特集は信州の食卓を支える「だしつゆ」です。これまでビタミンちくわやホモソーセージなど、度々、長野県内での消費量が特に多い商品を取り上げてきましたが、今回は「テンヨのビミサン」です。今年で発売60周年。山梨県のメーカーの商品ですが、実は4割以上が長野県内で消費されています。信州に根付いた理由を取材しました。


■愛用歴50年の県民も!でも、なぜ信州?

切り干し大根に、煮込みうどん。これらの味付けに使われているのは、少女の描かれたラベルが目印の「テンヨのビミサン」。今年で発売60周年を迎えました。

長野市の女性・愛用歴30年以上:
「いつも切らさないようにストックしておいて、1年中ある。あっという間に使っちゃう。これは本当に離せません」


スーパーでも…。

愛用歴50年以上:
「何十年も昔から、これ一本ですね。いろいろ使ってみたけど、これが一番」

愛用者:
「けさの話ですけど、卵とじに使ったり、チャーハンとかにもたまに入れたりするかな。2日に1回くらい使っているのかな」

愛用する県民はかなり多いようです。


■テンヨの工場に潜入!

そこで―

向かったのは山梨県に本社を置く「テンヨ武田」の甲府南工場。


テンヨ武田・広瀬侑生さん:
「本日はビミサンを詰めています。1.8リットルlの容器に1分間で約60本くらい詰めています」


原料はかつおだしや、しょうゆなど。

煮出しから充填まで、この工場内で全工程を行っていて、年間90万リットルのビミサンが作られています。

最後におなじみのラベルを貼って各地へ発送されます。


■消費量は長野県が断トツの44% 

販売されているのは山梨を中心とした主に東日本のエリアですが、実は長野県が最も消費量が多く、断トツの44%に上っています。


■社長「足を向けて寝られないですね」

社長は―

テンヨ武田・武田信彦社長:
「(信州で)大変な量を使っていただいておりまして、足を向けて寝られないですね」

なぜ、信州が一番?歴史と背景を探ってみました。


■まずは歴史 「テンヨ」は武田と上杉の「あの逸話」に由来

テンヨ武田の前身・「武田本店」が創業したのは明治5(1872)年。

戦国武将・武田信玄で有名な「武田家」の血を引く武田善兵衛が立ち上げました。


今の社名に使われている「テンヨ」は、当時、販売していたしょうゆの商品名。

実は「甲斐の武田」らしいネーミングです。


「川中島の合戦」などで熾烈に争っていた武田信玄と上杉謙信。

そうした中、武田の領地・甲斐は塩不足に苦しんでいました。それを知った上杉謙信は敵である武田方に塩を送ったとされています。

相手の弱みにつけ込まない考えや行動を表わすことわざ・「敵に塩を送る」の由来とされるエピソードです。


テンヨ武田・武田信彦社長:
「テンヨというのは、『天』が『与える』という字を書く。(甲斐では)まさか上杉謙信からもらった塩だとは言えないので、『天与の塩』といった。山梨県にとっては塩はすごく大事なもので、その塩で造っているしょうゆは『天与』という名前がいいということで『テンヨ』となった」


■高度成長期 便利な「ビミサン」が人気に

さて、今回の主役・だしつゆの「ビミサン」は「おいしさ」を「讃える」という意味を込めて名付けられました。

発売は昭和39(1964)年。人々の暮らしが大きく変わる時期でした。

テンヨ武田・武田信彦社長:
「高度成長の頃、昭和39年は東京五輪もあって、日本経済がすごく大きくなり始めた年。簡単に料理がしたいというニーズがすごく大きくなった時代、時期だった」

ビミサンは簡単にうどんやそばのつゆ、浅漬け、煮物などが作れることから、次第に支持を広げていきました。


■「お手軽料理」で支持拡大

ちなみに現在のお薦めの「お手軽料理」は―。

テンヨ武田・渡辺嘉月さん:
「ビミサンを使ったから揚げを作っていきたいと思います。濃縮5倍なので、漬ける時間が短くてしっかり味が付くのがポイント」
「お肉500gに対して、ビミサン45ミリリットル(大さじ3)入れます」


揚げる前にビミサンを入れ1分ほどもみこみます。

それ以外は通常のから揚げと同じですが―。

(記者リポート)
「だしの効いたつゆが肉にしみこんでいて、とてもおいしいです。これだけでご飯のおかずになります」


■1972(昭和47)年からお馴染みのデザインに

手軽さが受けて販売量を増やしていく中、昭和47(1972)年には「一目でわかるラベルを」と、有名な切り絵作家・滝平二郎さんの絵を載せるようになりました。

■信州で重宝された理由…野沢菜漬けなどの「食文化」

そして60年。

なぜ、信州で特に重宝されてきたのでしょうか。社長は「食文化」が影響がしていると話します。

テンヨ武田・武田信彦社長:
「一番大きく伸びたのは、野沢菜漬けにビミサンお使いいただいて、各家庭で一升瓶2本くらいを使う。最初売ってたのは500ミリリットルから600ミリリットルくらいだったと思うんですが、小さいって言われて一升瓶を出したら長野県でめちゃくちゃ売れまして」

この他、そばやうどん、すいとんなどが好まれていることも売り上げが伸びた要因とみられています。今も長野県では大きな1.8リットルの品が最も売れているそうです。


■愛用歴30年以上の女性 「ビミサン料理」披露

長野市の遠藤ゆり子さんは愛用歴30年以上。「ビミサン料理」を紹介してもらいました。

小松菜と山芋を切って、ビミサンをかけます。

愛用歴30年以上・遠藤ゆり子さん:
「はい、できました。忙しい主婦には簡単が一番。結構おいしいんですよ」

わずか2分で「小松菜と山芋のおひたし」が出来上がりました。

続いては「切り干し大根」。切った食材を油で炒めたらビミサンで味付け。

愛用歴30年以上・遠藤ゆり子さん:
「これで大体できて、味をみて。ちょっと足りないかなと思ったら、(ビミサンを)足せば…はい、できました」

こちらもわずか5分で完成。

もう一品。ジャガイモ、ニンジンタマネギを切って、県民おなじみの「ビタミンちくわ」も。

ビミサンで煮て、うどんを入れたら、「煮込みうどん」の完成です。


前日から味をしみこませていた「くらかけ豆のおひたし」もビミサンを使用。

家庭で重宝されていることがわかりました。

愛用歴30年以上・遠藤ゆり子さん:
「きょうは緊張したので、(うどんは)いつもより薄味でした(笑)」
「(ビミサンのどこが好き?)好きに理由はないと思うんですけど、何十年も食べ続けていることが好きって思う。食べ慣れたもの、私の母の味とか真似して、舌で覚えている感覚で簡単に作っている」


■60年で信州の食卓に欠かせない商品に

親から子へと受け継がれていく家庭の味。

テンヨのビミサンもその一つとなり、この60年の間に信州の食卓に欠かせないものになったようです。

テンヨ武田・武田信彦社長:
「長野に行って『ビミサンがもうソウルフードですよ』と言われると、本当にうれしい。この味を愛してくださってる方がいらっしゃる限り、きっちり作って、売っていきたい」

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