(ブルームバーグ):野村ホールディングス(HD)が富裕層に的を絞って長年にわたり改革を進めてきた国内リテール事業が軌道に乗り始めた。資産管理型ビジネス重視の経営方針が実を結んだ形だが、今後も着実に収益を拡大していけるかどうかが焦点となる。
同社は4月に営業部門を「ウェルス・マネジメント(WM)部門」に改称した。同部門長の杉山剛氏はブルームバーグのインビューで、「大きな体制変更は一段落した」と述べ、今後は外部経験者を中心に営業担当者を増強するほか、事業拡大のため他社の買収も排除しない考えを示した。
野村HDは金融市場に左右されにくい収益構造を目指し、富裕層向け事業を強化している。米国のモルガン・スタンレーやスイスのUBSグループなどが先行例となる。野村HDにとっては今後のWM部門の成長が他部門の収益の振れをカバーする意味でも鍵となる。
野村証券の専務も務める杉山氏は、「包括的な資産管理を目指して今までやってきて、ある程度、このビジネスモデルが進化してきた」と手応えを述べた。WM部門を強化するため「どんな可能性も排除しない」とし、買収については「足りないパーツがあれば検討していきたい」と語った。
野村HDは永井浩二社長(当時、現会長)の下で2019年に営業部門の見直しを進め、自然減や採用抑制で全体の営業担当者を減らす一方、富裕層や法人など担当領域を明確化。23年には大規模な配置転換により富裕層向け強化を鮮明にした。部門全体の人員は19年から2割強減って足元で約7300人となった。
改革の成果もあり、24年4-6月期(第2四半期)の部門別税前利益は、WM部門が前年同期比84%増の423億円を確保。同四半期はともに好調だったインベストメント・マネジメント部門の232億円、ホールセール部門の211億円の合計額に匹敵する規模に拡大した。
営業担当者は足元では超富裕層に約500人、富裕層に約4200人を配置し、稼働口座の拡大や顧客の新規開拓に注力している。
杉山氏によれば、日経平均株価が暴落した8月5日、営業担当者は顧客に連絡を取り、「客観的な事実を伝えながらニーズに合わせいろいろと話した」。結果的に日本株などは「買い越しだった」とし、対面証券は「こういう場面で一番、力を発揮できる」と自信を示した。株価は後日、急反発した。
WM部門の陣容について杉山氏は、「人数ありきでなく人物本位でわれわれがやりたいことに貢献できるような人材」を採用したいと表明。顧客の要望に応じ提案するプロダクト・ソリューション担当者の増強方針も示した。中途採用への応募が大幅に増えているという。
ただ、富裕層ビジネスを巡る競争は激しい。大和証券グループ本社は今年に入り、あおぞら銀行に出資し共同で顧客を開拓。三井住友フィナンシャルグループが出資するSBIホールディングスもネット取引に強みを持つ傘下証券が同ビジネスの強化に乗り出している。
野村HDは過去にも国内リテール事業の改革を試みてきた。1997年に氏家純一社長(当時)の肝いりで株式売買から資産管理重視への戦略転換を掲げ、支店の営業課を資産管理課に改称。その後も関連組織の統廃合などを繰り返してきた。
永井社長時代から続く今回の一連の改革では、経費を削減する一方、収益面では投資一任の残高などストック資産に応じた収入(ストック収入)拡大に力を入れてきた。人事や評価体系でもストック資産の拡大を狙ったチームワークや他部門との連携などを重視している。
ストック資産拡大にコミット
こうした取り組みは数字にも表れている。野村HDの第2四半期の顧客資産残高は、154兆円とリーマンショック後の15年前から36%増加。ストック資産は過去最高の24兆3000億円となり、ストック収入は458億円と同2倍超に拡大した。
同社は31年3月期に税前利益5000億円超の達成を目指している。前期(24年3月期)実績のほぼ2倍の額だ。35兆円を目標とするストック資産について杉山氏は、「僕らとしてコミットしている」とし、「しっかりとやれるという手応えを感じている」と強調した。
また、杉山氏は日本銀行の利上げについて、WM部門にとって「完全なプラス」と言及。「現預金の置き場所に悩まれる方は、たくさん出てくる」とし、金利のある世界が到来した今こそ、営業担当者の腕の見せどころになるとみている。
杉山氏は一連の改革とその成果を「10年やり続けていた」結果だと振り返った。今後については「いかに優秀な人材を獲得しながら育成し、持続的に差別化を図っていけるか」が重要になるとの認識を示した。
--取材協力:Russell Ward、谷口崇子.
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