セブン&アイ・ホールディングス傘下のスーパーで、グループ祖業のイトーヨーカ堂。2026年2月期を最終年度とする経営再建計画の中で、多店舗閉店と首都圏への集中を掲げている。
2024年2月末時点で123店舗残っている「イトーヨーカドー」は、今2025年2月期中に30店を閉鎖し、最終的に93店舗体制となる計画だ。
撤退が告知されている24店舗
すでに撤退が実施または告知されている店舗のリストは次のとおり。ほとんどが北海道や東北、信越など、「首都圏集中」戦略に伴うエリア撤退によるものだ。
しかし中には首都圏の乗降客数が多い駅前好立地でさえ、撤退を強いられている店舗がある。今回はそんな戦略地域にもかかわらず閉店となってしまった2店舗に焦点を当ててみたい。
最初に取り上げるのが千葉県柏市にある柏店だ。JR柏駅は常磐線の快速停車駅。1日の乗降客数は県内3位の10万人(2022年度)を超え、東武野田線も乗り入れる。そんな千葉県屈指の主要駅から徒歩3分前後にあるのが、地下1階地上7階建ての「イトーヨーカドー柏店」。今年10月、半世紀を超える歴史に幕を閉じる。
4月の平日夕方18時前、記者も実際に足を運んでみた。駅は帰宅客で混雑し始めており、駅前スーパーにとっては1日の中でも忙しくなる時間帯である。
まず、商店街側のドアから入ってすぐのエスカレーターを降り、地下1階の食品売り場に向かった。什器や内装の汚れ、天井の低さから多少のノスタルジックさは感じるものの、肝心のお客の数は他チェーンと遜色ない水準だった。客層は老若男女問わず、ファミリー客の姿も多い。
記者以外客が1人もいなかった肌着フロア
しかしフロアを上がるにつれ、状況は変わる。中でも深刻だったのが衣料品売り場だ。1階の服飾雑貨売り場には食品購入ついでに訪れる客が常時5人ほどいたものの、2階、3階と上がるごとに客は減り、「肌着のフロア」と書かれた4階には終始、記者以外1人も客がいなかった。
上層階でもブックオフには多くの客がおり、賑わいがあった(記者撮影)駅から徒歩3分、商店街に面する好立地の柏店はなぜ苦戦を強いられているのか。1つ挙げなくてはならないのは、リストラが後手に回っていたということだ。
ヨーカ堂の祖業でもある衣料品は、専門店やECの台頭で慢性的な赤字が続いており、昨年3月、ついに2025年度末までに直営販売からの完全撤退が公表された。それまでも中期経営計画のたびに直営衣料品売り場縮小やテナント化の方針が打ち出されていたが、柏店全8フロアのうち、3フロアを衣料品が占め、その多くが直営売り場であることを考えると、どこまで過去の方針が徹底されてきたかは疑問だ。
同じ上層階でも、衣料品と対照的なのはさらに昇った6階だ。中古本チェーンの「ブックオフ」がフロア全体に出店しており、柏店の中で食品売り場に次ぐ賑わいを見せている。
記者が訪れたときも、商品が入ったクリアケースを前に談笑するサブカル系サークルと見られる若者や、帰りがけにビジネス書や参考書、漫画を選ぶサラリーマンや学生が多く見られた。トレーディングカード売り場中央に設けられた遊戯スペースは、小中高生や大学生で常に満席で、館としてのポテンシャルの高さを感じた。
柏店4階の展示スペースには出店して間もない頃の様子を伝える写真が飾られている(記者撮影)柏市の商工観光課の担当者も「駅周辺の家賃は年々上昇しており、空きテナントもすぐに埋まってしまう」と話す。もしヨーカ堂が早期から抜本的な衣料品売り場の縮小、テナントの誘致を進めていれば、館全体の集客力・収益性を改善させ、撤退にまで追い込まれることは防げたかもしれない。
次に取り上げるのが、埼玉県川越市にある「イトーヨーカドー食品館 川越店」だ。
川越店は総合スーパーとして1967年に開業し、再開発後の2019年に2階建ての小型食品スーパー業態としてオープンしたばかり。西武新宿線の本川越駅から徒歩1分と、こちらも駅前好立地だ。
食品スーパーとしては珍しく、生鮮食品は1階ではなく2階中心に取り扱う。1階は総菜など即食商品の品ぞろえを強化し、周辺の通勤客や共働き世帯などの簡便ニーズを取り込もうという狙いだった。
駅前立地でも休日の集客に苦戦
ヨーカ堂は「首都圏と食という、まだ勝てる見込みのある地域、事業に経営資源を集中させる」(山本哲也社長)という方針を掲げており、川越店はその両方に当てはまる。他チェーンの幹部も市場調査に頻繁に訪れており、一時は戦略店舗とさえいわれていた。しかし今年7月、リニューアルオープンから4年も経たずに撤退という結末を迎える。
本川越駅から徒歩1分にある「イトーヨーカドー食品館 川越店」(記者撮影)競合の見方は冷静だ。大手チェーンの幹部は「平日の帰宅客はとれていたみたいだが、休日はガラガラ。地元客のヘビーユーザーを作れていないのでは」と話す。
4月のある土曜日、実際に記者も足を運んでみた。1階、2階ともに「ガラガラ」とまではいかないものの、客数は数えられる程度であり、休日に地元密着型のスーパーを訪れたときの活気は感じられなかった。1ブロック隣の商店街は歩きづらいほどの観光客で賑わっていたにもかかわらず、店内に観光客とおぼしき人が見つからなかったのも印象的だった。
川越市に住む50代パートの女性は「川越市は割と車社会。休日に車で利用しようにも提携駐車場からは徒歩5分も離れていて不便だった」と話す。
川越店の半径1キロ前後には競合のベルクやヤオコーが店舗を構える。どちらも価格や品質面で定評のある有力スーパーだ。イトーヨーカドーに比べ、駅からは遠いものの、大型駐車場併設で広域からの集客を可能にしている。川越店の敗因は商品面のほか、有利と見られた立地面にもあるかもしれない。
ヨーカ堂は今期、柏や川越を含む30のイトーヨーカドー店舗撤退を公表している。いまだ6店舗は明らかになっていない。有力視されているのは「飛び地」であり、非戦略地域である東海や関西の店舗だ。具体的には愛知県に4店舗、大阪府に4店舗、兵庫県に3店舗ある「イトーヨーカドー」だ。
ヨーカ堂は昨年から今年にかけて、千葉県や埼玉県内に3つのインフラを整備した。加工・調理を集中的に行う自社工場で、店舗の作業負担を軽減しつつ、内製化することでより柔軟な商品開発が可能になるという。
工場運営子会社の担当者によると、「(精肉など)消費期限の短い商品は静岡より西には届けられない」。このインフラ活用はリストラ策が中心の現行の構造改革では成長戦略の柱であるだけに、その恩恵を受けられない店舗は重荷となってくる可能性がある。
もっとも安城店(愛知)、津久野店(大阪)、アリオ加古川店(兵庫)など、直近で衣料品新ブランド導入のための改装が行われたばかりの店舗も一部あり、3府県のいずれも今期中のエリア撤退は考えにくい。ただ「物流面などで非効率さの残る西側の事業は徐々に縮小するのが定石」(グループ関係者)であり、今後の動向が注目される。
「ヨーカドーよりオーケーが気がかり」
先出の柏市の担当者は「イトーヨーカドーは地域商業のシンボル。撤退は非常に残念」と語る一方、競合店の店長は「そんなに脅威とは感じていなかった。撤退によるプラス影響もそれほどない。今はイトーヨーカドーよりもオーケーのほうが気がかりだ」とこぼす。
今年4月、柏駅に併設する高島屋ステーションモール内に「オーケー」が出店した(記者撮影)4月、柏駅に併設する高島屋ステーションモール内に、ディスカウント型スーパーとして消費者の支持が強いオーケーがオープンした。記者も訪れてみたが、オープン直後ということもあり、ピークタイムにはカゴと荷物を持っていては身動きが取りづらいほどの混雑だった。
柏市の担当者は「50年間、イトーヨーカドーが地域商業を支えてくれた。これからの50年に向けて新しい動きを起こしていくことが大切」と話し、駅周辺の再開発への意欲を語る。惜しまれつつ撤退が進む一方で、世代交代は着実に進んでいる。
※イトーヨーカ堂の特集記事はこちらからご覧になれます。
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