人気アニメ「ガンダム」シリーズなどで、メカデザインを手がけるクリエーター・山根公利さん。東京から島根にUターンし、20年以上にわたって浜田市を拠点に世界のファンを魅了するデザインを制作し続けています。都会ではなく、あえて地方…田舎で最先端の仕事を続ける理由に迫りました。

9月21日に益田市にある島根県芸術文化センター「グラントワ」で開かれたイベント。

安彦良和さん:
山根さんが出雲から出てくることは、結構すごいこと。生の打ち合わせをあわせないといけない、『山根さんが来るぞ』とみんな色めき立つ。

「機動戦士ガンダム」のキャラクターデザインを務め、現在もアニメ監督として活躍する安彦良和さん。そして、現在は浜田市在住のメカデザイナー・山根公利さんです。長年、日本のアニメ界をリードしてきた「巨匠」によるトークショーです。

日本だけでなく、世界各国でも絶大な人気を誇るアニメ「ガンダム」シリーズ。山根さんは、最新の劇場公開作をはじめ、数多くの作品でメカデザインを手がけてきました。その原画やラフ画など、貴重な資料200点以上を集め、その仕事をたどる特別展が、ここグラントワで開かれています。

広島から来たファン:
緻密な設定画ですごい。

注目の特別展、県外からも多くのファンが訪れていました。世界中のファンを魅了した数々の名デザインはどのように生まれたのか、浜田市にある、自宅兼仕事場を訪ねました。

メカデザイナー・山根公利さん:
ここが僕の仕事場になります。

安部大地記者:
レトロなものが多いイメージですね。

メカデザイナー・山根公利さん:
子どもの頃に遊んだもの、仕事の参考にしたりしています。

戦車や飛行機など、子どものころから大のメカ好き。仕事場にも懐かしい模型があちこちに置かれ、「昭和レトロ」な雰囲気が漂います。

メカデザイナー・山根公利さん:
モビルスーツの第一稿として描いて、『こんなのでどうですか?』と描きましたが、監督が一発で気に入ってしまって、珍しく第一稿でOKが出たデザインになった。

こちらは10月17日から配信予定の最新作。山根さんは「ザク」をはじめ、メインのロボットデザインを担当、ドイツ人の監督を唸らせましたが…。

メカデザイナー・山根公利さん:
人型のものがすごく苦手という意識がある。車や戦車、飛行機とか、そういうものを描く方が好きだったので、自然とそういうものを描く方が多くなった。

山根さんが得意とするのは、ロボットではないメカ。今も根強いファンがいるアニメ「カウボーイビバップ」に登場する戦闘機も代表作のひとつです。また「ガンダム」シリーズでも戦艦など、いわゆる「サブメカ」を担当することが多いといいます。

メカデザイナー・山根公利さん:
ガンダムを宇宙から地上に降ろすカプセルのデザイン、これはハッチの部分、ここにキャラクターが接近して、このレバーを上げて開くという芝居がある、だからこのレバーのデザインも描いておく。

緻密なデザインで世界観を作り込むのも、腕の見せどころです。

メカデザイナー・山根公利さん:
紙と鉛筆の抵抗感が好きなんですよね、カリカリっていうね、摩擦があるんですけど、それが気持ち良い。タブレットだとつるつるしちゃうんですよ。

下絵を描くのは、今もかわらず鉛筆を使います。アニメの世界で活躍して40年近いキャリアを持つ山根さん、実はその半分以上をここ浜田市で過ごしています。

山根さんは、島根県川本町出身。県内の工業高校を卒業したあと上京し、アニメーション専門学校で学んだあと、1986年からデザインの仕事に携わるようになりました。やがて仕事は軌道に乗り始めますが、同時に不安も次第に大きくなったといいます。

メカデザイナー・山根公利さん:
企画の内容が、ワンパターン化しているなというのが見えてきた。自分自身のデザインも、当然どこかで見たようなものになりつつあるのではという気持ちがしたので、1度島根に戻って、リセットして見てもいいのではと思った。

情報があふれ、流行に惑わされることも多い東京を離れることを決意。自分の「原点」を見つめ直すため、2000年にふるさとの島根にUターンしました。ITが普及し、今でこそ、「リモートワーク」は当たり前ですが、Uターンした当初、東京のスタッフとの連絡はFAXが主流。色の指定など、細かなコミュニケーションは一苦労だったといいます。その一方で。

メカデザイナー・山根公利さん:
簡単な整備は自分でやる、オイル交換も自分でやります。エンジンの分解もやりました。

東京ではできなかった「車いじり」も、自前のガレージで始めることができました。趣味ではありますが、仕事の上でも大きな気づきがありました。

メカデザイナー・山根公利さん:
本物の機械に触れるということが、メカの質感に与える影響があるのではないかと思う。触ったものの硬さとか重さとか、そういうものって意外と机の上で描いているだけでは忘れてしまうところもある。

「本物に触れること」の大切さ。実際にファンからも…。

20代のファン:
現実には存在しないけど、『これは無理でしょ』ではなくて、現実味のあるデザインが個人的には好き。

50代のファン:
どこか油臭さとか、蒸気のこもったような、さび付いているんじゃないかというデザインもあって、他のデザイナーさんとは違うと思う。

アニメ界の巨匠も山根さんのテクニックを唯一無二と評価します。

安彦良和さん:
小綺麗な未来的なものを描く人はいくらでもいる。あの手作り感はなかなか出せない、実在感があるんですよね。こういう質感でこういうものってあるよなって。

フィクションでありながら実在感のあるデザイン。島根で暮らす中で磨きをかけたこの技で、国内外のファンを魅了し続けています。

メカデザイナー・山根公利さん:
変わった仕事のスタイルをしているという自覚はそんなにはない。世界を意識するというより、日本の文化とか日本のアニメーションの良さをうまく培っていけば
、世界に通用するものはできていくと思う。

島根の地から新たなデザインを。ファンを魅了する筆は、これからも止まることはなさそうです。

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