熊本地震では多くの被災者が長期間の車中泊を強いられた=熊本県益城町で2016年4月25日、須賀川理撮影

車中泊、能登ではビニールハウスも

 災害発生時に自宅や車など避難所以外の場所に避難した「避難所外避難者」について、東日本大震災(2011年)、熊本地震(16年)、1月の能登半島地震で被害が大きかった25市町を対象に毎日新聞が調査したところ、8割の20市町で人数を把握できていなかったことが判明した。把握できたとする市町も一部にとどまり、全容を把握できたのは2市町のみだった。

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 避難所外避難者は、災害発生時にさまざまな事情で自宅にとどまったり、車や親類方などに身を寄せたりして避難所以外での避難生活を送る人のことで、ライフラインの寸断や環境変化、医療・介護の機能低下などで災害関連死につながるリスクが高いとされる。

 毎日新聞は三つの震災で被災した自治体のうち震度6強以上を観測し、半壊以上の住宅が1000戸以上あった25市町(東日本大震災16市町▽熊本地震4市町▽能登半島地震5市町)に、避難所外避難者の把握状況を聞いた。

 それによると、避難所の避難者数については東京電力福島第1原発事故で全町避難が生じた福島県の3町を除くすべての市町が把握していたが、避難所外避難者の人数(最大値)を具体的に回答できたのは、茨城県高萩市(402人)▽熊本県大津(おおづ)町(4289人)▽石川県七尾市(2163人)▽同県輪島市(3361人)▽同県穴水町(902人)――の5市町のみだった。

 うち「全容を把握できた」としたのは、消防団の見回りなどで把握した大津町と、無料通信アプリ「LINE(ライン)」などを活用した輪島市のみだった。

 関連死防止のためには早期のケアが必要とされる。能登半島地震で被災した5市町を含む12市町は発災1カ月以内に確認を始めていた一方、12市町はマンパワー不足などで確認さえできなかったと回答した。

 確認手段については、東日本大震災や熊本地震の被災地では、自治体職員が消防団と見回りをしたり、行政区長や民生委員に地域ごとの状況を聞き取ったりするケースが目立った。一方、能登半島地震では石川県珠洲(すず)市や志賀(しか)町で県外の医療チームがローラー作戦をするなど外部の支援を受けた自治体もあった。

 災害関連死は、東日本大震災で死者・行方不明者2万2222人のうち3802人、熊本地震では死者276人のうち221人に上った。能登半島地震では死者245人のうち15人に関連死の疑いがあるが、今後の審査を通じて大幅に増える可能性がある。

 中央防災会議の13年の試算で避難所外避難者は、首都直下地震で最大430万人、南海トラフ地震で同280万人に上るとされる。内閣府も対策が急務として専門家による検討会を設置。24年度内に避難所外避難者の支援に関する指針を策定する方針だ。

 大阪公立大大学院の菅野拓准教授(復興政策)は「災害時は高齢者をはじめ苦しい状況にある人ほど避難所に行くことができないが、避難所をベースとした支援が中心だったため取り残されて把握されないままになってきた。関連死を防ぐためには避難所外避難者を効率的に把握して支援する体制作りや財源の確保が必要だ」と話す。【栗栖由喜、平川昌範】

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