2023年に全国の民間空港に米軍機が着陸した回数が450回を超え、過去10年で最多となったことが国土交通省への取材で判明した。そのうち7割強が離島を含めた九州の空港への着陸で、中国が台湾への軍事圧力を強める中、米軍が台湾海峡に近い地域で有事を想定した訓練を活発化させていることが背景にあるとみられる。日米両政府は南西諸島などにある施設の共同使用を拡大する方針で、今後も民間空港の利用が増加する可能性がある。
南西諸島の鹿児島県側で特に多く
米軍機が日本の民間空港を使うことは、日米地位協定第5条で認められている。
国交省航空局が全国89の民間空港について、14~23年に米軍機が着陸した回数をまとめた資料によると、23年は22空港で計453回(前年比111回増)。過去10年で2番目に多かった15年の359回を100回近く上回り、10年間で最も多かった。
空港別では、多い順に、①屋久島(鹿児島県)72回②熊本69回③奄美(鹿児島県)67回④名古屋51回⑤種子島(鹿児島県)50回⑥福岡43回――など。機種別や目的別は集計していない。
特に目立つのは、鹿児島・沖縄両県に連なる南西諸島の鹿児島県にある島々だ。屋久島、奄美、種子島と徳之島(12回)の4空港はいずれも23年の着陸回数が過去10年で最多。合計で201回となり、全体の約44%を占めた。
屋久島空港は14~22年は米軍機の着陸実績がなく、23年は11月に屋久島沖で米空軍の輸送機オスプレイが墜落する事故が起きたため、救難活動などで頻繁に米軍機が飛来したとみられる。ただ、22年も奄美、種子島、与論の3空港で計111回着陸し、全体の約32%を占めており、米軍機の利用頻度は高い。離島の空港を管理する鹿児島県港湾空港課は「米軍側から使用届が出れば受理している」とする。
一方、南西諸島の沖縄県側は最も多かった下地島空港でも23年は8回で、民間空港の利用は少ない。県内には米軍の飛行場が複数あるうえ、民間空港については、県が緊急時以外の利用自粛を要請していることなどが背景にあるとみられる。
九州本土は全体の28%
九州本土の空港にも米軍機は度々、飛来している。熊本、福岡、長崎(16回)、宮崎(1回)の4空港で計129回となり、全体の約28%を占めた。
熊本空港の69回(23年)はこの10年で最多。2年連続で全国で2番目に多かった。熊本空港の滑走路は、陸上自衛隊高遊原(たかゆうばる)分屯地との共用で、日米共同訓練などで利用しているとみられる。23年10月の日米共同訓練「レゾリュート・ドラゴン」でも米軍オスプレイが飛来した。
空港内に米軍専用区域がある福岡空港は過去10年の合計が全国最多の607回。長崎空港も計485回着陸した。朝鮮半島にも近く、恒常的に米軍機が利用している。
九州以外では、名古屋空港の51回もこの10年で最多、大阪府の八尾空港も19回で、この10年で2番目の多さだった。両空港とも滑走路は自衛隊と共用で、米軍機も利用しているとみられる。
23年1月にあった日米両政府の外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)では、南西諸島などでの施設の共同使用を拡大し、共同訓練も増加する方針で合意。民間の空港や港湾を有事に使用するための演習や検討を進める方針でも一致している。
識者「事故の危険性高まる恐れ」
在日米軍に詳しい沖縄国際大の前泊博盛教授(日米安保論)は「米軍は、日本の民間空港も含めた有事即応体制を築くため、積極的に動いている。訓練エリアは南西諸島にとどまらず九州にまで広がっており、台湾有事では九州まで戦場になる可能性がある」と指摘。「訓練は激化しており、屋久島沖ではオスプレイ墜落事故も起きた。このような状況を許すかどうかは日本政府次第。何もしなければ今後も訓練が増え、事故の危険性が高まる恐れがある」と話した。【中村敦茂】
日米地位協定第5条
1項で、米軍の船舶や航空機が日本の港湾や空港に出入りすることを認めている。入港料や着陸料は免除される。地位協定は在日米軍の法的地位や基地の管理、運用を定めたもので、1960年の日米安全保障条約改定に伴い、前身の日米行政協定を衣替えした。発効後、一度も改定されていない。
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