14日、イランの首都テヘランの英国大使館前で反イスラエル・デモに参加する人たち(WANA・ロイター)

反米の地域大国イランが宿敵であるイスラエルの本土を初めて直接攻撃したことで、同国とパレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム原理主義組織ハマスの戦闘で不安定化した中東情勢は混迷を深めそうだ。とりわけ、イランと連携する中東各地の民兵組織がイスラエルや米軍施設などへの攻勢を強めることが懸念材料となる。

イラン革命防衛隊がイスラエル攻撃に踏み切った14日未明、イランの首都テヘラン市街には攻撃を支持する数百人が集まり、「イスラエルに死を!」などと気勢を上げた。米紙ニューヨーク・タイムズ(電子版)などが伝えた。

街に出た市民の中には、2020年にイラクで米軍に殺害された革命防衛隊の精鋭「コッズ部隊」のソレイマニ司令官の写真を掲げる人もいた。イスラエルだけでなく、同国の後ろ盾となってきた米国への怒りも根深い。

ただ、イラン指導部はハマスとイスラエルの戦闘が始まった昨年10月以降、イスラエル軍や米軍との戦闘に直接関与するのを自制してきたとされる。両軍が本格的に参戦することになれば、イラン本土攻撃の危険性が高まるからだ。

4月1日、在シリアのイラン大使館がイスラエルによって空爆されたことで状況は変わった。イラン国内では反イスラエルのデモが発生するようになった。

1日、シリアの首都ダマスカスで、イラン大使館近くの建物から煙があがった(ロイター)

イラン指導部はかねてイスラエルを「地図から消す」と公約してきた。それだけに、大使館空爆によって燃え上がった国民の怒りの矛先が自らに向けられる前に、イスラエル本土への「反撃」で対抗姿勢を国民に向けて示す必要があると判断したとみられる。

しかし、イスラエルへの大規模な攻撃で国連や欧米諸国はイランへの批判を強めており、今後は厳しい立場に立たされそうだ。

また、周辺地域の親イラン民兵組織の動向も情勢を左右するカギを握る。

イランはイスラエルの隣国レバノンの民兵組織「ヒズボラ」のほか、イラクやシリア、イエメンの民兵組織と「抵抗の枢軸」と称する連携を強化してきた。特にヒズボラはハマスを超える軍事力を保持しているとされ、イスラエル攻撃を一層強化する可能性がある。

さらに、紅海周辺の商船を相次いで襲撃してきたイエメンの「フーシ派」が攻勢を強めれば、国際的な海運や経済に大きな影響が及ぶ。親イラン民兵組織に強い影響力を持つイランに対する風当たりが強まることは間違いない。(カイロ 佐藤貴生)

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