ティックトックのロゴと米国旗(ロイター)

ジョー・バイデン米大統領は24日、中国のネット大手「北京字節跳動科技(バイトダンス)」が運営する動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」を規制する法案に署名し、成立した。同法はバイトダンスに対し、来年1月までにティックトックを中国系以外の企業に売却するよう求めている。売却できない場合、ティックトックは米国のアプリストアから締め出され、米国内では事実上利用ができなくなる。

この法案は、下院が13日に352対65、上院が23日に79対18という、いずれも超党派による大差で可決されており、異例のスピード成立となった。

同法は、米国のティックトックの利用者情報が中国当局に流れており、「敵対国からの安全保障上の脅威」だと認定している。

上院情報委員会のマルコ・ルビオ副委員長(共和党)は「われわれは何年間も、中国共産党が米国で最も人気のあるアプリの1つをコントロールすることを許してきた。これは危険なほど近視眼的だった」と法案の意義を強調する。米国内で約1億7000万人もの利用者がいるティックトックに対し、議会の強い警戒感を示したものだ。

米国でなぜ、これほどティックトックへの警戒感が高まっているのだろうか。

ティックトックはアプリのインストール時に、利用者のスマホ内の連絡先や位置情報、写真や動画へのアクセス権限を許可することを求められる。こうした情報を統合すれば、利用者の交友関係や趣味、行動パターンを割り出すことができる。

米誌フォーブスは2022年12月、「バイトダンス」の従業員が同誌の複数の記者を含む利用者の位置情報などに不正にアクセスしていたことを報じた。この記者はティックトックと中国政府とのつながりを報じていた。

さらに懸念されているのが、ティックトックによる米世論の工作や誘導だ。一連の法案が審議されていた3月、ティックトックは米国の利用者に対し、法案成立を阻止するために議員事務所に電話するよう促すメッセージを送っていた。

バイデン大統領(円内)は、TikTok規制法案に署名した(ロイター)

例えば、「台湾有事」の際、ティックトックが米国の利用者向けに「戦争反対のメッセージを議員事務所に送ろう」「経済的には台湾よりも中国が重要」などの情報を流して反戦ムードを醸成。米軍の有事への介入を牽制(けんせい)することが考えられる。

これほど米国でティックトックに対する危機感が高まっているにも関わらず、同盟国の日本では政府や国会でほとんど議論されていない。広報活動にティックトックを利用する政府や自治体すらある。

今回の問題は、通話アプリ「LINE(ライン)」の個人情報流出問題の構図と似ている。総務省は、LINEの運営会社のLINEヤフーに対し、大株主の韓国IT大手ネイバーとの「切り離し」を求める行政指導を2度出している。しかし、米議会とは異なり、日本の国会が動いた形跡はほとんどない。

こうした通話アプリは、経済安全保障の問題に直結する問題である。政府だけではなく、国会議員も真剣にLINEやティックトックの問題と向き合い、日本の利用者の個人情報の保護に全力を挙げるべきだ。(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員・峯村健司)

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