(ブルームバーグ): 2024年春闘での記録的な賃上げの影響で個人消費が今後回復に向かえば、これまで大きく出遅れていた日本の消費関連株が年後半にかけて巻き返すとの期待が市場関係者の間で広がっている。

記録的賃上げによる消費刺激効果が期待されているPhotographer: Takaaki Iwabu/Bloomberg

  UBS証券の守屋のぞみ株式ストラテジストは、消費センチメントや消費自体の回復が確認できれば、食料品や小売株など関連セクターの上昇余地は大きいと分析。3カ月程度先のマクロ統計や企業業績の発表を確認する必要はあるが、「いよいよ消費が回復してくれば、出遅れセクターのキャッチアップという意味でインパクトが大きい」と見ている。

  今年の春闘の平均賃上げ率は、連合が目標としていた「5%以上」を達成し、33年ぶりの高水準となったが、消費回復への期待は株式市場でまだ織り込まれていない。24年1-6月の東証33業種のパフォーマンスを見ると、金利上昇による収益の押し上げが見込まれる保険や銀行など金融株が上位に並び、食料品や小売株の上昇率は6-7%台と東証株価指数(TOPIX)の19%を下回った。

  インベスコ・アセット・マネジメントの木下智夫グローバル・マーケット・ストラテジストは、これまで長い間賃上げをしてこなかった企業では手続き的に実際の給与に反映させるまでに時間を要するケースもあると指摘する。このため、個人消費の動きは鈍く、国内総生産(GDP)の統計では民間消費支出が4期連続のマイナスとなっている。

  4日の日本株市場で34年ぶりに史上最高値を更新したTOPIXを引っ張っているのは金融株のほか、貴金属市況の高騰を受けた非鉄金属や商社など資源関連株、円安が利益を押し上げる機械や自動車など輸出株だ。これに消費関連株の上昇も加われば、相場は一段と力強さを増す可能性がある。

  シティグループ証券の阪上亮太チーフ株式ストラテジストらは6月のリポートで、今後の日本株上昇要因の一つとして「実質賃金のプラス転換による内需回復期待」を挙げ、顕在化するのは早くて7月下旬から8月上旬以降との見方を示した。

  また、3カ月連続で月間300万人を超えるなど訪日外国人旅行者の数が回復基調を強めており、インバウンド需要の拡大も国内消費の追い風となりそうだ。観光庁によると、1-3月の訪日外国人客の消費額は1兆7505億円と過去最高だった。

  フランクリン・テンプルトン・インスティテュートの投資ストラテジストであるクリスティ・タン氏は、現時点では個人消費の回復は予想を下回っているが、消費関連株はバリュエーションが10年平均を下回っており、投資家にとって魅力的な水準だと話す。

  今期業績計画の上方修正をきっかけに、7月に入り15%高とTOPIXの3.2%高を上回る百貨店チェーンのJ. フロント リテイリング株の12カ月先予想株価収益率(PER)は18倍と、過去10年の平均値25倍を下回っている。

止まらぬ円安には警戒も

  一方、外国為替市場では円相場が対ドルで38年ぶりの安値を付けるなど、日米の絶対的な金利差から円安基調が続いており、輸入物価の上昇を通じインフレが長期化するリスクは消費関連株にとって逆風となり得る材料だ。

  UBS証の守屋氏は円安による消費センチメントへの影響が心配され、「先行して期待が高まるというよりは、実際の消費の状況を確認しながら株価への期待が形成されていく流れになるのではないか」と話す。日本銀行の6月の企業短期経済観測調査(短観)では製造業の景況感は改善したが、小売業は悪化。5日発表の5月の家計消費支出は事前の増加予想に反し2カ月ぶりに減少し、消費回復の遅れが示された。

  ピクテ・ジャパンの松元浩シニア・フェローは、一部小売りでは円安によるコスト高が株価や業績にネガティブに働いていると指摘。しかし、ここからは実質賃金も増え、消費購買力が戻る可能性はあり、「今年後半ぐらいには小売りでも少し明るい兆しが出てくるのではないか」と述べた。

(11段落に家計消費支出の発表内容を追記します、同統計の発表日は訂正済みです)

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