(ブルームバーグ): 米連邦公開市場委員会(FOMC)は2年余りにわたり、インフレを何よりも優先してきた。そして今、世界市場が待ち望んでいた転換が起ころうとしている。

  労働市場へのリスクが高まる一方、物価安定が目前に迫っているとの見方が強まる中、FOMCは9月の会合で利下げに踏み切る構えだ。ここ数週間、金融当局者は講演で利下げに向けた地ならしをしており、連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は30、31両日のFOMC会合後の記者会見で、より明確に利下げを表明する可能性が高い。

  まだ決まったわけではない。当局者は20年ぶりの高水準にある借り入れコストの引き下げに踏み切る前に、月次のインフレ指数が年率2%の目標に向かって低下傾向を続けることをなお確認したいと考えている。しかし、パウエル議長ら当局者は米経済のソフトランディング(軟着陸)の好機を無駄にしたくないとの強い意志もある。

  パウエル議長は10日の下院での証言で、「インフレ率を下げることだけが目的ではない」と発言。「労働市場の動向にも留意する必要がある」と語った。

  個人消費支出(PCE)コア価格指数は前年比2.6%上昇まで鈍化し、かつて過熱した労働市場はコロナ禍前のレベルにまで冷え込んでいる。労働市場は堅調だと当局は言い続けているが、求人は着実に減少し、失業率が徐々に上昇しており、転換点に近づいている可能性があるとみている。

  ウォラーFRB理事は17日、「政策金利の引き下げが正当化される時期に近づいていると思う」と発言。労働市場は 「スイートスポット 」にあるが、当局はそれを維持する必要があるとの認識を示した。さらに、「失業率の上昇リスクは、これまで長い間見られなかったほど大きい」と付け加えた。

  ほとんどの当局者は利下げ開始時期の明言を避けているが、エコノミストや投資家は、当局者のコメントが9月利下げを示唆していると解釈している。

  UBSグループの米国担当チーフエコノミスト、ジョナサン・ピングル氏は「FOMC内には、9月に利下げを実施しようという強い勢いがある。これまで強かった労働市場の多くの分野で冷え込みが見られる」と述べた。

  サンフランシスコ連銀のデーリー総裁はインタビューで、雇用市場の亀裂は早急な対応が必要なほど深刻ではないと話した。それでも当局者は事態が急変する可能性があることを認めている。

  デーリー総裁は「労働市場が大幅に弱くなる、つまり失速するような事態は避けたい。というのも、その時にはもう手遅れになっていることが多いからだ」と語った。

  失業者1人に対する求人件数は2021年6月以来の低水準にとどまった。ピークは22年の2件。雇用はなお堅調だが、伸びは鈍化し、一握りの産業に集中している。

  失業率は6月まで3カ月連続で上昇し、4.1%に達した。これはまだ歴史的には低いが、2021年以来の高水準だ。クックFRB理事は10日の講演で、失業率について「非常に注意している」と述べるとともに、その悪化が見られれば「対応する」と表明した。

原題:Fed Prepares for September Cut as Powell Shifts Focus to Jobs(抜粋)

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