(ブルームバーグ):記録的な数の外国人が日本を訪れる一方で、国内航空会社のパイロット不足が深刻化しつつある。現在、50代の機長の多くが定年を迎えていくことも減少に拍車をかける。

政府は2030年に6000万人の外国人を誘致したい考えだが、パイロットが現状の約7100人では足りない。2月に国土交通省が設置した有識者委員会は約8000人必要だと試算し、即戦力となる外国人パイロットの受け入れ円滑化なども検討し始めた。

羽田空港の様子

だが、外国人の雇用はいくつかの理由で簡単ではない。まず、日本はパイロットの給与が安いことだ。ある業界関係者によると、日本航空(JAL)とANAホールディングスの機長の平均年収は約2500万円。デルタ航空だと12年の飛行経験のあるパイロットは約45万3000ドル(約6500万円)、アメリカン航空だと約48万ドル(約6900万円)だ。

外国人パイロットを受け入れるとなれば、社内の体制作りも不可欠だ。経営コンサルティングのカーニーでシニアパートナーを務める阿部暢仁氏は、日本の航空会社は非常にドメスティックで、「日本語を話さないパイロットを受け入れるために社内業務を一から見直さなければならない」のはハードルが高いという。

このほか外国人パイロットが転職してくることで、自身のキャリアアップが妨げられるといった不満もくすぶるという。日本の多くの職業がそうであるように、パイロットは終身雇用の枠組みで捉えられることが多い。JALやANAのパイロットの多くは新卒採用されたか、航空大学校の卒業生だ。

この件について全日空乗員組合と日本航空乗員組合にコメントを求めたが、返答は得られていない。

いまのところ日本の大手航空会社に外国人パイロットはほとんどいない。JALの広報担当者よると、同社のパイロット約2000人のうち外国人は少数だ。また、関係者によるとANAは約2400人のうち外国人がゼロだという。

海外とのギャップ

一方、香港のフラッグ・キャリアであるキャセイパシフィック航空のEメールによれば、同社には70の国籍のパイロットが在籍する。アラブ首長国連邦(UAE)のエミレーツ航空も外国人パイロットが多いことで有名だ。出発前の機内アナウンスでは、国際線の客室乗務員が話す言語の多さが強調される。

羽田のJAL旅客機

JALは30年の政府目標への対応として、派遣会社経由で補完的に外国人パイロットを採用する。広報部によると、基本的にはこれまで同様、新卒採用でパイロット訓練生を正規雇用する方針だ。一方、ANAからは採用に関するコメントを得られなかった。

有識者委員会では、60歳以上のパイロットの有効活用に向けた制度見直しや、女性パイロットを増やすことなどが検討されるが、明確な解決策はまだ見通せない。航空局安全部安全政策課乗員政策室長の藤林健太郎氏は、「目標に向けて増やしていく努力をする」と話した。

航空会社が十分なパイロットを確保できないとなれば、国としての機会損失につながりかねないが、航空・旅行アナリストの鳥海高太朗氏は、「いずれにせよ6000万人誘致という目標は厳しいだろう」とみている。

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