7月の実質賃金が0.4%増と2か月連続でプラスとなりました。物価と賃金の「好循環」に向けて勇気づけられる数字は出てきているものの、消費の力は依然、弱いままで、実質所得の増加は、物価上昇率次第という簿妙な状況が続きそうです。

実質賃金2か月連続のプラスに

厚生労働省が5日発表した毎月勤労統計によれば、7月の1人あたりの現金給与総額(名目賃金)は、前年同月比で3.6%増加しました。

消費者物価の上昇率(持ち家の帰属家賃を除く総合指数)を差し引いた実質賃金は、前年同月比0.4%の増加でした。

増加幅は6月の1.1%から縮小したものの、2か月連続の増加です。

実質賃金が2か月連続で上昇したことは喜ばしいことですが、中身を見てみるとボーナスに相当する「特別に支給された給与」が6.2%も増えたことが大きく、基本給である所定内給与だけでは、物価上昇を埋め合わせきれない姿が浮き彫りになっています。

6月、7月は夏のボーナスが支給された企業が多く、その分、実質賃金プラスに貢献しましたが、8月は再び実質賃金マイナスに沈むとの見方が大勢です。

実質所得の増加は"物価上昇率"次第

賃金そのものは来春の春闘まで大きな改定がないことから、実質賃金の動向は、消費者物価上昇がマイルドになるかどうかにかかっています。

9月、10月、11月は、岸田政権の「置き土産」とも言える電気・ガス代の負担軽減策が再開されることから、その分物価上昇率が抑えられ、再び実質賃金がプラスに転じる可能性はありそうです。

ただ、その先に、電気・ガス代だけでなく、ガソリン等への補助も打ち切られれば、実質賃金がマイナスに転落することは確実視されています。

「好循環」を確かなものにするためには、物価対策など政策による「もう一押し」が必要な状況なのです。

消費支出は依然、低調

では、消費はどうでしょうか。

総務省が6日発表した7月の家計調査によれば、2人以上世帯の消費支出は、物価変動を除いた実質で前年同月比0.1%増と3か月ぶりにプラスに転じました。

もっとも、プラス幅はわずかで、住宅関連の支出が強めに出たという特殊な要因が大きいと見られます。

消費支出の3割を占める食料は実質1.7%減で、家計の財布の紐は、依然として堅いままであることが見てとれます。

家計調査には賃上げの恩恵が薄い年金世帯などが含まれているので、ここで勤労者世帯に限ってみてみましょう。勤労者世帯の7月の実質消費支出は1.2%もの減少です。

実は勤労者世帯の実収入は、賃上げやボーナスの効果から実質で前年同月比5.5%も増加しています。

可処分所得は定率減税の効果も加わって、7.3もの%増加と、いずれも「歴史的」と言って良い高い伸びを記録しました。

実収入や可処分所得の、これだけ高い伸びは、驚きに値しますが、それでも消費支出がマイナス1.2%と言うのは、それ以上に驚きです。

2年以上続いている高い物価上昇と将来不安が、いかに消費マインドを委縮させたかを物語っています。

企業の内部留保は初の600兆円超え

やるべきことは明白です。当面、物価対策や所得支援を続ける一方で、来年も今年並みの賃上げを続けることに尽きます。

財務省が2日発表した法人企業統計によれば、企業の利益から税金や配当を差し引いた「内部留保(利益剰余金)」は、2023年度末で、初めて600兆円を超えました。

2016年度に400兆円を突破してから、わずか7年で企業の内部留保は1.5倍にも膨れ上がっています。

23年度は人件費が3.4%、設備投資も5%と、増えてはいるのですが、円安の進展などで、利益はそれを遥かに上回る増加ぶりです。

言い換えれば、まだまだ賃上げも投資も足りないのです。

総裁選、総選挙で経済対策の論戦を

物価と賃金の「好循環」を実現し、それを需要増がけん引する経済成長につなげていくという難しい作業には、細心の政策運営が必要です。

千載一遇のチャンスを逃さないよう、自民党総裁選挙や、それに続く総選挙を通じた経済対策へのの論戦が、大いに期待される所以です。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)

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