急激に成長してきたEV電気自動車の市場だが、世界の販売台数は2023年から伸び悩んでいる。EVの巻き返しの鍵はどこにあるのか。

世界でEV失速の理由 巻き返しのカギはどこに?

埼玉県にある電気自動車専門の中古車販売店「EvCArS」。店頭には、テスラや日産のリーフといった各社の人気EVが並ぶ。この日、愛車のテスラ「モデル3」から新しいモデルに乗り換えを希望する男性客が査定に来ていた。「日産などが電気自動車やっていたが、やっぱりテスラがいい。これからいろいろな機能が開発されて、どんどん便利になって使いやすくなればいい」。

着実に利用者を増やしているEVだが、世界のEV市場は成長の壁に直面している。調査会社のマークラインズによると、EVの販売台数は、2022年は66.4%の増加率だったが、2023年は25.8%にとどまった。その一方で、エンジンを積んだハイブリッド車は15.2%から2023年は31.4%と倍増している。失速の背景については、新しいものに飛びつく顧客層が一巡したという見方や、2024年1月にアメリカを襲った大寒波で、多くのEVが立ち往生したことが大きなニュースになり、EV離れが加速したという見方も出ている。

イーロン・マスク氏が経営するEVの代名詞、アメリカのテスラの株価は、2023年末と比べて3割ほど下落している。そして一番の課題が、充電インフラの不足。電気車専門中古車販売店「EvCArS」の佐久間竜一社長は「充電ネットワークと考えるとまだ物足りなさすぎる。過渡期というか、これからが成長時期になっていくという段階」と語る。現在、公共の充電施設は国内に約3万基あるが、国はこれを2030年までに15万基に増やす方針だ。また、マンションなど集合住宅での充電施設の設置も急がれる。

2018年創業の企業「ユアスタンド」はマンションなどの集合住宅に向け、EVの充電設備を設置している。ユアスタンド 東日本営業部の松延大樹部長は「戸建てであれば、自身で入れるのは簡単だと思うが、マンションだと合意形成を取ったり、運用のルールを決めたりがあるのでそこに提案をさせてもらっている」。

EV向けの充電設備の設置を検討する、横浜市内のマンションの自治会が、住民539世帯を対象にアンケートを実施したところ、36.5%に当たる197世帯が、マンションに充電設備ができるなら、EVの購入を検討すると回答した。実際、2018年の会社創業時と比べ、マンションでEVの充電施設を設置する件数は大幅に増えているという。

ユアスタンド 東日本営業部 松延大樹部長:
年間数件っていうところから、2023年で100件近くになって、2024年はそれの倍近く。将来的な需要は予想していたが、今こんなに出てくるのかと驚いている。

EVの更なる普及に向けて、充電ネットワークの構築が今、急ピッチで進んでいる。世界のEV市場に精通している伊藤忠総研の上席主任研究員 深尾三四郎氏をゲストに迎えて話を伺う。

自動車先進国で失速するなか、EVを使いこなす新興国とそのワケとは?

テスラが4年ぶりの減収減益、ゼネラル・モーターズは販売台数の減少、フォードは発売の先送り、またメルセデス・ベンツは2030年に予定していた全車EVを断念、中国でも販売台数の増加率が大幅に縮小している。

――ここに来てEV失速、ガソリン車がまだ当分行くというムードになってきている?

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
今、一時的な踊り場と見る。

背景として、最近よく「キャズム(深い溝)」という言葉、これまでEVシフトを牽引してきたのは「早期利用者」。「アーリーアダプター」と言われるが、ハイブリッドを含むガソリン車よりもEVはまだまだ高い。こういう高いEVでも高くても買うという人たちに今、行き渡ったというのが現状。その次の「早期多数派」を「アーリーマジョリティー」というがそういう人たちに「ガソリン車、ハイブリッドよりもEVを持った方が経済合理性がある」一番わかりやすいのは「EVの方が、ハイブリッドより安い」という段階になると、またEVは加速していくというところだが、今、端境期が目の前で起きている。

――新しい物好きの人たちが買い終わって一巡して、次に行く動機づけができていない。

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
先ほど地域別で出てたアメリカと、ヨーロッパの中でもドイツ。ここに顕著に出ている。

――補助金が縮小される話があると、より加速してしまう。そうすると、先ほどの「キャズム」。一体どれくらい続くのかと、10年、あるいは20年なのか。

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
1~2年ぐらいと見ている。(なぜそんなに短いのか?)まず全世界的に見ると実は「キャズム」をちょっと飛び越える市場がある。グローバルサウスだ。先週、東南アジアやアフリカなどいろいろ回ってきたが、タイ。中国から輸出されてくるEVが、日本のハイブリッド車より安い。これに飛びついている状況で、ピックアップトラックを除く自動車の販売においてはもう3割がEVだ。左上の写真、これから中国から出てくる非常に先端技術が盛り込まれた少しハイレンジの車。実は昨日6月7日、右ハンドル車の生産が始まって、これからの7~9月期にかけて、かなり多くこういう中国の車が入ってくる。インドは、いわゆる「フリート」という形で法人向けライドシェアを中心に、タタ自動車がEVを増やしていることと、四輪だけでなく二輪車の電動化も進んでいる。もう1つはアフリカのエチオピア。この2年間で10万台のEVがこの国に流入している。多くが中国で売れ残ったEV。でも最新のモデル。こういった形で、トヨタやホンダや日産、BYD、こういう車がもう流れ込んでいるので、現地で話聞いてみると、安い。エチオピア特に安いのは、ガソリン車よりも安いだけでなく、電費。エネルギーコストが安いので、総保有コストが安くても一気に入っているという状況。

――新興国だと電力供給が不安定で、電気コストも高いからEVは簡単に普及しないという認識だったが違うのか?

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
一概にエチオピアのケースを一般化することはできないが、エチオピアは水力発電中心に再生可能エネルギーの生産は120%で、輸出するぐらい余っている状況。実はアフリカはいわゆる「カエル跳び」というか「リープフロッグ」(一気に先進国を跳び越える)の国がある。こういう最先端技術のものが安かったら買うというような流れが出てきている。なのでEVの「キャズム」とみたときに、アメリカやドイツという北半球と、グローバルサウスを含む南半球で見ると様相が違う。南半球・グローバルサウスは日本の自動車メーカーが高いシェアを誇っている市場でなので、特に中国からダンピングの形で安いEVが入ってきて、そこで日本車がシェアを奪われているという状況をもう少しちゃんと見た方がいい。

――「キャズム」と言われる部分が、短いところもあれば長いところもある。おそらく日本は長くなるだろうが、この間はガソリン車と、EV車が併存する時代が一定期間続く?

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
「キャズム」の間といえば、アメリカでも見られることだが、ハイブリッド車や「プラグインハイブリッド」。簡単に言うと「エンジンを搭載したEV」だが、この伸びはやはり強い。

EV巻き返しのカギ テスラも注目の「SDV」とは!?

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
ただ先ほど1~2年と言ったが、いわゆるSDVという形でソフトウェア機能が強化されている車が入ってくる。今年8月8日にテスラがロボタクシーという完全自動運転車の機能を備えたライドシェアサービスといったものを出してくる。こういうものが出てくるとEVビジネスそのものの稼ぎ方が大きく変わっていく。

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
いわゆるスマイルカーブといわれるものだが、EVのビジネスがどこで利益が出ているかということを表している。真ん中が自動車を組み立てる部品をかき集めて自動車を作るというところだが、今もう既に見られているが、EVでも電池が収益源になっている。例えばBYDは電池を内製してそれを搭載してEVを作っている会社だが、こういう会社が利益を出している。そしてCATL。元々ATLという実はTDKの子会社だったが、携帯の電池から自動車用の電池をやって大きくなって利益を出している。こういう形でEVのビジネスモデルはまずは電池で利益を稼ぐこと。

――車両組み立てるだけでは利益が出なくて、電池で儲けるか、あるいは、車を通じたサービスを提供することによって儲けていく時代に入っている。

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
まさに自動運転などソフトウェア開発などがこれからの新しいEVにおけるサービス。一番は再生可能エネルギーを効率的に安くEVのユーザーに提供していくことが新しいサービスになってくる。もう一つが先ほどのSDVという領域でいうとコネクティッドサービスといわれるものは、中国ではもう既にかなり広がってきているサービス。

SDVとは、S(ソフトウェア)D(デファインド)V(ビークル)の略で、ソフトウェアを更新することで販売後も機能を増やしたり、性能を高められる車のこと。経産省はこのSDVの販売目標を2030年に国内外で1200万台にすると掲げている。つまりスマホのようにいろんなソフトウェアがどんどんアップデートされていくような車。

――その車というのはやっぱり電動化が必須なのか。

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
電動化、電子制御との相性が良いという意味では、SDV、いわゆる車のスマート化の流れとEVシフトは同時並行で進んでいる。

――電気自動車・EVを買う最大の目玉になるのはSDVということか。

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
これからEVにおいては、SDV。車が動いてる間に課金させることもできる。スマートフォンと同じ。実は、最近、テスラは日本国内においてもオートパイロットを自動アップデートで進化させている。Xでも「便利だ」という声が聞こえてくる。こういう形でもう既に保有している車が走ってる間に客にとっての魅力を高めるということを提供できるかどうかというのはSDV。

――SDVの一番の核心はやはり自動運転か。

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
ロボタクシーという名前で、8月8日に発表されるテスラの新しい完全自動運転車。例えば夜寝てる間にその車が街中でタクシー事業やってくれる。それを考えると「車ビジネス」としても、ほぼ儲かってなくても客としても総保有コストを下げるという、新しいビジネスモデル、稼ぎ方が今生まれようとしている。

――将来的にはEV化は必須だが、ガソリン車がなくなるわけではない?

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
向こう10年ぐらいみても、EVとガソリン車は併存する。ただもちろんEVのシェアが上がってくる。30%とか50%で、残り半分はエンジン車。(言っても半々ぐらい?)半々ぐらい。実はEVでも電池の材料がなければEVがつくれないというところで材料の制約がある。

――両方をどうやって強くしていくかが今後の課題になってくる。

伊藤忠総研 上席主任研究員 深尾三四郎氏:
その通りだ。

(BS-TBS『Bizスクエア』 6月8日放送より)

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