(ブルームバーグ):何年もの間、ウォール街は全てを把握していた。株高が脅かされれば、ビッグテックのセーフティートレードになだれ込む。景気減速を心配しているなら、米金融当局が助けてくれる。

運用担当者はもはや、こうした市場の救世主に賭けることはできない。資産全般が今年一番の波乱に見舞われた今週、かつては信頼できた取引戦略が台無しになったからだ。

2日発表された7月の米雇用統計が低調だったことで、今後の景気下降リスクが浮き彫りとなった。債券市場は、パウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の景気抑制的な金融政策スタンスが政策ミスとなる恐れがあるとの明確な警告を発している。2024年の人工知能(AI)ブームを巡っては、注目された決算が期待外れとなり、米企業の多くにとって積極投資がまだ実を結んでいないとの新たな懸念で揺らいでいる。

6月まで猛烈な値上がりを見せていた大手テクノロジー株などの「マイティーテック」は調整局面に突入した。1カ月足らずで約3兆ドル(約440兆円)相当の時価総額が失われた。長く落ち着いていたトレーダーの不安を示す指標も2年ぶりの高水準に急上昇した。

これは、壮大なリスクテークの1年における変動の大きい一週間に過ぎず、米金融当局も1カ月分のデータに過剰反応しないようにしている。だが、運用担当者らは今、軽度の株安から本格的な危機まで、あらゆるリスクを突如ヘッジしている。超大型株で最も人気のあるトレンドに乗り、多額の利益を上げてきたファンドマネジャーは打撃を受けている。

JPモルガン・アセット・マネジメントのポートフォリオマネジャー、プリヤ・ミスラ氏は「われわれは皆、米利下げが遅過ぎる、あるいはゆっくり過ぎるリスクに対処することになるだろう。全ての資産クラスはそれを反映すべきだ」と指摘。「市場は先を見据えており、米経済がトレンドを下回る成長に陥る恐れがあるという非常に現実的な危険を認識している」と語る。

以前なら想像もできなかった9月の0.5ポイント利下げ見通しは、パウエル議長が行動を起こすまで時間をかけ過ぎたと突然確信したウォール街の金融機関にとって、早くも基本線となった。

ナスダック100指数は週間ベースで3%下落し、4週連続安となる一方、S&P500種株価指数は今週、2%下げた。米10年債利回りは今週、40ベーシスポイント(bp、1bp=0.01%)近く低下。ウォール街の「恐怖指数」であるVIX指数は2日の取引で一時、22年以来の高水準に向けて上昇し、30に近づいた。

インフラストラクチャー・キャピタル・アドバイザーズの創業者、ジェイ・ハットフィールド氏は「市場では大幅なリセッション(景気後退)が起きるかのように取引されている。われわれの考えでは、通常の季節的な混乱が起こり、その後は経済に関するより多くのデータを得て、景気が急降下しているのではなく、単に減速していることに気付くことになる」との見方を示した。

ここ10年の大半にわたり、投資家らは信頼できるハイテク企業の業績に安らぎを得てきた。しかし今、それは突然不安の種となっている。AI競争に勝つための準備が整っていないことを示唆した米インテルの株価は、少なくとも1982年以来の下落率となった。当面は多額のAI支出のために利益は後回しになるとの見通しを示したアマゾン・ドット・コムも大きく下げた。

FBBキャピタル・パートナーズの調査ディレクター、マイク・ベイリー氏は「少なくとも今のところ、ダムが決壊しつつある」とし、「リセッションに突入すれば、投資家はテクノロジー企業の利益成長を控えめに見積もるかもしれない。成長が鈍化するハイテク株をなぜ高く評価するのか」と述べた。

原題:Wall Street’s Year of Calm Snaps as Biggest Market Saviors Flop(抜粋)

--取材協力:Emily GraffeoKatie GreifeldSydney MakiLiz Capo McCormick.

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