷漆器店も事務所棟や工場が全壊するなど壊滅的な被害を受けた。田谷さんの家族や社員は無事だった。
田谷さんは「被害は大きい。でも、地震をきっかけにたくさんの人が輪島塗に注目してくれている。『輪島塗』の検索回数も伸びている。苦しい中で希望の光であることは間違いない」と語る。
2月24日には、輪島市の輪島塗会館で職人らと一緒に首相との車座対話に参加した。バイデン夫妻に贈呈するという話は具体的にはなかったが、首相は輪島塗をはじめとする伝統産業などについて「日本人にとって大きな誇りだ。日本人にとっての宝をみんなで守っていかなければならない」と強調した。
首相は本格復旧までの臨時作業場として、県輪島漆芸美術館敷地内に仮設工房を設置する考えも示し、4月中にオープンした。
田谷さんは首相の発言をこう振り返る。
「心のこもった内容で、政治的なパフォーマンスも感じなかった。日本人は助け合って生きてきた民族だ。首相からは何かあったら見捨てないという人間らしさを感じた。復旧を急いでほしいというのが地元の思いだが、約束は果たされている」(奥原慎平)
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