44年ぶりの「戒厳令」に韓国社会が揺れています。「戒厳令」とはどのようなもので、今回、踏み切った背景とは?
■“政治活動の禁止”や“報道統制”も…韓国の「戒厳令」とは
戒厳令とは一般的に、「非常事態」だとして通常の法律の効力を部分的に停止するもので軍事力によって民主的な政治活動や市民生活を制限する措置のこと。
韓国では「戦争に準ずる非常事態」などに大統領が「非常戒厳」を宣言できることが憲法に定められています。
「政治活動の禁止」や「報道統制」などの措置が取られ、「戒厳司令部」として軍が強力な権限を持ち、令状なしの逮捕も可能となるんです。
そもそも韓国で戒厳令が必要になる局面としては、北朝鮮との戦争が想定されているとみられます。
今回、尹大統領が戒厳令を正当化したのは「野党議員が北朝鮮とつながっていて、国家転覆の脅威から守る」という論法でした。
今回、戒厳令を巡る攻防の現場となったのが、韓国の国会議事堂です。
戒厳令は「国会で過半数の議員が要求したときには解除しなければならない」ことも憲法に定められていて、今回は、この規定に基づき、国会に集まった議員の議決によって戒厳令は葬り去られました。
■「これ以上失うものはない」尹大統領が「戒厳令」に踏み切ったワケ
一方で、44年前、戒厳令のもとで軍の弾圧により166人の市民が犠牲となった光州事件の際には、軍が有力な政治家を自宅に軟禁し、国会を占拠するなどして、その機能を封じたため、国会の議決によって戒厳令を解除することはできませんでした。
今回、尹大統領も同様のシナリオを描いていたとみられ、軍を国会に向かわせたほか、与野党の有力議員を逮捕しようとしていたことも明らかになっています。
しかし、いち早く議員が国会に駆け付けて戒厳令解除の要求を議決。
市民らも街頭に出て抗議の声を上げる中で、軍は強硬手段に出ることはなかったのです。
そして、尹大統領は戒厳令にあたって国防相ら一部の関係者にしか情報を共有せず、戒厳司令官を務めた陸軍参謀総長も、大統領の会見を見て初めて知ったと証言していることから、そもそも国会封鎖に向けた準備は整っていなかったようです。
ではなぜ、そんな状況で「戒厳令」に踏み切ったのか?
韓国メディアは、尹大統領の支持率が大きく落ち込んだほか、株価操作などを巡る夫人への様々な疑惑などで政権が立ち行かなくなると悲観し、「これ以上失うものはない」という意識で賭けに出たとの見方を報じています。
韓国政治に詳しい慶應大学の西野教授は、「元検事総長の尹大統領は周囲に十分な根回しなく一度決めたら突き進むタイプ。今回の独断にも軍が従うと考えたのだろうが、民主化から40年が経過する中で軍人の意識は変化し、さらに国民も過去の経験から戒厳令への嫌悪が根強い。そういったところを見誤ったのでは」と指摘しています。
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