(ブルームバーグ): 8日の日本市場は長期金利が上昇した。毎月勤労統計を受けて日本銀行が月末に金利を引き上げるとの見方が強まった。米国の利下げ観測が加わり、円は対ドルで上昇している。

  新発10年債利回りは前週末比2ベーシスポイント(bp)高い1.085%に上昇した。8日発表された5月の毎月勤労統計調査では基本給が1993年1月以来の高い伸びとなった。追加利上げの時期を探る日銀にとって政策面で追い風になる。米雇用統計鈍化で米国は年内に2回利下げする可能性が高くなっており、円は一時1ドル=160円台前半に上昇。日本株は続落した。

  金融政策決定会合を月末に控えて、日銀の政策を巡る観測が相場を動かしている。米長期金利の大幅低下を受けて日本でも金利は低下が予想されていた。フランス国民議会(下院)選挙と東京都知事選挙が終わり、9日からのパウエル米連邦準備制度理事会(FRB)議長の証言や日銀の債券市場参加者会合、月末の日米金融政策決定が目先の焦点になる。

  全国信用協同組合連合会資金運用部の山下周チーフエコノミストは、勤労統計で共通事業所ベースの所定内給与の伸びが2.7%に拡大したことについて、物価安定目標の実現に向けた数字的な確度が高まり7月利上げの可能性を高めたと述べた。これで日銀が7月に利上げに動かなければ何を見て政策を行うのか分からなくなり、むしろ不自然だとしている。

債券

  債券相場は下落。朝方発表された5月の毎月勤労統計で基本給が31年ぶりの高い伸びとなったことを受け、売りが優勢だった。日銀が月末の金融政策決定会合で国債買い入れの大幅な減額と追加利上げに踏み切ることへの警戒感が依然根強い。

  日銀が午後公表した地域経済報告で、多くの地域から中小企業の賃金改定について「昨年を上回るあるいは高水準であった昨年並みの賃上げの動きに広がりが見られる」との報告があった。

  岡三証券の鈴木誠債券シニアストラテジストは、勤労統計の上振れにより日銀の利上げ観測が強まる可能性があると語る。ただ、1-3月の実質成長率が大幅に下方修正されるなど弱い経済指標も多く、勤労統計だけで決め打ちはできないとも指摘。9、10日に開かれる日銀の債券市場参加者会合などを見極める必要があると述べた。

為替

  東京外国為替市場の円相場は一時1ドル=160円台前半まで上昇し、約1週間ぶりの高値を付けた。勤労統計が予想を上回る賃金の伸びを示し、日銀の追加利上げを意識した円買いが優勢になった。

  三井住友銀行の鈴木浩史チーフ・為替ストラテジストは、共通事業所ベースの賃金が上振れたことが「7月の日銀会合での追加利上げの可能性を高めるものとして意識されている」と指摘。米雇用統計を受けた米金利低下によるドル安、フランス下院選を受けたユーロ安も含め「日米欧で円買いの材料がそろっている」と述べた。

  りそなホールディングス市場企画部の井口慶一シニアストラテジストは、先週後半から「円安よりもドル安の方が優勢になり始めている」と指摘。円相場については「日銀が利上げをする環境が整いつつあることや、国債買い入れ減額をどういった規模とペースで進めるのかも意識されている」と言い、9、10日の債券市場参加者会合の影響を注視している。

株式

  東京株式市場は米雇用鈍化を受けて自動車や金融といったバリュー(割安)株が値下がりして、TOPIXと日経平均株価はともに続落した。精密機器などグロース(成長)株は堅調だった。

  個別銘柄では決算が市場予想を下回った安川電機が下落した。5日公表されたTOPIXのFFW(浮動株比率)定期見直し結果を受けて、売りインパクトの大きな日本ペイントホールディングスや楽天グループ株は売られた。

  フィリップ証券の増沢丈彦株式部トレーディング・ヘッドは、上場投資信託(ETF)の運用会社の分配金を確保するための売り需要が引けにかけて想定されるため、投資家が利益確保を急いでいると述べた。きょうは約4700億円のファンドからの売り圧力が予想されるため、トレーダーは買い控えをしているとしている。

--取材協力:酒井大輔、山中英典.

More stories like this are available on bloomberg.com

©2024 Bloomberg L.P.

鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。