(ブルームバーグ):ルルレモン・アスレティカのヨガタイツからエルメス・インターナショナルのハンドバッグまで、世界で最も人気のあるファッションの定番商品にほぼそっくりな廉価版が、中国全土で販売されている。

中国語では 「平替」、Z世代のショッピング用語では 「複製」と呼ばれるこれらの商品の人気は、かつてブランド好きだった中国人買い物客の反動を反映している。しかしこれらの複製は安い偽物ではない。地元のメーカーは、ロゴがないだけで世界的なトップブランドと同じ品質を約束することで、比較的高い価格で商品を販売している。

ファッションアパレルメーカー、チックジョックのヘリンボーンツイードのオーバーコートのような商品がそうだ。チックジョックによれば、3200元(約6万5000円)のこの商品はプラダやボッテガ・ヴェネタのサプライヤーから購入したイタリア製生地で作られている。

こうした商品は、景気低迷で中国の消費者がより値打ちのある商品を求める中で昨年から売り上げが急増している。7月までの1年間に、中国の主要なeコマースプラットフォームであるアリババグループの淘宝網(タオバオ)と天猫(Tmall)において、安価な代替品を販売するトップレーベルの幾つかは2桁から3桁の伸びを記録したことが、分析会社である杭州知衣科技のデータで分かった。同時に、複製元である海外ブランドの中には、これらのプラットフォーム上での成長が鈍化したり、売り上げが減少したりしたものもあった。

実店舗を持つ外資系ブランドにとって、オンライン販売は全体像ではないが、複製の急成長は中国の買い物客が何を求めているかを把握できない世界の小売り大手が直面する最新の脅威だ。景気減速により消費者は節約志向を強めているが、ナイキやファーストリテイリングのユニクロのような中級ブランドでさえ、つまずきを見せている。ユニクロが「新しい消費者の価値観」と呼ぶ、ブランドの中間業者を排除してメーカー直販の商品を求める傾向が、「平替」の台頭に反映されているのだろう。

市場調査会社ミンテルの高級品・ファッション担当シニアアナリスト、ブレア・チャン氏(上海在勤)は「中国の消費者の高級品に対する理解は変わりつつあり、高級ハンドバッグは名声を示すものという伝統的な考え方は、もはや消費者の唯一の嗜好(しこう)ではなくなりつつある。現在の慎重な消費傾向の下では、有名ブランドへの盲目的な信頼はもはやない。その代わりに、より合理的な買い物の決定が行われ、より安価な代替品についての議論が活発になっている」と話した。

平替の最大のインパクトは、中国で打撃を受けている高級品部門に対するものかもしれない。ブランドのロゴはないが、同じ品質の素材と職人技を使って製造された複製は急速に普及する。これはハイエンド商品を魅力的なものにしてきた独占性を失わせ、中国でブランド品の今後の成長に打撃を与える可能性があると、コンサルタント会社、ヤオク・グループは今月のリポートで分析している。

皮革製品メーカーの時代集団は、プラダ、トゥミ、マイケル・コースといった高級ブランド向けに製造しているのと同じ製造ラインで作られた100ドルのハンドバッグの品質は、1000ドル以上で販売されているものとほとんど同じだとソーシャルメディアの動画で説明している。

一方、淘宝網や天猫に出店している中国最大級のファッションアパレルブランド、チックジョックは、同社製品はLVMHやフェンディと同じサプライヤーから仕入れたコペンハーゲン産の動物の毛皮を使用していると主張している。知衣のデータによると、同社は淘宝網の店舗で年間約10億元を売り上げている。

予想以上

深圳の株式アナリスト、ディン・シャオイン氏は中国市場の低迷で年間ボーナスが半減した後、デザイナーブランドに何千ドルもつぎ込むのを止めた。ここ数カ月はビクトリアズ・シークレットのパジャマや、ラルフ・ローレンやケリング傘下のボッテガ・ヴェネタをモデルにしたシャツの平替バージョンを購入しているという。

同氏は複製品のテキスタイルの品質を賞賛。「今では信頼しているし、偽物として訴えられるのを避けるために、独自のデザインを始めてほしいとさえ思っている」と語った。

ローカルブランドは何十年もの間、安価な代替品を販売してきたが、ステータスシンボルとしてブランドにお金をかける中流階級の買い物客からは相手にされなかった。平替の小売業者は、新型コロナウイルスによる都市封鎖で人々がオンラインショッピングに依存するようになり、ソーシャルメディアプラットフォーム上の新しい顧客直販チャンネルや、米国のQVCホームショッピングに似たライブストリーミングショーが生まれたことから主流になった。

人々は主にオンラインで平替アイテムを見つけ、ブランド品に最も似ているものを見つけることで自慢できる。何百万というソーシャルメディアの動画には、価格帯や品質を自慢するブロガーが登場する。買い物客は通常、チャットボックスで直接注文し、数日以内に商品を受け取ることができる。

ほとんどの消費者は、平替とその複製元のブランド品にほとんど違いはないと主張している。日本の化粧品メーカーSK-IIのベストセラー商品であるフェイシャルトリートメントエッセンスの330ミリリットル入りボトルは、天然発酵製品を使用し通常1700元近くで販売されているが、同じ材料を使ったとする中国メーカー、自然堂の複製は569元。

ルルレモンの平替ブランドとして人気のあるVFUは、本家と同様のハイウエストの黒いワークアウトタイツをわずか200元で販売している。

偽物を販売する業者はしばしば平替チャンネルに入り込もうとする。オンラインやソーシャルチャンネルに対する監視はほとんどなく、工場や小売業者が好きなように商品を宣伝できる一種のワイルドウエストのような状態であるため、消費者は自分が本当に買っているものが何かを知ることは難しい。

しかし今のところこれは、金融プログラマーのジェシカ・ワン氏(45)のような顧客が買い物をやめる理由にはならない。同氏は最近、ウィーチャット(微信)上の業者から、通常数千ドルで販売されているエルメスのリンディの財布を3700元で購入した。

「いろいろな意味で期待以上だった。 革はとても柔らかく、縫い目は繊細で、梱包(こんぽう)もきちんとされていた。他のバッグも注文するつもりだ」と同氏は語った。

原題:China’s Fashion ‘Dupes’ Entice Frugal Shoppers Away From Labels(抜粋)

--取材協力:Shirley Zhao.

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