地球の周りで電飾さながらに光る人工衛星、その数1万2000基。その半数がイーロン・マスク氏率いるスペースX社のものだ。高度550kmという低軌道に6000基散りばめられたスターリンク衛星によって地球上どこにいても高速インターネット通信を可能にしている。一民間企業がなぜここまで宇宙ビジネスをリードできるのか?そしてこの先、どこまで行くのか…。

「失敗失敗が何度も続いた…」

2002年に創業したスペースX社は4年後民間委託を拡充したNASAと契約したことで急成長する。NASAから技術者も流入した。去年アメリカは世界で最も多い108回のロケット打ち上げをしたが、うち96回はスペースXによるものだった。

スペースXは打ち上げたロケットを発射台に戻し回収することに成功。これによってロケットの再利用が可能になり打ち上げコストを大幅に削減できた。率いるイーロン・マスク氏は将来的には打ち上げコストを100分の1にすると豪語している。

そして、トランプ次期大統領との蜜月はイーロン・マスク氏の宇宙ビジネスの独走を揺るぎないものにするに違いない。
今年3月までISS『きぼう』利用研究統括を務めた澤岡昭氏に聞いた。

大同大学 澤岡昭 名誉学長
「オバマ大統領の時に宇宙予算をできるだけ小さくしようと民間委託を決めた。その当時スペースXは小さな小さな会社で失敗を繰り返していた。急に大きくなったわけではなく失敗失敗が何度も続いた…。でも陰でしっかりサポートしてくれるものがあった。実は空軍がサポートしていた。それからマスクさんに惚れこんで支えてくれる投資家がいた。おそらくマスクさんは何百何十も電話した…。その中で何人かがしっかりお金を出して…。日本では到底考えられない。それをマスクさんはやってここにたどり着いた。文化の違いかなぁって思った」

イーロン・マスク氏というと派手なパフォーマンスばかりに目が行くが、何度失敗しても諦めない粘り強さと支援者を探し回った地道な努力を積み重ねていたようだ。
さらにそうした民間に対しNASAや国があえて発注をすることで様々な仕事を作り支える構図もきちっとできていたようだ。日本では“宇宙計画”と聞くと国家プロジェクト以外に考えられなかったが、そうした支えもあって民間企業だから成し得た事があった。コストダウンはその最たるものだ。『日本宇宙フォーラム宇宙政策調査研究センター』フェローでもあるジャーナリスト寺門和夫氏は言う。

科学ジャーナリスト 寺門和夫氏
「(打ち上げたロケットが)鉛筆が上から降りてくるように着陸する方法を彼ら(スペースX)は成功させているわけです。アメリカの大企業はみんな“そんなことできるわけないだろ”って言った。その時スペースXの人はジョークとして“大企業が役員会1回やるくらいの予算でできますよ”って言った。やっぱりベンチャーの動きの素早さ、技術者の熱心さ、ノウハウの活かし方が結集しているってこと…」

イーロン・マスク氏VSジェフ・ベソス氏

スペースXのスターリンクによる衛星通信がウクライナでの戦争でも活用されているように宇宙事業の軍事活用は必然だ。だからこそアメリカ空軍もスペースXを支援した。
そして、スターリンクのようなシステムが欲しくてたまらないのが中国だ。中国は中国版スターリンクのために将来的には『中国衛星網絡集団』など3社で約4万基の衛星を打ち上げるとしている。笹川平和財団の小原凡司氏は言う。中国の宇宙開発は軍と切っても切り話せない、と…。

一方、アメリカ国内でも民間による宇宙競争が始まっていた。もちろん先頭を走るのはイーロン・マスク氏のスペースXだが、ライバルとして登場したのがジェフ・ベソス氏率いるアマゾンだ。澤岡名誉学長は2社が切磋琢磨していると語る。

大同大学 澤岡昭 名誉学長
「あまり日本では知られていませんが、ベソスさんは私財を1兆円以上この宇宙産業につぎ込んだ。それで作った会社が素晴らしいロケットエンジンを作った。アメリカ国内でマスクさんと競り合っている。ベソスさんの会社が作ったエンジンが凄く良くて政府の新しいロケット(バルカン)に搭載されることになった」

日本のロケットは高性能を求めて高価な水素を燃料としているが、マスク氏とベソス氏のロケットエンジンは低価格のメタンを燃料とする。運用に差し支えないパワーと性能に割り切ることでコストを大幅に下げた。

大同大学 澤岡昭 名誉学長
「アマゾンは(ロケットエンジン開発を)ずーっと秘密にしていた。それで数年前突如として実験に成功したよって出てきた。ベソスさんはアメリカで非常に人気がない。秘密主義だから。対してマスクさんはオープンですから凄く人気がある。これからトランプさんの政権のもとベソスさんがどうするのか非常に興味がある…」

とにかくこの二人のメタンを使った低コストロケットが世界の主流になるという。因みにアマゾンの宇宙ビジネスはエンジン開発に特化し、ロケット製造も打ち上げもしない。

「お金を出せば(宇宙に)行ける時代がくる? …大反対です」

アメリカでは政府が出資する月面着陸プロジェクト『アルテミス計画』が始まっている。
2025年 有人宇宙船、月周回
2026年 女性宇宙飛行士、月面着陸
2028年 日本人宇宙飛行士、月面着陸
1970年代に月面着陸を果たしたアメリカがなぜ今また月なのか…。
中国でも今年月の裏側の土を採取し世界で初めて持ち帰った。また2030年までに宇宙飛行士の月面着陸を計画している。
中国に関しては月の資源の獲得を目論んでいると小原凡司氏は言う。

笹川平和財団 小原凡司 上席フェロー
「中国は地球上の資源がほぼアメリカに抑えられていることに不満がある。宇宙の資源は静止衛星のポジション含め早いもの勝ち…。後発組の中国は月の資源は先に抑えたいと思っている…」

また重力が弱い月からはロケットが打ち上げやすいため、将来的には月を中継基地にして火星などに物資を送ることも視野に入れているという。
さらに月の南極付近には水があるといわれているので、基地の建設も考えられるという。

笹川平和財団 小原凡司 上席フェロー
「月に基地を作る場合は、3Dプリンターを持って行って月の資源を使って基地を作る。発電にはヘリウムストリームのようなものがあって核融合させて電気を作る…。発電は月でしてそれをハイパーマイクロウェーブで地球に送る…」

話はSFチックに展開するが、イーロン・マスク氏は2年後には火星に有人飛行すると公言する。彼が言うと妄言には聞こえない…。

大同大学 澤岡昭 名誉学長
今、月が注目されているのは水なんです。もし水があれば電気分解して酸素と水素ができる。酸素があれば生活できる。水素があれば燃料になる。火星に行くのにも使える。アポロ計画の時は水は発見できなかった。それがこの頃色々調べるとどうもあるらしいと…。その水がどこにあるか…。国際条約ではどの国も月を領有できないんですが、アメリカがとんでもない解釈をしまして、国としてはやらないが民間がやるのはご自由に…って」

これにより民間企業が早く月の水のある鉱区を見つけて押さえるという動きが始まった。実はこの解釈には日本も追随し、経産省が早く唾をつけろって民間企業に促しているという。とにかく水を押さえたものが月を制するようだ。
そして、月の次に目指すは火星だ。火星は今世紀中に人類の手が届く可能性がある唯一の天体だ。

科学ジャーナリスト 寺門和夫氏
「火星は人類が行く最終目標地点。それ以上遠くの惑星には(今世紀中には)行けない。(中略)月は人が住めませんが、火星は3分の1ですが重力もあるし大気も若干あるので地球に似ている…」

ますます話がSFになってきたが、月旅行までならかなり現実的になってきてはいる。しかし、そこに澤岡名誉学長は苦言を呈する。

大同大学 澤岡昭 名誉学長
「(気軽に月旅行ができるように…)そうなって欲しくないと思っています。一人の人間を宇宙に飛ばすためにもの凄いエネルギーが必要。地球環境考えたら興味や遊びで宇宙なんて(許してはいけない)…。宇宙に行く人は使うエネルギーに見合うだけの植林をするとか…。それができない人は行っちゃいけない。お金を出せば行ける?…大反対

(BS-TBS『報道1930』12月4日放送より)

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