街は高揚感に包まれていた。長期独裁で知られたアサド政権が崩壊したシリアの首都ダマスカス。「生まれて初めて自由を感じた」「反体制派に感謝している」。12日夕、中心部のウマイヤド広場を訪ねると、大勢の市民らがお祭りのように「勝利」を祝い、新政権への期待を口にした。
広場の中央に巨大な剣のモニュメントがそびえ立ち、反体制派の大きな旗が翻っていた。その下で、興奮した様子の若者たちが声をそろえて歌っている。
「革命は我らの義務だ。魂を革命にささげる。これがシリアだ」
広場のわきではときおり小さな花火が上がる。幼い子供たちは戦闘員の銃を持たせてもらい、記念写真を撮っていた。
「何が起ころうが、前の政権よりはいい。幸せだ」。広場に来ていた家具店の従業員、ムハンマド・サイードさん(59)は力を込めた。反体制派の大規模攻勢を伝えるニュースを見ながら「首都が戦場になる」と恐れていたが、政府軍は目立った戦闘はせずに撤退したため、安心したという。「新政権は民主主義を根付かせてほしい」と願う。
友人たちと訪れていた女子学生、ガルゼルさん(24)も「前政権はいつも国民を脅していた。いま、生まれて初めてシリアを自分の国だと感じている」と喜びを口にした。
ダマスカス市内では、反体制派の戦闘員が銃を持ち治安維持にあたっている。主導しているのは米国などが「テロ組織」に指定する「ハヤト・タハリール・シャム」(HTS)だ。
国際テロ組織アルカイダ系の組織を前身とするだけに、一部にはイスラム原理主義的な統治への懸念も出ている。だが、HTSはすでにアルカイダと決別しており、少数派の権利や女性の服装の自由を保障する方針を表明している。
広場で軽食の屋台を出していた女性、ドゥアー・マティネさん(26)は女性の服装に関するHTSの通知について「とても勇気が出た。新たなシリアはあらゆる宗教や宗派を入れて、融和を目指してほしい」と期待を込めた。
新政権は今後、治安や政情の安定化だけでなく、数百万人の難民の帰還や復興、国民融和など、多くの課題に直面することになる。13年間に及ぶ内戦では、化学兵器の使用や拷問、無差別爆撃などが相次ぎ、戦争犯罪が疑われる事例も多発した。
アサド大統領は8日にロシアへ亡命したとされるが、その後も声明などは出しておらず、沈黙を保ったままだ。広場を警備していたHTSの戦闘員の男性(37)は「アサドを裁判にかけるべきだ。そのためには、国際社会の協力が必要だ」と訴えた。【ダマスカス金子淳】
鄭重声明:本文の著作権は原作者に帰属します。記事の転載は情報の伝達のみを目的としており、投資の助言を構成するものではありません。もし侵害行為があれば、すぐにご連絡ください。修正または削除いたします。ありがとうございます。