ロシアの侵攻が続くウクライナで、ゼレンスキー政権が北大西洋条約機構(NATO)加盟を望む姿勢を改めて打ち出し、以前より現実的な構想を示している。最大の支援国である米国で来年1月、停戦の仲介に意欲的とみられるトランプ次期大統領が就任することが背景にある。ただ、NATO側は慎重姿勢を崩さず、展望は開けていない。
「NATO加盟の代替案に甘んじるつもりはない」。ウクライナ外務省は12月3日の声明でこう訴えた。しかし、3~4日にブリュッセルであったNATO外相会合では何の進展もなかった。
NATOは今年7月の首脳会議の共同宣言で、ウクライナの加盟を「不可逆的な道」と表現している。だが、具体的な道筋は示していない。
欧米の集団防衛組織であるNATOは、北大西洋条約第5条に基づき、加盟国への攻撃を全体への攻撃とみなして集団的自衛権を行使する。仮に戦時下のウクライナが加盟すれば、NATO全体も戦争に巻き込まれるおそれがある。これが加盟への障害となっている。
この点を踏まえ、ゼレンスキー大統領は12月1日、条約第5条について、ウクライナ領土のうちロシア占領下にある地域には「適用されない」との考えを首都キーウ(キエフ)での記者会見で述べた。先に、ロシアに支配されていない地域を「NATOの傘」の下に置く一方、被占領地域は外交で取り戻すとの構想も英メディアで明らかにしている。
これらにより、NATO側に対し、即座にロシアと交戦するような事態にはならないとのメッセージを送り、加盟交渉のため柔軟に対応する姿勢を示した。
だが、現状では奏功していない。NATOのルッテ事務総長は4日、「(ロシアの攻撃で損傷した)インフラの復興支援が優先事項だ」と述べ、ウクライナを早期に加盟交渉へ招く可能性を否定した。
加盟国間の温度差も指摘されている。米メディア「ポリティコ」は10月下旬、NATO当局者らの情報として、ウクライナの加盟交渉に慎重な7カ国を挙げた。戦争に巻き込まれる可能性を危ぶむドイツや米国、ベルギーなどが消極的で、親露的な首脳が率いるスロバキアやハンガリーは加盟に反対しているという。【ベルリン五十嵐朋子】
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