舞台は、沖縄本島の南端。ここで人生をリスタートするため、低予算で実現させたコンクリートの家がある。

 住人(アルジ)は、沖縄の離島で看護師として働く40代の男性。関東から地元に戻ったのを機に、2022年に新居を建てた。
 家は上半分がコンクリート、下半分がガラスというスタイリッシュなデザインの平屋。ガラスの一部が入口になっているが、上のコンクリートの壁が地上150cmの高さから始まっているため、かがんで入らなければならない。
 中は、コンクリート打ちっぱなしの広々としたワンルーム。まさに大人の隠れ家的なおしゃれな空間だ。全面ガラス張りの大きな窓からは、自然豊かな沖縄の景色を独り占め。しかもガラス窓はフルオープンできるようになっている。

地上150cmから上が「垂れ壁」になっている

 専門学校を卒業したあと、東京で看護師として働いていた住人(アルジ)。24年間がむしゃらに頑張り続けたが、体も心も限界に達し、ボロボロになってしまう。そこで「幸せになるには、頑張るのをやめるしかない」と退職し、故郷沖縄に帰って人生をリセット。貯金で家を建てることを決意した。予算は3800万円。土地は、93坪もの広さが破格で見つけられたものの、建物のほうで難航。沖縄は台風が多く、希望するコンクリートでしかもデザイン住宅となると、予算を大きくオーバーしてしまうのだ。それでもコンクリートを諦めきれず建築家に相談すると、提案されたのが、家の強度の大部分を中央の1本の柱に集中させる構造。さらに、一人暮らしなので個室は作らず、余計な壁や柱を減らすことでコンクリートの量を最小限にしてコストダウンをはかることに成功した。またこの太い柱が「ゆるい間仕切り」の役目も果たし、ワンルームを、寝室、水回り、ダイニング……と、用途ごとに適度に独立させている。
 ”思い切ってやめた”ことで実現した低コストのコンクリートハウス。そしてこの家での暮らしが、住人(アルジ)に驚く変化をもたらしたというが…?

部屋の中央にある“1本柱”

 広いワンルームの中で気になるのが、フロアにそのまま設置された風呂とトイレ。ここもコストダウンのため、扉や間仕切りを一切つけなかったのだという。ただこれでは外からも丸見えになるので、入浴の際にはカーテンを使い、友人が来たときのために衝立も完備している。そんなオープンな水回りの隣には洗濯機が。その横にはクローゼットがあり、脱いで洗って乾燥した後すぐに収納できるという、便利な洗濯動線になった。

オープンな水回り カーテンも付いている

 またお金がかかるコンクリートハウスでコストを抑えるために一番のポイントになったのが、外の「垂れ壁」。屋根から垂れ下がる途中までしかない壁のことで、一般的な住宅は地面まで壁を作るが、コンクリートの量を減らして壁を半分にした。下半分は、開放的な一面のガラス窓に。結果、地上から150センチの高さから始まる垂れ壁が沖縄の強い日差しを遮る役割を果たし、外からの視線も気にならず、しかも景色は楽しめる絶妙な高さになっている。

中から見た「垂れ壁」。日差しをカットしてくれる

 料理を作るのが大好きな住人(アルジ)のキッチンは、念願だったアイランド型に。扉をやめ、安価なラワン合板で作ってもらった食器棚には食器や調理器具が並んでいるが、一人暮らしとは思えないほど充実している。実は、住人(アルジ)には富山県から沖縄に移住してきたパートナーの男性がいて、週末は一緒にお茶をしたり、ご飯を食べたりして過ごしているのだそう。
 住人(アルジ)がこの家に暮らして”思い切ってやめた”のが、自分がゲイであるのを隠すこと。「隠すのも全部やめたらほんとにすっきりして、今やっと自分らしく生きられている」と晴れ晴れとした表情で語る。

棚はオープンにした、アイランド型のキッチン

 さらに、住人(アルジ)が「とっておきのところ」というのが、建物の上にある屋上。ワンルームと同じ面積の広々としたスペースからは天気が良ければ海を見ることができ、夜には星を眺めたり、風に吹かれながらビールを楽しむことも。

建物と同じだけの広さがある屋上

 現在は近くの離島で唯一の看護師として月の半分勤務している住人(アルジ)。頑張るのをやめて改めて気がついたことがあるという。「今は心の余裕ができているので、前よりも看護がすごく楽しくなっているし、昔はできてなかった本当にやりたかった看護ができるようになった。自分で言うのもなんだけど、今の方が輝いてるっていうか、本当に楽しく看護してる」。

 人生をリセットして踏み出した大きな一歩。壁も柱もすっきりした家で暮らして「隠す」ことをやめ、心も開放された。ここから先、どんな新しい景色が見られるのか、人生の楽しみもさらに広がっていくだろう。(MBS「住人十色」2024年6月1日放送より TVerでも放送後1週間配信中)

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