2023年度のふるさと納税の寄付総額が初めて1兆円の大台を突破した。返礼品が充実し、利用者が増える一方で、自治体間の格差拡大など課題が浮き彫りになっている。
「ふるさと納税」初の1兆円突破 7年連続関東地方でトップの町
ふるさと納税が始まった2008年度は81億円だったが、確定申告の必要がないワンストップ制度が導入された2015年度からは大きく増加。開始から16年目となる2023年度は1兆1175億円と初めて1兆円を突破した。
7年連続、関東地方でトップの寄付額を集めるのが茨城県境町。人口約2万4000人の町だが、2023年度のふるさと納税の寄付額は全国でも11位となる99億3800万円。町では、ふるさと納税の寄付金を運行事業費の一部に活用した「自動運転バス」が走っている。4月に境町に移住してきた人は「移住者支援の住宅に申し込んで抽選で当たったので(引っ越してきた)いやもう(子育ての)環境は最高」。境町出身者も「いろいろ子育ての支援も多くてそれで戻ってきた。茨城県は全国で見ると(魅力度ランキングが)下の方だけどこうして境町が盛り上がってくれてうれしく思う」という。
返礼品で人気を集めているのが、茨城県が生産量1位を誇る干し芋や、常陸牛などだが、新たな名物として力を入れているのが、ウナギ。国の補助金を活用して、8月8日には返礼品と同じウナギを味わえる施設がオープンした。現在、返礼品のウナギは宮崎県産を境町で加工して提供しているが、ウナギの研究開発拠点を開設し、ゆくゆくは稚魚の養殖から一貫して町内で行うことを目指している。
「ふるさと納税」初の1兆円突破 「旅先納税」や「被災地支援」も
地域性豊かな返礼品だけではなく、現在導入する自治体が増えているのが、「旅先納税」。
7月から旅先納税を始めた岩手県花巻市。スマートフォンを使って、専用ページからふるさと納税を行うと、寄付額の30%分の花巻市内の飲食店や温泉施設などで使える電子商品券をその場で返礼品として受け取れる。花巻市の上田東一市長は「この『ふるさと納税』を利用しながら、花巻の観光を楽しんでもらいたい」と語る。
そしてふるさと納税は被災地支援という形でも広がっている。2024年の元日に発生した能登半島地震で大きな被害が出た石川県珠洲市の寄付額は、2023年度の10倍以上となる11億円に上り、輪島市でも5倍に増え、21億円に。一方、様々な課題も浮き彫りになっている。
「ふるさと納税」 110億円税収減の自治体も
世田谷区 ふるさと納税対策担当課 斉藤洋子課長:
(税収の)流出額は見過ごせない額。
ふるさと納税を利用すると、利用者が居住する自治体に納める住民税が減る仕組みになっている。東京都世田谷区の場合、2023年度は、本来入るはずだった税収が区内の小・中学校の給食費3年分にあたる110億円も減った。ふるさと納税により税収が減った場合、多くの自治体は、国からの地方交付税で減った分の75%の補填がある。しかし、世田谷区は補填がされない「不交付団体」に認定されていて、区の財政への影響が大きくなっている。
当初、返礼品競争には加わらない方針をとっていた世田谷区だが、返礼品に市民マラソンの出場権や花火大会の観覧席などを加え、現在、その種類は180近くまで増えている。
世田谷区 ふるさと納税対策担当課 斉藤洋子課長:
世田谷区と地方の自治体は力を合わせていろんなことを解決していくような仲間。税をお互いに取り合う関係ではないと思っている。
「ふるさと納税」1兆円突破 ポイント付与禁止の波紋
さらに、ふるさと納税を巡っては、仲介サイト同士でポイント競争が過熱。総務省は、ポイントの一部が自治体の負担になっているとみて、2025年10月から付与を禁止する。
松本剛明 総務大臣:
寄付額の中から、ポータルサイトに(報酬が)入っているとこからポイントのお金の流れから見たら(寄付金から)出ているといってもいいのではないかと。今回はぜひやめてほしいということで、禁止とさせてもらった。
これに対して、仲介事業を行う楽天グループは200万件近い署名を集め、総務省の方針に反対すると表明している。
楽天 関聡司執行役員:
楽天のようにポイント付与において、自治体に費用負担を求めてないという場合には、ポイント付与を禁止しても、手数料が下がることはないと言える。そういう意味でも政策としておかしいと考えている。
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