東原氏がV字回復後にしかけた経営改革とは?(撮影:尾形文繁)川村隆・元会長、中西宏明・前会長の後を受けて2014年、社長に就任、2016年には最高経営責任者(CEO)となり、ほぼ6年にわたって日立グループのかじ取りを担った東原敏昭氏。東原氏に課せられたのは営業利益率の高い「稼げる会社」にすることと、コト(サービス)を売る社会イノベーション事業への転換を加速させ、その分野で世界に伍していける「グローバル企業への成長」を果たすこと。東原氏はCEO就任3年目で目標の営業利益率8%を達成し、後半の3年間で1兆円を超える大型買収などを決断し、世界で戦える企業へ変革する道筋を付ける。東原氏が初の著書『日立の壁』で語った、V字回復後にしかけた経営改革とは━━同書より抜粋・編集してお届けします。

稼げる会社にする方法

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私は2016年に執行役社長兼CEO(最高経営責任者)になったとき、大事なミッションの1つは、全社の事業やプロジェクトの実態を把握し、不採算事業や将来性に乏しい低収益事業を整理することでした。「稼げる会社」にするためです。

カンパニー制を廃して新たに作った社内組織であるビジネスユニット(BU)のCEOには、「営業利益率5%以下の事業について、改善の合理的見込みがなければ撤退するのが原則です」と言い渡しました。事業継続するなら営業利益率8%以上をめざす。さもなければ事業撤退。二者択一を迫りました。厳しかったと思います。

こんな例がありました。旧社内カンパニーの電力システム社は、電力のニュービジネスとして「売電ビジネス」に取り組んでいました。先に触れた電力事業の自由化を受け、日立も新規参入したのです。

日立にはタービンやボイラーなどの発電設備の設計・製造技術がありますし、メンテナンスのノウハウと経験も豊富ですから、自由化をチャンスととらえ、売電ビジネスに参入したのだと思います。火力発電所も新たに建設しました。

しかし、電力システム社は利益率が低いままでした。BU制を導入してサイロを壊し、実態を見てみると、その売電ビジネス事業が赤字を垂れ流していたことがわかったのです。

売電ビジネスで競争力を得るには、コストを一定以下に保つため、安価な燃料を長期的・安定的に調達することやリスク管理が必須ですが、日立にはそのノウハウがありませんでした。

売電先との契約も、調べてみると首をかしげざるをえない内容でした。電力価格がほぼ一定となっているのです。燃料費など材料費が変動した場合には、そのぶんすべてを電力価格に反映させるという仕組みが不十分だったのです。

案の定というか、その後燃料費が上がり始めるとたちまち赤字を垂れ流す状況に陥ってしまいました。利益を上げるどころか、発電施設の建設への投資を回収することすらできなかったのです。

土木工事「禁止」

私は新たな組織である電力BUのCEOと議論し、すぐに撤退を決めました。もちろん、契約がありますから、撤退を決めたからといってすぐに事業を終結させられるわけではありません。その代わりに、個別のプロジェクトごとに、ビジネス環境の変化を先方に説明し、契約内容を変更していただく交渉を進めました。こういうとき大事なのは、だめなら「はいそうですか」ではなく、少しでもロスコストが削減できないか、泥臭く模索することです。

売電ビジネスからの撤退と併せて、土木工事付きのプロジェクトの一括受注も禁止しました。各BUが受注している土木工事付きのプロジェクトの実態を精査したところ、どれもこれもことごとく赤字であることが判明したからです。これも即決です。

日立は110年の歴史がありますが、出発点は工場文化です。根本には「いい製品を作れば売れる」という考えがあります。エンジニアはモノ作りをしたい。それはすばらしいことです。熱意も尊い。しかし、いいものをつくれば売れるはず、というのでは話が違います。

契約を節目節目で見直す、最悪の場合を想定して撤退条件を入れる、などのビジネスとして成立させるというマインドに欠けていたように私は思います。赤字であっても「環境問題に貢献しているのだから」「社会に貢献しているのだから」と逃げ道を作ってはいなかったでしょうか。

「赤字は悪」というマインドがないのは危険です。稼がないとだめです。利益が出なければ、社会に貢献するための事業を展開する次の投資ができません。7873億円の赤字の遠因には、そうした体質があったのだと思います。

数字はドリルダウンする

何かのプロジェクトのリーダーであれば、皆さん、日々、さまざまな報告を受けることと思います。ただ、数字も単に眺めていたのではだめだと思います。ブレイクダウン、ドリルダウンする。小さく細かくしていくと原因が見抜けることが多くあります。

「情報・通信系事業のあるプロジェクトの利益率は3%です」と報告されたとします。最終目標を8%にしていたわけですから問題があることは誰にでもわかりますね。ですが、現場を知らないと、どこに問題があるのかまではわかりません。

そういうときは、契約に問題があるか、システム開発の人員の配置に問題があるかのどちらかです。

情報・通信系の事業の中心はシステム開発で、システム開発の原価の中心はエンジニアの人件費です。したがって、利益が上がらない原因は、契約の際の見通しが甘かったりお客さまとの仕様の合意に齟齬があったりして開発が遅延し、コストがかかりすぎているか、あるいは、社内の人員配置や社外パートナーとの連携が悪くて、うまく開発が進まずにコストがかかってしまったか、どちらかの場合が多いのです。そこで、契約や開発にポイントを絞って聞くと、問題点はすぐクリアになります。

プロジェクトリーダーに求められる資質は、プロジェクトをお客さまと会社の双方にとって価値のあるビジネスとして成立させることです。人は、ともすれば争いごとを避け、相手から褒められたいと願うものです。けれども、コストアップに伴う契約の見直しなど、ときには言いにくいことであっても、臆せず申し出なければいけません。

「先憂後楽」でトラブル回避

肝心なのは、問題を認識しながら先送りにしないことです。早い段階であれば、傷も浅くて済むのですから、問題があるなら早期にお客さまや社内の幹部に伝え、判断を仰ぐべきです。

先憂後楽です。誰だってお客さまとけんかしたくない。初期の段階だったらいくらでも火を消せるのに「言いづらい」。自分が言えないなら上に言えばいいのに「自分で解決する」。結果大変なことになってしまう。

A社に何かのシステムを構築して納入するプロジェクトがあるとしましょう。この場合、すでにあるパッケージをA社仕様にカスタマイズして提供するか、システムを一から設計して提供するか、2通りあります。当然、パッケージ活用のほうが安い。しかし、パッケージの活用にはリスクもあります。たとえば、プロジェクトが進むにつれ、カスタマイズするだけではお客さまの要望に応えられないと判明した場合です。

このとき「せっかく受注させていただいたので、御社向けにシステムを一から作り直します」となるのが最悪のパターンです。受注額はパッケージ活用を前提にした価格のままですから、大赤字です。

ではどうすべきか。パッケージ活用を前提としていても、お客さまの要求を満たすシステムの仕様が確定するまでは、変更があるリスクを考慮して、価格が調整できる契約にしておくのです。「価格調整の項目を契約に入れておきたい」なんて、言いにくいことですね。しかし、お客さまに対してその条件やリスクについて説明を尽くし、合意し、きちんと契約に盛り込んでおけば、あとで大けがをすることはありません。問題が早く顕在化し、お客さまにとっても最終的によい結果となります。

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