今年から5月開催となった福島県・相馬地方の伝統行事「相馬野馬追(のまおい)」は26日、南相馬市の雲雀(ひばり)ケ原祭場地で呼び物の甲冑(かっちゅう)競馬や神旗争奪戦が開かれた。2011年の東京電力福島第1原発事故で全町避難が最も長引いた双葉町では14年ぶりに騎馬行列が凱旋(がいせん)。町内外で暮らす町民らが集まり、普段は人けのまばらなJR双葉駅前は笑顔と歓声であふれた。
野馬追には旧相馬藩5郷に当たる5市町から騎馬武者が参加する。避難指示の出た地域でも解除後に騎馬行列が復活してきた。22年8月に町内の一部が居住可能となった双葉町でも復活し、これで全5市町での行事が再開された。
事故前は町騎馬会の15騎ほどが旧町役場周辺の約4キロを行列で歩き、町民グラウンドで小規模な神旗争奪戦も行われていた。この日は町民グラウンドと双葉駅を往復する約1キロを8騎が練り歩いた。
町騎馬会副会長の中川準さん(39)は震災前から野馬追に出場し、南相馬市に避難後も父らと出場を続けてきた。この日の凱旋行列には長女(11)や長男(4)と参加し、「やっと帰って来られた。懐かしい。一歩前進かな」と喜んだ。
多くの町民は避難先に生活基盤を移し、居住者は100人強。うち移住者が約6割で帰還者より多い。沿道にひしめいていた商店や家屋の多くが解体され、真新しい町役場の庁舎が目立つばかりで震災前の面影は失われつつある。それでも駅前では200人近い町民や観光客らが拍手で出迎え、中川さんは「人がまだ戻ってないのに、にぎやかで驚いた。多くの人に見てもらえるよう、今後も続けていけたら」と汗をぬぐった。
この日は女性たちが陣笠(じんがさ)や陣羽織をまとい、地域の民謡に合わせた「相馬流れ山踊り」も駅前で披露された。町相馬流れ山踊り保存会会長の今泉千鶴子さん(68)=本宮市に避難=は「私のように帰還できずにいる町民も町のために頑張っているんだという姿を通し、町に元気を与えられたらうれしい。懐かしい顔を見てグッと来た。大切な文化なので今後も継承していきたい」と充実した笑顔を見せた。【尾崎修二、柿沼秀行】
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