(ブルームバーグ):米国では各地で最高気温の記録が更新され、西部では山火事が頻発。そうした中、もう一つの気象災害である異常降雨が北東部を襲っており、気候変動が進むにつれて状況は今後さらに悪化すると科学者は警告する。大雨による洪水が増えると予想されているが、多くの人口を抱える北東部ではまだその備えができていない。

直近の例として挙げられるのが8月18日だ。五大湖のエリアから北東部各州に向かって低気圧がゆっくりと接近。コネティカット州とニューヨーク州の上空に湿った空気を引き込み、降雨をもたらすのに完璧な状態を作り出した。米気象予報会社アキュウェザーによれば、さらにハリケーン「アーネスト」から変わった低気圧も到達。北東部一帯の気流の動きを鈍らせ、「交通渋滞」のような状況が生まれた。

アキュウェザーの上級気象予報士トム・カインズ氏は「その状況自体はさほど珍しいものではなかった」と指摘。「たまたま、ある地域が長時間にわたって激しい雷雨に見舞われるという最悪のシナリオが現実になった」と説明した。

この気象状況により、北東部では12時間のうちに1000年に一度の大雨を2カ所で経験することとなった。そうした状況が発生する確率は年間でわずか0.1%だ。

「2、3カ月分の雨が降った地域もある」とカインズ氏は述べた。

特に被害が大きかったのはコネティカット州南西部とニューヨーク州ロングアイランド中北部で、場所によっては1時間に3.5インチ(約89ミリメートル)の雨が降った。コネティカット州では2人が死亡し、救助が必要になった人は100人余りに上った。

コネティカット州オックスフォードに設置された2カ所の観測所では、24時間にそれぞれ14.83インチと13.5インチの降雨が観測された。現在この観測値の評価が行われているが、正式に認定された場合、1955年8月19日にハリケーン「ダイアン」が襲来した際に記録した同州の過去最高である12.77インチを上回ることになる。

ロングアイランドの一部では9インチを超える雨が降り、鉄砲水が発生。このほかニュージャージー州北部も激しい雨に見舞われた。

北東部で記録が始まったのは19世紀遅くだが、現在では環境が劇的に変化した。全世界の気温は平均でセ氏1.3度上昇。気温がセ氏1度上がるごとに、大気中の水分量は最大7%増加する。

米海洋大気庁(NOAA)の気候評価部の責任者、デービッド・イースターリング氏は「大気中の水蒸気が増えれば、豪雨も増える」と述べた。

昨年公表された第5次全米気候評価報告によれば、北東部は米国の他のどの地域よりも速いペースでその傾向が見られている。降雨量は年間を通じて増え、最悪のケースでは過去60年間に60%増加している。国連による最新の気候報告書では、世界的に異常降雨の頻度が増え規模も拡大する中、北米では特に顕著に増加していると指摘された。

北東部では降水量が5インチを超える日数が103%増加。その大半は雪ではなく、暖かい季節に発生している。

またそうしたデータは、集中した短期的な事象のみを示している。バーモント州の気候学者レズリーアン・デュピニージルー氏は「異なる形の気圧配置が2、3日に及ぶほぼ連続した降雨をもたらすような、複数日にわたる事象にも目を向ける必要がある」と指摘した。

だが人々を守る方法は、この変化のスピードに追いついていない。バーモント州だけを見ても、昨年と今年の夏に壊滅的な鉄砲水の被害に見舞われた。2011年にハリケーン「アイリーン」が襲来した後、高度な洪水対策が実施されたにもかかわらずだ。

ギャラガー再保険の最高科学責任者、スティーブ・ボーウェン氏は、強風やひょうといった雷雨関連の被害は近年「極めて顕著に増加している」と指摘。太平洋上で発生している気象状況がエルニーニョなのかラニーニャなのか、またどちらも発生していないのかにより、洪水の事象は変動することが多いと述べた。

米国の洪水保険は、そのほぼ全てが政府の全米洪水保険制度(NFIP)によって提供されているが、これによりカバーされているのは年間の洪水被害のわずか12-14%だ。1978年から2015年まで、ニュージャージー州とニューヨーク州は他の2州を除くどの州よりも多くの保険金支払いを受けた。だが北東部全体で見ると、沿岸部の郡における洪水保険の加入率は約6.5%に過ぎず、鉄砲水のリスクがかつてないほど高まっている内陸部では加入率はわずか1.5%だ。

つまりこれは、気候変動の最も危険な兆候の一つが、高度に開発された(舗装された)地域に迫っているということだ。国によって指定された区域外に住む人は洪水保険に加入する義務はなく、実際加入していないケースが多い。

保険は個人が自分の身を守るためのものだ。計画立案や設計はそれぞれのコミュニティーが担当するが、現在のところそのツールは不十分だ。立案に用いられる「アトラス14」と呼ばれる米国の降水頻度予測は過去のデータに基づき、時間をかけて断片的に作成された。設計者には、詳細を詰める上で将来の降雨量に関する最新の予測が必要だ。

そうした中、国も予測向上に向けた取り組みを進めている。2021年に成立した超党派のインフラ法では、アトラスのプロジェクト更新と、全米各地の降雨頻度を推計するための予算が初めて認められた。アトラス15は2027年までに完成する予定だ。

原題:Extreme Rain Is a Growing Climate Threat in the Northeastern US(抜粋)

--取材協力:Kendra Pierre-Louis、Brian K. Sullivan.

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