今週円相場は160円を突破した後、1週間で8円以上も円高に振れました。政府日銀が円買いの市場介入をしたとみられます。
為替介入2日で8兆円規模か 一時1ドル160円から乱高下
4月29日の午前、外国為替市場では一時、1ドル160円まで円安が進みました。ところが・・・
円相場は160円をつけた後、154円台まで一気に円高に。政府日銀が5兆円規模の円買い介入に踏み切ったとみられています。
円の急落をもたらした要因の一つが、日銀植田総裁の会見です。
――今回金融政策の変更がなかったということは、これはつまり円安の進行が無視できる影響だというそういう範疇になるというご認識でしょうか
日本銀行 植田和男総裁:
とりあえず、基調的な物価上昇率への大きな影響はない。
――つまり今回これは基調的な物価上昇率への影響は無視できる範囲だという認識でよろしいでしょうか?
日本銀行 植田和男総裁:
はい。
これを受け、市場では日米の金利差が当面縮まらないとの見方が広がり、円安が加速しました。
29日の介入とみられる動きの後も、円安圧力は弱まることなく、157円台まで押し返されました。そして2日、もう一度相場が大きく動きました。
FRB パウエル議長:
次の政策の行動が利上げになる可能性は低いと考えている。
アメリカのFRBは1日、金融政策を決める会合を開き、5.5%を上限とする現在の政策金利を6会合連続で据え置くことを決めました。
FRB パウエル議長:
インフレ率が持続的に2%目標に向かう確信が得られるまでは利上げは適切でない。特にインフレ指標は予想を上回っている。確信を得るには以前の予想よりも時間がかかると思われる。
また、パウエル議長は利上げの可能性については低いと強調。
市場が警戒したほどタカ派でない発言から、円相場は157円ちょうど付近までやや円高に振れました。
そんな相場が落ち着きを見せた矢先でした。157円から153円まで一気に4円以上円高が進んだのです。今週2度目の市場介入が行われたとみられます。
過度な円安に企業も警戒しています。
丸紅 柿木真澄社長:
あまり行き過ぎた円安は歓迎できない。
三菱商事 中西勝也社長:
我々が海外でM&Aをするときについては、やはりこの円安っていうのは非常にボディーブローとして効く。
日本航空 斎藤祐二副社長:
既に日本発の需要については、この円安の影響が大きく出ている。
今後、政府日銀がどのように対処していくか。市場との攻防は続きます。
為替ストラテジストに聞く 介入のタイミングと効果
――29日の月曜日160円を付けた後、154円台まで一気に円高が進んだ。また2日の早朝にも157円台半ばから153円まで、4円以上円高が進んだ。このツーチャンスの為替介入をどう分析するか。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
最後の砦と思われる160円。ここで実施してもう1回やったと。ある意味でスムージングオペレーションという限界はあると思うが、それを知った上で財務省はもうやらざるを得ないということで、介入をやったと思う。
――2日はむしろ円相場がやや円高を目指してるようなときに追い打ちをかけるような感じでクリーンヒットだったかなと思うが。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
東京市場がオープンする前、多分ウェリントン市場でやったと思うが、そういうのも含めてどこでもいつでもやるよというメッセージは残せたかなと思う。
――151~2円が防衛ラインと言われていたので、遅すぎではないか。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
実は152円は去年一昨年の高値でもあるので、そういう意味で言うとそこを守るべきだったと思うし、なんせ160円を超えると、あんまり伸びしろがないので、その手前でやるべきだったなと思う。
――2022年の介入のときは151円ぐらいでやっている。それから去年の暮れに円安局面になったときもこのあたりがピークだったので、市場はみんな身構えていた。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
やはりそこは当然皆さん意識するところなので、152円を超えてしまうとあっという間に160円までいってしまったという意味で言うと、そこは本来なら入るべき良いポイントだったかなと思う。
――政府が持っている外貨準備を挙げてみた。現金で持っている預金は1550ドル、約23兆円ということで、今8兆円使ったとすると、残りのすぐに使える金は15兆円ぐらいか。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
理屈から言えば、この証券も売ってもいい。ドルを調達してそれを売ればいいということ。
外貨証券、ドル建ての証券を売ることになると、アメリカの金利上昇圧力にも繋がるからあまりアメリカはいい顔をしないだろう。
――アメリカ国債を売ってアメリカの金利が上がったら、円安に振れるわけだから、元も子もないというか本末転倒だ。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
理屈はできるが、実務的にはやはりこの預金と言われるこの水準で収めておきたいのは当局の本音ではないかと。
――普通に考えるとあと3、4回くらいしかできないということ?
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
要は介入だけではやっぱり限度があるということは、この数字から見ても明らかだと思う。
――当局はどれぐらいまでもっていきたいと思っているのか。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
やはり、152円からその下、できれば140円台にもってきたいだろう。
年初来ドルのインデックスが大体4%前後上昇している。これはドルの金利が上がっているから。
――ドル高が全体として4%ぐらい進んでいる。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
これをドル円に当てはめると大体146~7円ぐらい。その辺まで可能であればもっていきたいと思っている。ドル高ではあるけれど円安ではないということ。
――今回の円安局面はかなり逼迫した状態だということを常々主張しているが、通貨危機前夜くらい危ないと見ている?
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
このチャートでも明らかな通り、160円を超えてしまうと200円まであまりチャートポイントがない。これはやはり相当やばい水準だと思うし、そういう意味で言うと結果的に今はもう非常時に近いと思う。
――我々はこの40年ずっと円高時代に生きてきたので、円安は心配しないでいいと思っていたが、アルゼンチンや遠い新興国のような通貨危機は怖い?
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
通常はこういうことは起きない。特に先進国の市場では起きないが、そういうようなことが話題になってしまうと、実は為替市場自体は実物資産がないから、理論的にはいくらでもできてしまう。そういう意味で言うと、一旦その投機筋が牙をむくと正直言って日銀だけでは中央銀行だけでも対応できない。それぐらい大きな市場。逆に言うと当局としては非常時に陥らないことが大事。ところが今、非常時のもう本当に近くの入口まで来ている。それはこのチャートから見ても明らかだと思う。
――かつてはポンド危機というイギリスの通貨危機があって、結局当局も負けている。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
それは本当に何十年に1回の話だが、少なくとも水準を見る限り、そこまで来てしまった。
――物価・所得への悪影響をどう見るか。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野 英生氏:
私の目から見ても家計にとっても危機だと思う。これは物価上昇、特に輸入コストが上がる。今物価上昇率は少し鈍化しているが、今の為替レートが数か月すると物価上昇は少し前に考えられた時よりも、コストアップする。例えば去年の平均が144円なので155円だと大体7%為替が円安になって消費者物価でいうと0.4%ほど物価上昇が進むような形に。
――物価が上がれば我々の実入りが少なくなってくる。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野 英生氏:
定量的に私もどのぐらいのインパクトがあるかを考えてみたが、これは負担増ということで、もう既に2.5%ぐらいの物価上昇で、1年間に8.8万円ほど物価上昇の重みがあって、そこに0.4%の物価上昇で円安効果1.3万円の物価上昇が来て、さらに4月から電気代の値上げが1.7万円増えて、累計すると11.8万円。これはなんと6月に定額減税が1人4万円、世帯で2.9人いるので掛け算をすると11.6万円。11万円の定額が吹き飛んでしまう。
――本当は減税があったら実質所得がプラスに転じて、好循環へというシナリオを政府は描いたが、それがどんどん後ずれしていくリスクがある。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野 英生氏:
大手は賃上げを大規模にやった。だけど夏以降中小企業がさらに賃上げで追随してこなかった場合には、実質賃金は秋ぐらいにプラスになるのではないかと結構みんな見ていたが、秋の実施賃金のプラスも怪しい。やっぱりマイナスは解消できないかなという見方に少し今傾いてきているのが実情。
――消費や需要はいつまでたっても盛り上がらず、好循環は一循環で終わってしまう危険性がある?
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野 英生氏:
円安は、見えにくい危機だと思う。
――円安の根本的な問題は日米の金利差。金利をもっと上げて円安を止めろという声もある。日本経済はそこまでまだ強くはないのも事実か。
第一生命経済研究所 首席エコノミスト 熊野 英生氏:
日本銀行がマイナス金利の解除をやった。これは大成功だったと言う人がいるが、まだ0.1%。ほとんどゼロ。これをどこまで上げられるか。仮に1%ぐらいまで上げると、今上がってない貸し出し金利が上がるので、中小企業、事業利益よりも利息の方が負担が大きい企業が17%ぐらい中小企業でいるので、そこはバタバタ潰れるようなことになるとやっぱり日本は金利を上げられない。アメリカの5%の差が恒常的に4%、構造的な円安、投機的な円安ではなく構造的な円安が続きそうだというのが私の見方。
――通貨危機前夜の対応策は?円高宣言をしろと。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
通貨高はプラスだというのは普通は禁じ手。政権が為替のレートについてあまり言及することは禁じ手だが、私は非常時だと思うのでこれぐらいやらないとしょうがない。例えば90年代のクリントン政権時代、これは明らかにドル高はメリットであるというメッセージを発している。
――ドル高はアメリカの国益であると財務長官が当時繰り返した。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
そういう意味で言うと、これはないわけではない方がいいと思うし、言うだけじゃ駄目なので日銀が少なくとも継続的な利上げを検討しなくてはいけない。イメージ1%台ぐらいまでは、少なくともやらないとやっぱり言うだけということになってしまう。
――植田総裁の会見でのオウンゴール発言は本音か。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
やはり日銀は主体的に利上げしたくないというのが多分過去のトラウマがあったのではないかと思う。ただあれは相当インパクトがあったと思う。
――同時に政府も介入を続けろと。
バルタリサーチ 花生 浩介氏:
これは淡々とやればいいと思うが、ある種の時間稼ぎ。
理想的に言うと少し時間を稼いで、その時間の間に、ドルの金利が少し落ちてくれれば最高だと。ただ、いずれにせよこれはスムージングという意味で言えば限界はあるだろう。
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<プロフィール>
花生浩介
1980年 日本興銀行入行
2006年 HSBC 外国為替本部長
2017年 バルタリサーチ設立
熊野英生
第一生命経済研究所 首席エコノミスト
金融・財政政策を中心に幅広くカバー
近著「インフレ課税と闘う!」
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