中国で無差別殺傷事件が相次いでいる。19日には湖南省で小学生らの列に車が突っ込み、現地メディアによれば11人が搬送された。また11日にも広東省で車が暴走、35人が死亡した。現地の人々も「非人道的だ。社会への報復なのでは」と不安の声を口にするが、中国外務省は、外国人の死傷者はいないとした上で「中国は世界で最も安全だ」と強調した。そんな中、ネットでは別の問題にも関心が高まっている。それが、外国人の出国禁止だ。ウォール・ストリート・ジャーナルは、中国で勤務する外国人ビジネスマンらが出国禁止になるケースが多発していると報じている。
【映像】厳しい規制の反動?中国で10万人の大学生が「小籠包」を食べに大移動
外国人が出国禁止になった背景と言われているのが「反スパイ法」。国家の安全に危害を与える活動を摘発する法律が去年改正され、スパイの定義が拡大。政府による取締りが強化されているという。このような事態に、ネットでは「もう中国でビジネスは無理だ」「観光だろうと中国に行くこと自体がリスク」という声まで出始めている。『ABEMA Prime』では中国事情に詳しい社会学者、また中国で資格を剥奪され国を逃れてきたという人権派弁護士を招き、中国の現状を考えた。
■中国の各地で無差別殺傷事件…犯行の理由は?
中国で続く無差別殺傷事件。社会学者で東大院教授の阿古智子氏は、湖南省で起きた事件の背景について「車で突っ込んだ犯人は所得が低いなどではなく、離婚訴訟に不満があったと聞いている。当局の発表では個人的な問題とされているが、司法制度や裁判が不公正だと感じた可能性もある」と述べた。また、職業訓練校で学生らを刃物で切りつけ8人が死亡した事件については、「(犯人は)16時間働かされ給与が未払いだった。労働法の進歩を求める手紙を書いていた。政府の法律や政策、システム、司法のあり方に意見があるような人たちが絶望した中で、無差別にそういった事件を起こした可能性がある」と説明した。
人権派弁護士ながら、中国で資格を剥奪されて来日した李金星氏は「悲しいことだ。我々の国でこんな事件が起きるとは思わなかった。中国で20年間働いた弁護士としては悲しく思う。中国社会の矛盾が激化していることを露わにしている。法律で解決できるはずの問題が解決されず、心理的にも経済的にも人々は安心感を欠いている。人々が自分を愛していないし、他の人も愛していないという形になっている。多くの矛盾、社会的な紛争は法律を通して解決できるはずだが、中国の法律の制度は日本のような形にはなっていない」と指摘した。
中国国内における法の運用について、李氏は「中国のGDPが成長し、市場も拡大する中で法律に対する要求が高まっている。しかし、現状の法律制度は未完成。個人の財産や自由を保護するための法制度が不足している」と急速に発展した経済に比べて法律が追いついていないという問題点を挙げた。
また「過去の40年間、中国は非常にプラスのイメージとして世界に登場しているが、最近になって、急に経済が悪化しているし、またこういった殺人事件が急に増えているということで、みんなが全土に対する失望感や不安を非常に抱えている」と付け加えた。
■今なお厳しい中国の規制「4、5人集まるだけで警察が来る」
中国では、人々が集団で行動することに対する政府の規制が依然として厳しいままだという。阿古氏は「普通、同じような問題意識を持つ人が集まると、ネットワークを作ったり組織を作ったり、あるいはデモを行ったりすることが考えられる。しかし、中国では人々が繋がることが厳しく制限されている。だから4、5人で集まるだけで警察がすぐに来てしまう。知識人など、マークされている人が一緒にご飯を食べるだけでも、警察が来て約束のレストランに行けなくなる状況だ」と語った。
「このような環境では、人々が抱える悩みを誰かに相談することも難しくなる。表現することでストレスを緩和したり、問題解決に向けて建設的に動いたりすることもできず、とにかく取り締まる方向にばかり進んでいる。人権弁護士が悩みを聞き、サービスを提供し、政府機関に働きかけていたが、今ではその弁護士たちも逮捕され、役割を果たせなくなっている」と伝えた。そんな規制に対抗してか、大学生10万人が小籠包を食べに行こうと自転車で夜中に大移動するという行動もあった。
李氏も「総じて見れば中国国内では規制がどんどん厳しくなっている傾向が見られる」と同調する。「コロナ禍で、国民の情報に対する規制の方法が増大化している。中国では汽車、電車、バスに乗る時は身分証明書の承認が必要だが、誰でもそういう状態に慣れるようになった」と、コロナ禍によってさらに厳しくなったものの、それを受け入れてしまっている現状があるという。
■中国から出たくても出られない?いきなり拘束される例も
事件が多発し、経済状態も悪化する中国において富裕層に限らず、国を出ていくという動きも広がっている。李氏は「国を出ようとしている人が多く存在している。日本に来ている中国人の多くは、知識人や企業家が過半数だ。弁護士や大学教授、記者などだ。こうした人々の交流は、経済文化の交流として重要だと考えている」。また阿古氏も「日本の投資環境は効率が悪いと指摘されている。それでも来る理由は言論の自由だ。中国では禁止されている活動が日本でできるし、中国で討論したらすぐに警察が来そうなテーマでも自由にディスカッションができる。中間層だと子どもの教育や競争を避けるために日本に来る人もいる」と加えた。
中国国内にいる外国人が出国できないという問題も生じていることについて、拘束された経験もある阿古氏は、「私は以前、中国で調査をしていた時、地方政府の腐敗を追及していた。帰ろうと思って夜行列車に乗ろうとしたところ、連行され一晩留め置かれた経験がある。反省文を書かされた」。また、昨年3月に拘束されたアステラス製薬の男性社員についても「その方から『もうこの国には結構、絶望しました』と電話をもらった。情報を扱っている人はずっと見張られているから、例えば大使館に逃げ込もうとしてもその途中で拘束されることもある。何か脅迫されて『お前が出国すると捕まえるぞ』と圧力をかけられれば帰れない。だから軟禁状態というか、その代わりに何か情報を出せと言われたりする」と言及した。
(『ABEMA Prime』より)
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