“日本一コカ・コーラを売った男”山岡彰彦さんは、“ダメ新人”からセールス日本一を達成した。
大学卒業後、四国コカ・コーラボトリング社に入社。高知営業所でルートセールスからキャリアをはじめ、その後、全国セールスコンテストで日本一を獲得。すると、これを機にボトラー社から日本コカ・コーラへの出向が実現し、第一号になる。
今では多くのボトラー社員が出向しているが、その道を切り開いた。
著書『コカ・コーラを日本一売った男の学びの営業日誌』(講談社+α新書)から、前例のない出向がどう実現したのか、一部抜粋・再編集して紹介する。
前例のない出向のお誘い
全国セールスフォースコンテストで一位になった後、信じられないことが起こります。
なんと日本コカ・コーラ社への出向のお誘いです。当時は全国のボトラー社から出向する人という前例はありませんでした。
もちろんボトラー社の一つである四国コカ・コーラ社に所属する現場の営業担当者にとっては前代未聞の話です。
この記事の画像(5枚)出向の理由は、「実際に現場で働いている実務者の考え・意見を取り入れ、より効果的に営業活動を支援する企画やツールを開発する」ということです。
このため営業現場とつながりを持ちながら、さまざまな企画やツールの開発を進めることなどが仕事になります。私にとっては未知の領域ですが、新たな場所、新たなチャレンジに胸は高鳴ります。
私が所属している地区統轄部の小林部長も「光栄なことじゃないか。東京に行くことで得るものは大きいぞ」と応援してくれます。
そんなある日、四国コカ・コーラ社の営業本部長から高松の本社に来るようにとの連絡が入りました。常務も同席で面談があるとのことです。
「いよいよ正式に東京出向の辞令が下りるのか」との期待を胸に意気揚々と本社に向かいます。
「出向しないと言え」にぼう然
月に一度の会議で行くことはあってもこうした用件で行くことはありません。ましてや会う相手は営業本部長と常務です。
緊張しますが、晴れやかな場になることは疑いようがありません。心が躍りました。
朝早く高知を発ち、高松の本社の駐車場にクルマを停め、会議室に入ります。少し待っていると二人が入ってきました。営業本部長と常務が少し離れたテーブル越しに並んで腰を下ろします。
テーブルに両肘をつき、手を組んで、営業本部長が開口一番こう言いました。
「残念だが、この話は断ってくれんか」
「えっ!」
その後言葉が出ない私。常務は黙ったままこちらを見ています。
「まだまだ君にはこちらで頑張って欲しい。わかってくれるな」
営業本部長から二の矢が飛んできます。何がなんだかよくわかりませんが、「出向しないと自分から言え」ということのようです。
またとない光栄な話だと聞かされ、自分でもそう思っていたので、真逆の展開に頭の整理がつきません。
「はぁ、でも…」
重い空気の中、しばらく沈黙の時間が続きます。
「まぁ、ゆっくりここで考えてくれ」
二人は会議室を出て行ってしまいました。
座敷牢のような会議室に一人残され、思いもよらない状況に情けないやら、悲しいやら。いろいろな感情が交錯し、思わず天を仰ぎます。
同時になんとも言えない怒りがこみ上げてきます。
一時間ほどたってから、お弁当が運ばれてきて、その後二人が入ってきました。
昼食をとりながらこれからの自分の処遇や来年はこうして欲しいなどと聞かされましたが、さっぱり頭に入ってきません。
「いいか、断るんだぞ」と何度も言われましたが、何も返事をせず、営業本部長の「帰ってから正式に断りの返事を聞かせてくれるように」との言葉を背中に本社を後にしました。
社長から突然、意思確認の電話
高知に帰る途中の公衆電話から小林部長と今回の話を持ってきてくれた日本コカ・コーラの藤野マネジャーに報告し、その日は意気消沈して帰る羽目になりました。
翌日、藤野さんから電話が入ります。
「あえて本部長や常務の意向に逆らってでも出向する意思はあるのか。上の意向に反して出向し、期間を終えて帰るということにはそれなりの覚悟が必要、その覚悟はあるのか」と問われました。
「はい」と返事をすると、「ならば返事をせずに待っていなさい。ただし、仕事は普段通りにやるように」と言われました。
何が起こるのかはわかりませんが、もう待つしかありません。
数日が過ぎました。その日は調理師の会の会議が山口市で開催されるので、岡本シェフと一緒に山口市内の会場に入っていました。
お昼を過ぎた頃、私あてに電話が掛かってきているとの呼び出しを受けます。
「こんな出先まで誰からの電話だろう。何か現場で問題でも発生したのか」
小走りに会場の事務所の電話の受話器を受け取ります。
「おー、すまんなぁ仕事中に。渡辺だが」
「申し訳ありません、どちらの渡辺様でしょうか」
「社長の渡辺だ」
「社長!?渡辺社長ですか!」
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