円安が追い風となって、外国人観光客、インバウンドの消費が増加している。こうした中で、外国の紙幣を日本円に両替する自動外貨両替機の設置が全国各地で急速に増えている。
12通貨に対応「外貨両替機」 インバウンド消費を後押し
外国人観光客が行き交う街、東京・秋葉原。円安も追い風となり、観光庁の発表によると、2024年1月から6月のインバウンドの消費額は、上半期として過去最高の3.9兆円となった。
旺盛な消費を後押ししているのが、家電量販店の入口にある、まるで銀行のATMのようなこの機械。外国の紙幣を日本円に換える自動外貨両替機だ。使い方は簡単。タッチパネルの指示に従って紙幣を投入するだけ。アメリカドルを始め、ユーロ、イギリスポンド、中国元、韓国ウォンなど12の国と地域の紙幣を30秒ほどで日本円に両替できる。この日(9月18日)の両替レートはアメリカドルの場合、1ドル132円。(為替レート142円)。
インドからの観光客は「素晴らしい機械だ。日本での行動がすごく楽になる。手持ちの日本円が足りなくてもここで両替すればもっと買い物ができる。簡単で便利だ」。
ドイツ人観光客は「今日は素敵なお箸と日本の包丁を買った。この機械は使うのも簡単で、現金を使いたいときに役立つ」。
ケニア人観光客は「日本は通貨を両替できる場所が少ない。場所を探さねばならないし、長い距離を歩かないといけない。この機械は使いやすいし、メッセージも英語だ。日本は英語があまり通じないから助かる」。
こちらの店舗の両替機では、1日当たりおよそ50万円が両替されている。
ビックカメラ グループインバウンド室 前田浩則室長:
とにかく我々はお客様の利便性というところを考えて、導入することで店内でサービス(両替)を完結することで買い物にスムーズに繋げることが可能になっている。この両替機はグーグルマップ等でも両替機のプロット(点)が位置づけされるので、来店目的でない客も、店内に引き込む効果が生まれている。
設置することで、集客効果とともに購買機会も創出している。
この自動外貨両替機を手がけるのが、東京・新橋に本社を置く「アクトプロ」。不動産のコンサルティング事業会社だが、日本の観光地では現金決済が多いのに両替できる場所は少ないことに着目し、2016年、両替事業に進出。今では売上の半分を占めるまでに成長した。
そもそも両替事業は1999年の「外為法改正」によって、マネーロンダリング(資金洗浄)やテロ資金供与防止のため、報告と届け出の義務を果たせば誰でも自由に行うことができる。それでは、インバウンドの両替需要が見込めるのは、どんな場所が多いのか。
12通貨に対応「外貨両替機」 両替需要が見込める意外な場所とは!?
アクトプロ SMARTEXCHANGE事業本部 中野雅人常務取締役:
観光してる道中に隙間時間、余裕のある時間帯に目に触れやすい場所に優先的に設置している。
空港や駅といった旅の動線上に積極的に両替機を設置しているという。
アクトプロ SMARTEXCHANGE事業本部 中野雅人常務取締役:
手元に現金があることによって購買意欲が高い状態で、観光地を回ってもらって、観光地にしっかりと落としてもらえるようになればいい。
今では宿泊施設をはじめ、外国人観光客が多く訪れるドラッグストアやコンビニ、ゲームセンター、飲食店と、設置台数は650台を超えた。
中にはこんな場所にも…
アクトプロ SMARTEXCHANGE事業本部 中野雅人常務取締役:
寺社仏閣などはやはり観光客には非常に人気。設置場所の言葉を借りると「日本の神様には日本のお金でお賽銭を投げてください」と。
9月19日、広島市の原爆資料館にも外貨両替機が設置された。広島市によると、2024年4月から8月末までの外国人の来館者数は34万人を超えていて、過去最多となっている。
広島市市民局 国際平和推進部 西村香澄さん:
G7を契機としてインバウンド客が増えていて、利便性の向上のために設置することを決めた。
館内では、自動券売機やロッカーなどが現金のみの対応となっているため、両替機の導入で、インバウンドの受け入れ態勢強化と、その後の市内周遊に繋げたいとしている。
ドイツ人観光客は「両替機を見つけるのが大変だ。とても便利で使いやすい」。
メキシコ人観光客は「空港の両替コーナーで長蛇の列に並ばずに済むので、この公共施設に両替機があってとても役立った」と語る。
広島市市民局 国際平和推進部 西村香澄さん:
ここで外貨を現金に替えて、広島の他の魅力的な施設や美味しい食べ物を食べてもらったり、消費の拡大に繋げたい。
両替のレートは毎日午前中に見直し、全国の両替機に反映している。両替手数料は銀行と比べると少し割高の10%ほどになるが、これがアクトプロの売り上げとなる。
アクトプロ SMARTEXCHANGE事業本部 中野雅人常務取締役:
我々は街中のロケーションに置かせてもらって利便性を図ってその場で使うような現金を調達してもらう形なので、コンビニ(アクトプロ)で買うのか、スーパー(銀行)で買うのかと同じ感じ。本当にこの1年間、4月は円安のおかげで余分にお金を落としていかれたのではないか。
12通貨に対応「外貨両替機」 12の通貨をどう見分けるのか!?
利用が増えている外貨両替機。しかし、12の国と地域の紙幣はどのように見分けているのか。
アクトプロ SMARTEXCHANGE事業本部 中野雅人常務取締役:
紙幣の識別なので、各国のデータを集めて、一つに乗せているだけなので難しいものでもない。実際12通貨に設定はしているが、もっと40でも50でも受け入れることは可能。
両替機にはそれぞれの紙幣のデータが入力してあり、センサーによって自動で判別。また、実際に使われる通貨の75%がアメリカドルだという。
アクトプロ SMARTEXCHANGE事業本部 中野雅人常務取締役:
安い手数料ではないので、使わないお金を両替しないと思う。両替した金は周りに全部落ちていると思うので、どんどん使ってもらおうと。
12通貨に対応「外貨両替機」 海外へ輸出も…目指すは「両替インフラのスタンダード」
アクトプロはすでにこの外貨両替機を海外に輸出している。さらに70か国と商談を行い、「両替インフラのスタンダード」を目指している。
アクトプロは2016年に外貨両替機事業に進出。インバウンドの増加とともに、設置台数を増やし、現在は650台以上とシェアトップを誇っている。そして2026年には1000台を見込んでいる。
――旅行先で現金を持っていないのは不安なのか。
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
非常に日本的だと思う。まずこれだけ両替機が日本で求められているということはその裏返しで、日本はまだキャッシュレス決済が進んでいないということ。私は2週間前にイタリアに行ったが、現金はチップぐらいでほぼ一切使わなかった。それで事足りてしまう。しかし、日本、とくに地方部に行くと、未だにタクシーでも現金を求める運転手はいるし、寺社など拝観料は全部現金。屋台なども全部現金。キャッシュレス決済が進んでないことの裏側でこういうビジネスが出てきている。あともう一つは、日本の治安がいいということがある。海外だとお金が入っていて、小さいからすぐ壊されて持っていかれると思う。だから日本の治安の良さを反映している。
外国人の方々が日本で何が不便かと聞いたところ「無線LANがない」というのはよくわかる。「コミュニケーションが上手くできない」「目的地までの公共交通の利用方法」などいろいろあるが「両替場所がない・クレジット利用できない」というのがある。
10月に入り、中国の国慶節で多くのインバウンド客が来ている。2024年8月の訪日外国人数は293万人となった。月ごとの過去最多を7か月連続で更新している。
訪日外国人の消費額は半年だけで3.9兆円で、2024年は8兆円と過去最高額が見込まれる。
――インバウンドは最大の成長産業なのか。
早稲田大学ビジネススクール教授 入山章栄氏:
「これから日本は『シニアG7』を目指そう」といっている人がいる。G7は経済大国だが、勢いがあって経済成長している国がやることであり、これからそういうのはインドなどに任せる。ゴルフもシニアプロとかあるが、日本は一段高い、シニアで成長する国、ゆっくり成長する国になればいいのではないか。日本以外だとフランス、イタリア、スペインあたりは全部観光立国。そう考えると日本は、1000年以上の歴史があって文化が強いからここをうまく使って、文化大国として、観光インバウンドを主力産業にしていくというのは、ある意味当然の打ち手だと思う。
(BS-TBS『Bizスクエア』 10月5日放送より)
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