いつ出勤しても、いつ帰宅してもOKで、ノルマはなし――。そんな仕事場が青森県弘前市にある。のぞいてみると、約20人が黙々と作業に打ち込んでいた。
この仕事場は「Rashiku(らしく)」。包装資材卸売会社「小林紙工」(弘前市)が、コミュニケーションが苦手で働きづらさを感じている人たちなどに、自分のペースで内職をしてもらおうと、4月に市内の専門学校「弘前厚生学院」の空き教室を借りて開設した。
仕事は、紙を切ったり紙箱を組み立てたりラベルを貼ったりと簡単な手作業が中心だ。数種類の中から好きな内職を選んでもらう。
作業時間は平日の午前10時~午後4時だが、働きたい時間に来て、好きな時に帰っていいことにしている。欠勤の連絡も不要だ。
工賃は時給ではなく出来高制。1個あたり2~15円などで、作った数に応じて1カ月ごとに支払っている。
こうした仕組みで始めてみたところ、地元への反響は大きかった。4月からの約2カ月で10~80代の100人超が登録し、毎日約30人が働きに来ている。
記者は5月中旬、Rashikuを訪れた。フロアに配された30ほどの作業台は半数以上埋まり、それぞれが静かに紙を貼り合わせたり、折ったりしていた。
その中の一人、50代の女性はこれまで通っていた就労支援施設が閉鎖して困っていたところ、ここの開設を知ったという。
「心の病があり、体も弱いので、体調を見ながら好きな時に来られるのがいい。ノルマがないのも助かる。ここで自信がつけば、前に進めるような気がする」
別の30代女性は「ちょっとした空いた時間に働けるのがありがたい。少しずつでも稼いで、家族で旅行ができたら」と話す。他にも育児中の人、家庭の事情で制限勤務しかできない人、高齢者などが登録している。
なぜ小林紙工は、Rashikuを開設したのか。社長の久保良太さん(46)は、その理由をこう語る。
「人には得手不得手がある。ここは、自分らしく無理なく働ける場所です。朝起きて、この場所に来て、何かしらの内職をして帰るという生活リズムができるだけでもいい」
小林紙工は、1980年代に障害者の雇用を始めた。2018年からは就労支援施設などと連携し、県内23施設に仕事を提供している。施設の利用者100人ほどが作業をしている。
この活動を通して、久保さんは、新型コロナウイルス感染症の影響により、心の病を持つ人が増えていると感じた。
「そうした人たちも『働きたい』と思いながら、会社で人間関係がうまくいかずに辞めてしまい、居場所がなくなっている。コミュニケーションが苦手な人たちが働ける居場所を自分で作ったらいいのでは」
そこで、22年に弘前市と連携して、働き手の自立支援を目指して、内職をしてもらう居場所の提供を始めた。3カ月に1回のペースで開いたところ、回を重ねるたびに利用者が増えていった。久保さんは「常設でもできるのでは」と考えるようになった。
人手不足もあり、手作業で加工する仕事のニーズは高い。内職のための仕事は東北地方だけでなく、関東からも請け負っている。
「今まで自宅にいた人たちが、Rashikuに出てきて仕事をすることによって、もはや私たちの会社の戦力になっている。こうした取り組みは全国どこでもできる。まずは弘前でモデルを作るので、全国に広がってほしい」【足立旬子】
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