――GSXの強みはどのようなところにあるのでしょうか。
当社は、セキュリティーの体制が十分かどうか対策を支援する「コンサルティング」、ネットワークやWebサイトなどでサイバー攻撃に脆弱なところはないかを調べる「脆弱性診断」といった、セキュリティーサービスを提供している。
セキュリティーサービス業界で有名なのは、野村総合研究所の子会社であるNRIセキュアテクノロジーズ、ラックなどだろう。
こうした会社は、脆弱性診断や非常に専門的な内容のコンサルティング、SOC(セキュリティー・オペレーション・センター、24時間体制でサイバー攻撃を監視するサービス)などを提供することで、工程数を決めて、それに応じた人員を配置し、対価をもらうという事業を行っている。サービスの提供先は大企業となる。
準大手、中堅、中小が顧客企業
大企業のセキュリティー予算は大きい。ただし、企業の数はすぐには増えないし、セキュリティー対策をすでに行っているため、予算も急に増えることはない。また、最近ではアクセンチュアやPwC、EYといった外資系のコンサルティング会社も参入しており、競争が激しくなっている。
一方、当社は準大手、中堅、中小企業をターゲットにサービスを提供している。大企業ではない規模の企業のセキュリティー対策はこれまで十分ではなかった。だが、最近になって対策を行う理由が出てきた。
たとえば、サイバー攻撃を受けて業務が止まったら、復旧させるために、お金をかけてでも緊急対応サービスを利用せざるを得ない。また自動車業界では日本自動車工業会が、医療系で厚生労働省が、金融系では金融庁が、それぞれサイバーセキュリティーのガイドラインを出している。
大手企業以外も、予算をかけてガイドラインに準拠しなければならない、という状況になっている。
当社の場合、コンサルでは一部をテンプレート化するなど共通化している。脆弱性診断では診断ツールとエンジニアによる手動の分析を組み合わせたハイブリッド型で行うなどしている。それらによって、どちらも人員や納期を抑えている。
大企業では当社のサービスに満足できないだろうが、準大手から中堅、中小には十分な内容となっている。価格も大手に対して、半分ぐらいの水準で提供している。
サイバーセキュリティー教育も強みだ。コロナ禍でさまざまな企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に舵を切る中で、IT企業にとっても、開発しているインフラやアプリに、セキュリティー対策を盛り込むことが必須となった。そこで、こうしたIT企業のエンジニア向けにセキュリティートレーニングを行う、教育事業を展開している。
ミックスモデルで粗利を上げる
――業績が伸び悩むサイバーセキュリティー企業が少なくない中、GSXの売上高成長率は突出しています。
コンサルや脆弱性診断などは、どんなに頑張っても粗利率が30~40%にしかならない。しかし、教育事業に関しては当社がコンテンツを作って提供しているので、50~60%に達することもある。
そのため、たとえば緊急対応サービスを入り口に、コンサルでアップセルするとか、複数サービスでクロスセルするなど、顧客単価を引き上げることが可能だ。
当社は、セキュリティー製品の導入支援や運用のセキュリティーソリューション、セキュリティー人材を派遣するSES(システムエンジニアリングサービス)などを行うITソリューションといった、いずれもセキュリティーに関連した事業を手がけている。
そこに採算のよい教育が加わると、粗利率がぐんと跳ね上がる。そういうミックスモデルを展開している。
――GSXは、セキュリティー製品を販売している網屋(4258)に4%出資し、同じくセキュリティーサービスを提供するブロードバンドセキュリティ(4398)に22%出資するなど、提携戦略を活発化しています。
提携は、販路拡大、事業領域の拡大、リソースの拡大、サービスラインナップの拡充という4つの領域で考えている。サービスラインナップを拡充し、(顧客単価を引き上げる)アップセルができる商材を狙ったのが網屋への出資だ。
網屋の主力製品で、ログを管理する「ALog(エーログ)コンバーター」は非常に優れた商品だ。市場には海外企業が提供するスプランクやエクサビームなどログを管理する製品があるが、いずれも大企業向けの価格設定となっている。エーログコンバーターは当社が得意とする顧客層にちょうどよい価格帯のため、伸びが期待できる。
ブロードバンドセキュリティには22%を出資した。同社はセキュリティーサービスの中でも、大手や準大手企業を主要な顧客層としており、当社の顧客層とは少しずれている。約250人のエンジニアがいて、SOCを運用していること、金融系カード会社のセキュリティー対策に強いこと、東南アジアに拠点を持っている点が魅力的で、シナジーが十分に見込める。
売り上げは安定的に伸びているが、利益の変動が激しい時期もあり、株価が低迷していた。今後、経営戦略を一緒に練ったり、アドバイスをしたりすることで、シナジーを作っていきたい。なお資本提携で、業界再編や業界をどうこうしていこうとは考えていない。
同業ベンチャーを支援する理由
――セキュリティー企業がセキュリティー企業に投資するというファンドの設立を3月に発表しました。狙いは?
セキュリティーの業界は製品系とサービス系に分かれる。当社のようにコンサルや脆弱性診断といった、サービス系を提供する会社は、日本というドメスティックなマーケットで、準大手や中堅、中小企業にちょうどいいサービスを提供すれば生き残ることができる。
一方で製品系の会社は海外勢との競争が激しい。かつて、(ネットワークを守る)ファイアウォールや、(パソコンやサーバーなどの端末を守る)エンドポイントでは日本の製品も結構あったが、ほとんど海外勢に負けてしまった。
青柳 史郎(あおやぎ・しろう)/1975年生まれ。1998年、ビーコンインフォメーション テクノロジー(現ユニリタ)入社。2009年1月、クラウドテクノロジーズ取締役を経て 、2012年3月にグローバルセキュリティエキスパート入社。2018年4月に社長就任(撮影:今井康一)加えて、アメリカやイスラエルは、国を挙げて世界中の脅威情報(どんなサイバー攻撃集団が活動しているか、どういった攻撃を行っているかなどの情報)を集めている。そこで集められた脅威情報が海外勢の製品に反映されているので、勝てっこない。日本企業が製品系で生き残るには、日本の市場環境にあわせたラインナップを展開するしか道はないだろう。
今、日本にはセキュリティー対策が十分ではない中堅、中小企業がたくさんある。一方で、セキュリティー企業そのものの数が少ないという問題がある。
そのため、セキュリティーの企業が新しく生まれたら、ベンチャーキャピタルは投資してくれるかもしれないが、こうした市場環境では自力で成長したり、IPO(新規株式公開)にこぎ着けたりするのは相当に難しい。
しかし、セキュリティー業界の人たちが出資するファンドであれば、有望な企業の成長を支援することができるはずだ。ファンドに出資する企業にとっても、投資先が成長したり、上場したりすれば儲けることができる。
出資を受ける企業も同じ業界の企業から、経営や営業の支援、顧客基盤の紹介などを受けることができる。投資する企業も、こうした企業の製品やサービスを自社のラインナップに加えることができるかもしれない。
そうすれば1社が単独で成長するよりも、加速度的に成長が早まるし、業界のつながりも深まる。その結果、日本全体のセキュリティーの水準も上がって、より守られることになるだろう。
――今後のスケジュールは?
まずは発起人の4社、当社と兼松、兼松エレクトロニクス、ウエルインベストメントの4社で約10億円を出資し、ファンドを組成する。
その後、セキュリティー会社20社程度に数千万~数億円程度を出資してもらうイメージだ。そうすると30億~50億円ぐらいになる。後追いの出資を含めて70億円程度、そして機関投資家や金融機関を含めて100億円程度と考えている。
実際にセキュリティー企業の数十社に出資の話をしたが、反応は上々だ。親会社の方針や過去の経緯もあって辞退するといった会社も一部あったが、大半の会社は出資の意向を示している。詳細に関しては、6~7月に公表する予定だ。
業界全体をボトムアップへ
――投資先のイメージは。
3種類の投資先を考えている。まずはピュアなベンチャーだ。
ファンドの投資責任者をお願いしているウエルインベストメントは、早稲田大学のファンドなどを運用していた会社で、大学とのつながりが深い。こうした大学系のベンチャーや、アーリーステージで創業間もない企業などを投資対象としたい。
2番目は、今のままだと低評価のまま上場になってしまうため、われわれの出資と支援を受けて、勢いをつけて上場したいベンチャーだ。
そして3番目は株価が低迷している上場企業となる。時価総額20億~30億円で沈んでいる会社に、ファンドが応援団として出資し、会社の価値を高めて、株価をしっかり上げて、評価益をもらうという構図だ。
――セキュリティー会社がセキュリティー会社に出資をすると、競合を育てたり、競合にならないように成長を妨げたりといった懸念はないのでしょうか。
投資の目利きをするのは、セキュリティー会社の事情に詳しい、数社の担当者で構成されるアドバイザリーボードになる。「この会社を育てたら、あの会社の脅威になるかもしれない」という話は当然に出てくるだろうが、その辺は柔軟に対応したい。ただ、競合を作るという発想はそもそもない。
今回のファンドは僕が構想した。当社は多くのセキュリティー企業と取引関係があるので、さまざまな企業にファンドへの参画を呼びかけている。ファンドを通じて、各社の経営者が悩み事を相談し合ったり、成長を応援したりするような環境を作り、業界全体をボトムアップしていきたい。
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。