日経平均はなぜ乱高下したのか?再び4万円台を回復できるのか?「海外投資家」「中東情勢」を注視すべき理由とは?新NISA投資で人気とされる「S&P500」「オルカン」の要注意ポイントとともに、専門家が解説します。
大荒れ相場の“犯人”は日銀利上げの“単独犯”ではなく「一気に来たこと」
株式市場で荒い値動きが続いています。日経平均株価の終値は8月5日に前営業日比で4451円安と過去最大の下げ幅を記録し、翌日には一転して3217円高と史上最大の上昇となりました。7月に4万2000円台につけていた日経平均は8月中旬現在では3万5000円近辺で推移しています。
今後の日経平均について、「4万円台はまた回復する可能性は十分にある」と見るのは伊藤忠総研主席研究員の宮嵜浩さんです。
宮嵜さんの分析によると、元々企業業績に対して株価は割高で、いずれかは下方に調整される余地がありました。その調整局面で日銀の追加利上げ決定などでドル円相場が大幅に円高方向に振れたため、それに釣られ株価も大きくマイナスに傾いたといいます。
「基本的に景気や企業業績が大きく変わったわけではないので、株価が右肩上がりという傾向は今後も続くのではと見ています」
大和証券チーフエコノミストの末廣徹さんは今回の株価乱高下について「実はこれが”犯人”というのは中々ない」と言います。
日銀の追加利上げが市場予想より早く7月に決まったことや、アメリカの景気後退懸念、利下げ観測など「ある程度想定されていたものが複合的に、一気に来てしまった」ことがパニックを呼んだという読みです。
末廣さんと宮嵜さんはそれら1つ1つが株価を大きく押し下げるほどの材料ではなかった、という見方で一致しています。
日銀の追加利上げについてはそれ自体が問題ではなく「個人消費が弱い中で利上げして大丈夫なのか」という懸念とセットになり円高を呼んだと末廣さん。
「しっかり実質賃金が(継続的に)上がって、消費が回復してくれば評価も変わってくる」としてそれまで市場では様子見が続くのではと予想します。
「海外投資家」「中東情勢」の懸念点と、日経平均“4万円台回復”の見込み時期
懸念として末廣さんが挙げるのは海外投資家が日本市場に戻って来るかどうかです。
「そもそも(日経平均が)4万2000円台まで上った原動力は海外勢の日本に対する期待が大きかった」とした上で「これだけ乱高下したマーケットにそう簡単に帰って来られるか。為替に増幅されて乱高下してしまうリスク量では、しばらく"触りにくい"という意見もある」と指摘します。
宮嵜さんはもう一つのリスクとして不透明感が増す中東情勢を注視しています。現在、イスラエルと産油国イランとの間での緊張が高まっており、「原油価格が急騰すると、日本経済にはマイナスの影響が露骨に出てくる」。
ただ目下のところ原油価格は落ち着いており、市場は今の情勢を測りかねているとも付け加えました。
今後の日本株について、末廣さんは「年内いっぱいぐらい」をかけて経済指標の数字が堅調だと確かめられれば回復していくのでは、と見通しています。
今回の不安定な相場ではアメリカの株価指数「S&P500」に連動する投資信託や、主に海外の株式で運用する投資信託であるオールカントリー、いわゆる「オルカン」も大きく値が動きました。2つの商品は特に新NISAで人気とされており、投資デビューした人などから不安の声が聞かれました。
こうした株式を対象にした金融商品だけでなく、為替リスクのない商品や債券、不動産投資信託などにもこれをきっかけに目を向けて、「リスクと必要なリターンを勘案しながら、どういった資産運用が望ましいかを改めて考える機会にしては」と宮嵜さんは提案します。
資産を「現金化するリスク」と投資不安を解消する方法
「(新NISA制度が4月に開始した後の)このタイミングで相場がある程度振れたのは逆に良かったかもしれない」とも宮嵜さんは振り返ります。
「株式市場が好調だと、持っている投資信託がこのまま上がり続けると思い込んでしまう人が出てくる。リスク商品の値動きは大きいものだという理解を深める意味では良かったのでは」
その上で資産の売買のタイミングを、保有資産の種類とともに分散させることも視野に入れながら徐々に資産運用の知識を身に着けることがこれからは必要だと説きます。
末廣さんも同調します。日本人の海外投資が円安を招いているという話はマクロ経済レベルでは指摘されるものの「実は個々の日本人は円や日本のアセットをたくさん持っている比率が高い」のが実情とのこと。
それを踏まえ、もっと”外”に出ていくのがグローバルでは普通という見方を紹介します。
投資においては、収益を当初の元本に組み入れて再投資するサイクルを繰り返すことで利益が利益を生む「複利効果」が初心者向けの解説でよく聞かれます。
末廣さんは今回のような急な値動きにびっくりして金融資産をキャッシュ=現金化すると、その間は複利効果がなくなってしまうと指摘します。「キャッシュ化しているときもリスクをある種、取っている可能性があるのも頭に入れておくべきだと思います」
資産運用はどう不安と向き合うかであり、「一喜一憂は必ずするもの」と宮嵜さん。そこで、「なんで下がったのか、上がったのか。ちゃんと確認することで、不安感は相当軽減されます」
情報収集と”粘り腰”が肝要のようです。
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<取材協力>
伊藤忠総研 主席研究員 宮嵜浩[みやざき・ひろし]
大和証券エクイティ調査部 チーフエコノミスト 末廣徹[すえひろ・とおる]
(TBS NEWS DIGオリジナルコンテンツ「経済の話で困った時にみるやつ」より)
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