【ワシントン=渡辺浩生】「不滅のパートナーシップを築くというゴール」。岸田文雄首相を迎えた10日の歓迎式典でバイデン大統領が触れたのは、1960年にアイゼンハワー大統領が岸信介首相を迎えて今日の同盟関係の起点となった新日米安全保障条約に署名した際の演説だった。
バイデン氏は、米軍と自衛隊の指揮統制の連携強化に踏み出した日米の合意は、それ以降最も意義深い進展と述べ、64年前の「ゴールは達成された」と宣言した。
バイデン氏の外交姿勢にも混沌の責任
日米が旧安保条約改定で合意した1958年、中国は金門島を砲撃し台湾海峡危機が勃発し、中東の動乱で米軍はレバノン駐留を開始した。その当時を凌駕(りょうが)する複合的な脅威に日米は直面している。中国の南シナ海や台湾海峡の軍事的威圧は一触即発の状況で、中東ではイランとイスラエル間の紛争に発展しかねない。3年目に入ったロシアのウクライナ侵略は米国の支援の滞りもあってウクライナの苦戦が続く。しかも、中露、イランに北朝鮮を加えた権威主義陣営は互いの利益のため結託している。
そうした混沌に陥った責任の一端は、アフガニスタンから米軍を撤退させるなど独裁指導者から弱腰に映ったバイデン氏の外交姿勢にもある。米下院ではウクライナ支援を盛り込んだ緊急予算の採決が共和党の一部反対で棚上げされ、米国の指導力低下を欧州の同盟諸国が危惧している。
内憂外患のバイデン氏にとり、「今日のウクライナは明日の東アジア」と述べ、欧州とアジアの平和は不可分と説く岸田氏は最強の右腕かつ援軍となった。
トランプ氏「孤立主義」に楔
「全世界の先頭に立つ」とのメッセージに中国政府は「断固反対する」と反発したが、日米が向き合うのは外的な脅威だけではない。共和党のトランプ前大統領の支持層に広がる「孤立主義」にも楔を打ち込む。11日の議会演説で岸田氏はその役を演じ切った。
岸田氏が「日本はこれからもウクライナと共にある」と表明すると、議場の圧倒的多数が立ち上がって拍手。支援に反対して座ったままのトランプ派議員は少数なのが、歴然とした。
両首脳は、日本の寄贈でポトマック川沿いに育ち春の訪れを告げる約3千本の桜に繰り返し触れた。伐採される一部の補充で日本は250本を新たに届ける。バイデン氏は「桜は日米の友情のように永遠だ」と語ったが、国内政治の分断と世界の混沌にも揺るがぬ絆の真価は今後試される。
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