(ブルームバーグ):2016年の米大統領選でロシアのプーチン大統領がトランプ氏に肩入れしていたのは明らかだった。ロシア大統領府の最高幹部らは、予想外のトランプ氏勝利が判明した11月9日未明にシャンパンで乾杯した。

プーチン氏の現在の立場はどうなのか。これに容易な回答はない。米情報機関は同氏がトランプ氏の返り咲きを願っていると確信している様子だが、一方でプーチン氏は、バイデン米大統領の年齢と経験を称賛したり、ハリス副大統領の笑いは「他人に伝染する」と述べたりして、嫌み混じりの謎めいたコメントを発することを楽しんでいる。

ロシア大統領府内の最新の意向に詳しい5人の関係者によると、今回はトランプ氏勝利でも乾杯する理由はあまりないとの見解が、モスクワでは広がっているという。

ロシアにとって理想的なシナリオはバイデン氏の再選だったと、2人の関係者は指摘。バイデン氏は予測可能で読みやすかったからだという。つまり、ロシアがウクライナでの戦争を終結に向けて取り組むとすれば、取引をほごにする前歴の持ち主よりも、バイデン氏の方がくみしやすいということだ。

ロシアは米大統領選で誰が勝つかをあまり気にしていないが、その結果に無関心だということではない。例えば、ハリス氏が僅差で勝利してトランプ氏が異議を申し立て、米国内が混乱する展開は歓迎だろう。

ロシアがソーシャルメディアを通じて干渉しているかもしれないとの認識は、16年当時には驚かれたが、現在では常識だ。手法は洗練され、突き止めるのがいっそう困難になった。

トランプ政権の4年間がロシアにとってどれほど有益だったのか、評価は分かれる。トランプ氏はロシアのオリガルヒ(新興財閥)や企業、欧州向けのガスパイプライン「ノルドストリーム2」に制裁を科した。

ロシアのウクライナ侵攻が続く中で米ロ関係は過去数十年で最悪の状態にあり、誰が米大統領になっても状況が大きく好転する可能性は低いと、関係者は語った。

ロシア大統領府に助言するシンクタンク、外交防衛政策評議会の議長を務めるフョードル・ルキヤノフ氏は「誰がましで、誰が悪いか断言するのは難しい」と説明。「バイデン氏は極めて慎重で、常にリスクを計算していた。バイデン氏は良かったと、後になって思い起こすことになるかもしれない」と述べた。

プーチン氏が22年2月にウクライナを攻撃し、米ロ関係が冷戦以来最も冷え込んだ後ですら、バイデン氏はウクライナに供給する兵器の種類や米国製兵器によるロシア領内への攻撃に制限をかけた。

今年の大統領選に干渉しようとしているとして米国がロシアを公に非難した翌日、プーチン氏はからかうような口調で、薄ら笑いを浮かべながら「トランプ氏はロシアに極めて多くの制限と制裁を科した。これだけの措置を導入した米大統領は他にいない」と主張。「ハリス氏とは全く問題がない。同氏は恐らく、このような措置を控えるだろう」と続けた。

プーチン氏が米国の政治について話す時は、たいてい分断の悪化を狙っている。21年のNBCとのインタビューではトランプ氏に味方し、同年1月6日の議事堂襲撃事件を引き起こした暴徒らを擁護した。

トランプ氏もプーチン氏の二枚舌に感づいている。プーチン氏がハリス氏勝利を望むと発言したことについて、「侮辱されているのか、私に有利に作用することを狙っているのか、わからない」とトランプ氏は語った。

戦争の終わりは見えず、誰が米大統領選に勝利しても対ロ関係改善を優先する動機はほとんどないのが現実だ。ハリス氏は具体的な約束を避けつつも、ウクライナを「強力に支持」するとのバイデン氏の路線を踏襲している。

ハリス氏は外交政策でバイデン氏ほどの経験がないとみられ、フィリップ・ゴードン氏ら外交のベテランや高官の助言に大きく頼るだろうと見込まれている。ロシア当局の見方に通じた関係者は、主流派出身のハリス氏はトランプ氏よりも無難だろうと述べた。

どちらにせよ、米大統領選に対してロシア当局はほとんど取り付かれたように注目していると、同国大統領府に近い政治コンサルタント、セルゲイ・マルコフ氏は指摘。それぞれの候補が勝った場合の結果とシナリオの予測は絶えず更新されているという。

原題:Trump or Harris? For Putin, His Preference Isn’t So Clear Cut(抜粋)

もっと読むにはこちら bloomberg.co.jp

©2024 Bloomberg L.P.

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。