今年3番目の株価下落から一転、円安株高基調と波乱の幕開けとなった石破新政権
市場を惑わす石破総理の発言の“ぶれ”に注目した。
石破新政権 波乱の幕開け 株価は今年3番目の下げ幅
石破茂 総理:
デフレ脱却を最優先に実現するため、経済あっての財政との考え方に立った経済・財政運営を行い、賃上げと投資がけん引する成長型経済を実現しつつ、財政状況の改善を進め力強く発展する。
所信表明で自らの経済政策の決意を語った石破総理だが、市場は方向性をまだ測りかねているようだ。石破内閣が発足する前日の9月30日。日経平均株価は、今年3番目の下げ幅を記録。いわゆる「石破ショック」に見舞われた。その背景にあるのが石橋の金融経済政策に対する懸念。日銀の追加利上げや石破氏が主張する金融所得課税への警戒が強まり、株価を押し下げた。
石破茂 総理:
日銀との意思疎通のもと政府として、具体的な手法は日銀に委ねられるべきものと考えている。
総理就任直後の会見では今年、金融正常化に向けて踏み出した「日銀の独立性」に言及した石破氏。ところが翌日2日、日銀・植田総裁との会談後には「私は個人的には現在そのような(利上げする)環境にあるとは思っていない」と発言。市場は大きく反応した。
円相場は約1か月ぶりに一時1ドル147円台まで円安が進行。この円安を追い風に、3日の日経平均株価は前日より一時1000円以上値上がりした。4日、石破総理は、記者団の取材に応じ、植田総裁の「追加利上げを判断するまでには時間がある」の発言を引用。「時間的な余裕はあると説明されていることを念頭に、そのような理解をしているということを申し上げた」と自身の発言について釈明した。
石破新政権 波乱の幕開け 市場を惑わす総理の発言
石破総理の発言に大きく翻弄された市場。番組の市場予想でおなじみの黒瀬浩一氏は総理就任後の発言の“ぶれ”についてこう語る。
りそなアセットマネジメント チーフストラテジスト 黒瀬浩一氏:
株価の急落、それから一気に円高を振れたのを見て(発言を)直したというのはブレたというより完全に修正したという理解でいいのかなと思う。石破ショックを払拭するために、金融引き締めに「積極的」から、どちらかというと「消極的」(に変わった)。財政再建についても、法人税増税と金融所得増税について、経済あっての財政という形で後退させている。
金融と財政を大きく後退させたと思う。この2つが石破ショックを払拭するという意味では非常に役立った。
石破新政権 波乱の幕開け 実現可能?「最低賃金1500円」
石破総理が経済政策として掲げるのが、「物価を上回る賃上げの実現」。
石破茂 総理:
適切な価格転嫁・生産性向上支援により、最低賃金を着実に引き上げ、2020年代の全国平均1500円という高い目標に向かって、たゆまぬ努力を続ける。
この目標を達成するには、毎年89円を5年連続で引き上げることになる。岸田政権では「2030年代半ばまで」としていた目標を「2020年代」と、5年程度前倒しにした格好だ。
東京墨田区にある創業58年の居酒屋「三祐酒場 八広店」。焼酎ハイボール目当ての客で常時満席に近い人気店だ。同店では8人のアルバイトを雇っている。店主・奥野木晋助さんは賃金に関して「実際1200円にはもう一昨年から変更している。最低賃金で雇おうと思っても人がなかなか集まらない。これが現実だと思う」という。東京都の最低賃金は10月から50円引き上げられ、「1163円」だが、この店では人材確保のため、既に一昨年から1200円にしている。奥野木さんは「最低賃金1500円が本当になるとしたら、うちでも最低でも1700円とか1800円、下手すると2000円払わないと人が集まらないという状況になってしまう」。時給が1500円を超えると更なる価格転嫁は避けられないという。
「『にこみ』一杯、税込550円で提供しているが、最低時給1500円となると、税込にすると770円。例えばもう何消費税が上がるとなると下手すると『にこみ』一杯800円で売らないと間に合わない」。現在の客単価は4000円ほど。奥野木さんは値上げすれば6000円になると試算する。
週1~2回来店する常連客は「洋服1着買うのをやめて、ここに来る人もいれば、食べるものを我慢して洋服に使う人もいる。このメンバーはみんなここに来る」。
番組コメンテーターの矢嶋氏は「最低賃金」についてこう語る。
ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
人手不足を確保する企業にしてみると今回石破総理が掲げた最低賃金の引き上げのペースはそれほど非現実的ではない。例えば生産性を上げて、最低賃金を上回るような生産性で何とかクリアしていく。できる企業は、より業務を拡大する。できない企業はできる企業に人や会社をM&Aの形も含めて吸収されていくという流れがその裏では起こる。綺麗ごとでみんなが良くなるみたいな話ではなく、選択と集中が起こるような制度設計をどうするか併せてやらないと、今回の最低賃金の引き上げは現実的には難しいと思う。
石破内閣の支持率は、岸田内閣発足時を下回る50.7%。矢島氏は支持率向上の鍵は物価高対策にあると指摘する。
ニッセイ基礎研究所 チーフエコノミスト 矢嶋康次氏:
インフレの問題が解決しないと、国民の支持率は上がらなくて短命政権に終わってしまう。今言っている「いろいろやりたいこと」がほとんど何もできない政権になってしまう。
石破新政権 波乱の幕開け 所信表明演説で経済政策は…
石破政権が発足し、10月4日に総理の所信表明演説が行われ、「デフレ脱却を最優先」「物価上昇を上回る賃金上昇を定着」「最低賃金を2020年代に全国平均1500円」「低所得者世帯への支援」「原子力発電の利活用」「地方創生交付金を当初予算ベースで倍増」などを訴えた。
――岸田政権の継承的なものが多い?
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
これだけみると、石破氏は確固たる経済政策に対する思想や考えがちょっとないと思わざるを得ない。ちぐはぐな印象を持つ。
そして日銀の追加利上げを巡って驚きの発言があった。まず就任した10月1日。石破総理は、「金融政策の具体的な手法は日銀に委ねられるべきもの」と発言した。しかし翌日には株価の下落を受けてか「個人的には現在追加の利上げをするような環境にはない」と発言。この発言により一気に円安が進んだ。そして翌3日には改めて「引き続き政府としては日銀と密接に連携し、政策運営に万全を期したい」と慎重な発言となった。
――2日の発言は「追加利上げは認めない」という宣言に等しい。翌日釈明に追い込まれた。
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
これを首相が言ってしまうのはまずい。この辺の感覚がすごい弱い方。当然日銀総裁と話したときに首相がこういうことを言うべきではない。確固たる方向性や、そういったものが弱い方。
――会談で何があったかを喋るのは日銀総裁だけで、首相には喋らせない。石破政権のガバナンスや官邸の体制も問題だと思う。
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
結構難しいところで、緩やかに何とか円安を是正したいという状況なので、こういう軽率な発言は、慎重にしてほしい。
そうした中で、唯一と言っていい具体的な政策が「最低賃金1500円を2020年代中に」ということだ。2020年代のうちに最低賃金の全国平均を1500円に引き上げるためには、毎年「89円」の賃上げを「5年間」続ける必要がある。2024年度の引き上げ額の全国平均が「51円」で、過去最大の引き上げ額だった徳島県でも84円だった。
――岸田政権は「2030年代半ば」と言っていた。仮に2035年とすると、毎年3%ちょっとずつぐらいの引き上げ率でいけるが、2029年に前倒しすると定額で切って毎年89円。率でいうと7.3%、先週はサントリーが、3年連続で7%の賃上げをすると発表、全ての企業がサントリー並みの賃上げを毎年しなければ駄目だということで、かなり難しい。
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
はっきり言うと現実には不可能。サントリーだからできる。日本は中小企業が中心の国。中小企業の人々はものすごい苦しい、ギリギリの中で経営している。そこで人件費を毎年7%上げるというのは、当然難しい、不可能に近い。
――賃金を上げるためには、企業が自分から進んで賃上げをするようになっていくということだと思うが、そのためには何が必要なのか。
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
非常に重要なポイントで、アベノミクスのときも「第一の矢」「第2の矢」と、金融政策・財政政策をやるが、やはりポイントは「第3の矢」の構造改革。ただこの構造改革はリストラして失業者を増やすとかではなく、従業員も自由に賃金が高い会社、働きたい会社を選べるような仕組みにして、選ばれる会社になるために会社経営側が努力をするという「好循環」をつくっていくことが一番重要だが、ここができていない。例えば、日本はまだ「メンバーシップ型雇用=終身雇用」で特定の会社に所属することが前提だがまずはこれを「ジョブ型雇用」に変えていき、「自分の仕事は、何をする仕事なのか」ということに合わせていくのが重要。そうすると、自分の仕事がはっきりするから、自分の市場価値がわかるようになる。例えば「自分がこの会社に働いていて、あっちの会社に行った方が実は高いお給料もらえる」ということがわかってくる。だったら転職すればいい。逆に「自分の市場価値はあんまり高くない」ということがわかったら「リスキリング」して「一生懸命努力しよう」というインセンティブが生まれるが、まだ日本にはこれがない。
多くの人が自分の市場価値を知らない。その状態で解雇規制だけ緩和しても社会不安を煽るだけだ。
――労働者の側が自分で自発的に動くことも大事だが、同じ業界の中にすごく成功して高い給料を払ってる会社が存在しないと、人々は移ろうと思わない。つまり、そういう変わった会社を作っていくということが大事か。
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
雇用の流動化の一方でもう一つ重要なのは経営改革。日本の大手上場企業の最大の課題が「社長の任期が決まっている」こと。社長の任期が2年2期とか3年2期(4年~6年)。会社経営は変革するときにものすごい時間がかかる。他社とは違う独自の戦略を取って価値を上げていくことが何より重要だが、下手すると10年以上かかる。そのぐらい時間をかけて会社というものを改革するべき。ところがなぜか会社というものは経営者に謎の任期がある。そもそも経営者は1年任期。毎年株主総会ではかられて、能力がない人は1年でもクビになり、今年は改革できそうだと思ったら10年でも20年もやってもらえばいい。「コーポレートガバナンスの改革」ということが最近、日本でようやく進んできたが、まだまだ足りない。つまり社外取締役の仕事は一言でいうと、能力がない、差別化できない社長をクビにして、それができる社長を連れてきて、長期で経営をしてもらうこと。その辺が日本はまだ道半ばだ。
――ガバナンス改革も今は株価の視点で見られることが多いが、従業員の給料を上げていけない会社はガバナンス改革で変えていく発想になっていかないと駄目か。
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
日本の会社がなぜ今、上場企業株価が「PBR(株価純資産倍率)1倍以下」かというと、実は利益率はだんだん上がってきている。しかし株主還元したり、コストカットでやっているだけで、「中長期的にこの会社をどういう未来に向かって、どういうユニークな戦略で変革させるか」というところが市場に見えてないので株価が低い。だからそちら(中長期的な変革)をやっていくのが本命だ。
――「好循環」のためにマクロ政策がどうあるべきだという議論も大事だが、個々の企業をどうやって成長させていくかにもっと目を向けるときかもしれない。
(BS-TBS『Bizスクエア』 10月5日放送より)
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